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家族介護者の支援について、改めて考える⑪「家族介護者への心理的支援」について、繰り返し伝える必要性。

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 初めて読んでくださっている方は、見つけていただき、ありがとうございます。
 私は、臨床心理士/公認心理師越智誠(おちまこと)と申します。


家族介護者の支援について、改めて考える

 この「家族介護者の支援について、改めて考える」では、家族介護者へ必要と思われる、個別で心理的な支援について、いろいろと書いてきました。

 今回、ある書籍を読んだことで、改めて「家族介護者への個別的な心理的支援」、もう少し短く言うと「介護者相談」について考える機会があったので、こうして伝えることにしました。

「老いの福袋 あっぱれ!ころばぬ先の知恵88」 樋口恵子 

「ある書籍」とは、介護保険の成立にも関わった樋口恵子氏の本です。

 樋口氏が、88歳の時に書かれた本で、この年齢でも、社会的にも現役であることの凄さ、さらには、年を重ねるとはどういうことなのか?それを、当事者として、表現すること自体に勇気が必要と思われることまで、おそらくは、後に続く人間にも、人類の貴重な記録として残してくれているように思いました。

 例えば、樋口氏が、突然、老いを実感したのが、70代半ば。和式トイレで立てなくなった、というエピソードを残してくれています。

 老いとは、こんなふうに人に不意うちを食らわせるものなのかと、おおいにショックを受けました。昨日できたことが、ある日突然できなくなる。それが、「老いる」ということなのですね。まさに「老いるショック」。

 そして、70代から80代にかけて、経験者でなければ語れない実感も、語ってくれています。

 私は常々、「70代は楽しい老いの働き盛り」と主張しています。いまの70代は、まだまだ元気です。80代以降を明るく健やかに過ごすためにも、70代までは「無茶はしないけど、少々の無理はしよう」くらいの気持ちで、前向きにはつらつと過ごしてほしいもの。70代に仕事をすることで、その先の経済的不安もやわらぎます。

 同時に、「75歳を過ぎると、体にガタが来る」という表現もしている上に、専門用語に対しても、こうした言い方をしています。

 最近は高齢者に関する言葉で、「フレイル」とか「サルコペニア」といった難しいカタカナ用語が増えていて、ちょっとわかりにくいと感じますね。(中略)
 でも、私は、わかりやすく両方合わせて「ヨタヘロ期」と呼んでいます。

 個人的には、「フレイル予防」といった言葉まで聞くようになると、「老化すら許されないのだろうか」といった気持ちになっているところもありましたので、当事者の方のこうした言葉の方に、説得力を感じました。

介護者について

 渦中にいるときは正直、パニック状態でした。母にも不自由な思いをさせていたかもしれません。母は苦情も言わず、私と娘の身を案じながら亡くなりました。そのときの経験が、その後の私のテーマになったわけです。
 私が介護を経験した1970〜80年代当時、女性は介護離職をするのが当たり前でした。介護の担い手は「嫁」が最大多数。私のまわりにも、女性初の管理職に登用されたのに職場を辞めざるをえなかった人、子育て後、研究者の道に再挑戦したものの義母の介護のために留学先から呼び戻された人など、女性であるがために人生の夢を捨てなくてはいけない人がたくさんいました。
 そのような社会を、なんとか変えたい。
 男性も女性も等しく自分の人生を生き、なおかつ高齢者が安心して幸福に老いることができる社会にしたい。その強い思いが、私の活動の原点となったのです。

 こうしたことから、介護保険の成立に尽力された方ですので、それは、とても敬意に値することなのは間違いありません。同時に、介護者に関しても、気配りをされています。

長い自分の老後人生のためにも社会のためにも、介護離職には絶対に反対します。
 悲劇を繰り返さないためにも、堂々と公的サービスや民間サービス、いろいろな人の力を借りるようにしていただけたらと思います。
 そして、一人で抱えこまないことです。場合によっては、「男性介護者と支援者の全国ネットワーク」などを利用するといいかもしれません。介護に関する情報提供や、会員の交流会などもあります。
 同じ経験をしている人たちと悩みを分かち合い、情報を得ることで、解決できる問題もあるはずです。

 こうした介護者支援に関しても、確かに「王道的」な言葉ではあるのですが、それでも有効な介護者支援に結びつくことばかりではないのが、介護者支援の難しさだと思っています。

 例えば、これだけの経験と経歴のある方でも、介護者に対して、専門家による個別で心理的な支援(「介護者相談」)の必要性に関しては、少なくともこの書籍では、一言も触れられていません。

子育て支援

 ごく一例に過ぎませんが、子育て支援として、養育者対象の個別な相談窓口は、珍しいものではありません。

個人面接…子育てに限らず、心のモヤモヤを言葉にしてみませんか?

