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ヒロイン。

憂鬱な冬の朝。
カーテンの外を見ると、ほんのり道路が白い。
起きるだけでも嫌なこの季節。
布団から出て、眠い目を擦りながら、服を着替える。
今日も何一つ変わらない1日が始まる。

いくら外に出たくなくても、僕には大学をサボらない理由があった。
そう、君に会えるから。


今日みたいに骨まで凍りそうなそんな日に僕は君を見つけた。
「おはよう~!ねぇねぇ!雪すごいきれいじゃない!?」
少し離れた席の方で、友達同士で話している集団の中に君はいた。
集団の中でひときわ輝くその姿に
雪が綺麗と笑うその笑顔に

僕は、一目惚れをした。

君の毎日に僕は似合わない。
あまりに釣り合わない。
教室の後ろの方で、存在感を消しているような僕と、
いわゆる「1軍」のグループの中で、一番綺麗な君。
僕にとって君は高嶺の花だ。

別にいい。僕といても幸せにはなれない。
僕がついたため息は行き場を失い消えていった。


講義が終わって外に出ると、さっきよりも明らかに雪が積もっていた。
「わ!もっと積もってる!」
雪にはしゃぐ君を見て、冬も悪くないな、なんて思う。
「でもさんむいね」
あぁ、寒いって感覚はあるんだ。
君の純粋な反応全てが心から愛おしいと思った。

ある日、僕に人生の一大チャンスがまわってきた。
ひょんなことから君の連絡先を手に入れるチャンスが巡ってきたのだ。
友人経由で追加されたクラスのグループLINE。
そこに君はいた。
追加しようと思えばすぐにできてしまうところに君はいる。
でも、僕にそんな勇気はなかった。
「意外と雪積もったね」
なんて、他愛もないLINEができる関係になんていつなれるのだろうか。
そもそも、そんな日が来るのだろうか。
僕は、送信ボタンが押せないどころか、友達追加すらできずにいた。

君に好かれるような人間になれたら、
もっと自分に自信がつけば、
今の状況は何か変わるのだろうか。


どんな映画でも、小説や音楽でも
そのヒロインには全て君を重ねてしまっていた。
転びかけた君に手を差し伸べて、
「ありがとう」なんて言ってもらえたら。
君に会っていないときでも、僕の頭の中はすでに君でいっぱいだった。

君の好きな食べ物も、誕生日も全部知っているけれど、
君に好きな人がいるのかとか、どんな人が好きなのかとか、肝心なことは何も知らない。

膨らむのは僕の想像と、君への想いばかり。

窓の外は相変わらず雪が降り続けている。
君も今同じ雪を見ているのだろうか。
そして今、誰のことを考えているのだろうか。
誰とこの景色を見たいと思っているのだろうか。

答えが返ってくるわけでも、
僕が急にいい男になるわけもでもなく、

君への想いは、ただひたすらに僕の中で積もっていった。

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