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日常革命。

朝7時。
いつもの時間にアラームで目が覚める。
すごく寒い。出たくない。
ベットの枕元にあるライトスタンドの電気を消して、空になった加湿器に水を補充する。
「起きなきゃ…」
そう呟いてベットから出ると、洗面台に向かった。
1本だけになってしまったピンクの歯ブラシを見ながら、少しだけ切ない気持ちになる。
そんな気持ちを誤魔化そうと、最近ハマっているバンドの音楽聞きながら、朝の支度をする。
「そんな曲ばっかり聞かないで、僕らの曲を聞いてよ」
そう言って少し拗ねたような君の顔を思い出した。

彼は、売れないバンドマンだった。 


                           ***


周囲の猛反対を押し切って付き合っていた。
「もう大人なんだから、好きなだけじゃダメなんだよ」
「まともな収入もないのに…」
「これからのこと、ちゃんと考えてるの?」
周りの大人はみんなそう言った。

それでも人一倍優しくて、笑顔が誰より素敵で。
泣き虫な私にも、わがままな私にもちゃんと向き合ってくれた。
会えない日が続いても、心配させないように寄り添ってくれた。

私はそんなあなたが大好きだった。


                            ***


「ねぇねぇ、今日は何見る?」
「んー、あ!これ見たい!」
そう言って私の仕事が休みの週末は、よく一緒に朝まで映画を見た。
コンビニで買ってきたお酒と、スナックをつまみながら。
私より先に泣いてしまうあなたも、時々1番いいところで寝てしまうあなたも、もう二度と見ることは出来ない。 

お金はなかったけど、それでもあなたとの毎日は楽しかった。
お互いを大切に思い合う毎日はすごく、すごく暖かかった。


                            ***


ふと、涙が溢れそうになって服に顔を埋めた。
すると大好きなあなたの匂いがした。
優しくて柔らかい、まるであなたを表したようなこの匂い。
そうか、この服あなたと一緒に着てたんだ。
「そんなの買う余裕ないのに」と私が言うと、「2人で着れば半額だよ?」と自慢げに服を見せる姿が思い浮かんだ。
涙を堪えようと顔を埋めたのに、余計に涙が溢れ出した。


あなたとの日々、あなたとの部屋、あなたとの微睡みもすべて。
明日からは、元彼と過ごしたなんでもない日々になっていく。
笑い合ったり、ふざけ合ったり。
喧嘩した日には背を向けて眠ったり、わがまま言ったり。
お互い傷つけあって慰め合ったり。
そんな何気ない時間も戻っては来ない。
あんなに大好きだった時間と思い出が、少しずつこれから薄れていくのだと思うと耐えられなかった。


ねぇ、お願い。
あの頃みたいに後ろからそっと抱きしめてほしいの。
わがままを言っていいなら、別れたくなんてない。

ねぇ、お願い。
もう嫌いだなんて言わないで?
そんな吐き出された言葉には耐えられないから。


愛してると言うより、あなたがいないとダメだった。
目の前の全てが幸せだった。


そんな幸せを失う悲しい「革命」を、受け入れるしかない現実に、また胸が傷んだ。

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