 

 「児童相談所」には、児童心理司が働いていることが義務付けられています。

 そして、児童心理司の職務内容も、心理的なアプローチは不可欠なものになっています。

子供、保護者、関係者等に心理療法、カウンセリング、助言指導等の指導を行います。


 ケアを担う役割の人に対しては、個別で心理的な支援不可欠であるのは、「常識」のようになっているはずなので、やはり、高齢者介護に関わる家族介護者に対しても、「個別で心理的な支援」が必要なのは、当然ではないかとも思われます。

高齢者虐待防止法

 正式名称は、「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」という名前のはずですが、この中に、こうした条文があります。

第二章 養護者による高齢者虐待の防止、養護者に対する支援等
(相談、指導及び助言)
第六条 市町村は、養護者による高齢者虐待の防止及び養護者による高齢者虐待を受けた高齢者の保護のため、高齢者及び養護者に対して、相談、指導及び助言を行うものとする。

相談窓口

 この条文を素直に読めば、市町村に「介護者相談」の窓口を設置するのは、法律による義務化目標だとも思えます。

 それでも、例えば都内の23区内でも、家族介護者の心理的支援を主な目的として「相談窓口」を設置している区は、10年ほど前、大学院で学び始めた頃は、半分にも満たない状況でしたが、今も、その状況は、それほど変わっていないように思います(もし、私が知らないだけで、相談窓口が増えているということがありましたら、すみません)。


 伝統のある電話相談は、業務終了しています。

平成28(2016)年9月26日  介護支え合い電話相談室 業務終了

家族介護者への「個別な心理的支援」の必要性

 このnoteでは、この「個別な心理的支援」必要性は繰り返し、お伝えしてきました。

 介護は、いつまで続くか分からず、その上、その困難さや大変さについては個別性も強いので、家族会や認知症カフェだけでは支援しきれない場合もあると思います。

 さらに、介護環境などの改善が難しい場合は、あとは心理的な支援によって、厳しい状況を乗り切るしかない、という現状があるように思います。

 改めて、「家族介護者への個別の心理的支援」は必要だと考えられます。

コロナ禍の現在

 そして、今は、またコロナ禍という新しい困難が加わっています。

 2020年はコロナ感染症の影響により、介護疲れによる女性の殺人が増えています。
 多くの女性は普段の生活の中で、人とつながり、話しをすることで心の安定を保っています。
 それがコロナ感染症の影響で、人と会う機会が減り、ストレス発散が上手くできず心身のバランスが崩れて介護殺人にいたる女性のケースが増えたと考えられるのです。
 ちょっとした散歩、ちょっとしたコーヒータイム、ちょっとしたショッピングや会話など、そんな気分を変える瞬間を自分のためにつくってあげることが必要です。

 このコラムでは、このような分析がされてるのですが、これは女性に限ったことではないと考えられます。

 そうであれば、個別での相談の窓口があり、心理の専門家による、適切な関わりがあれば、少しでも負担感が減るはずです。今のコロナ禍のような状況に備えて、対面ではない「介護者電話相談」も必要になるのでは、と思います。

 この20年ほど、介護保険の運営が開始された後も、介護殺人や介護心中が決定的に減少しないのであれば、家族介護者(ケアする人)に対して「専門家による個別の相談窓口」の設置は行うべきではないかと思い、そのことをずっと、お伝えしてきました。

 ただ、今回、長年、介護業界にも関わってきた方が、介護者支援について語る時に、家族会などについて触れていたり、ここ何年かは認知症カフェに関して語られることも多いのに、個別的な心理的支援としての「介護者相談の窓口」の設置に関しては、全く触れていないことを知りました。

 今回もそうですが、これから先も繰り返し、しつこいと思われる時があったとしても、「介護者相談の窓口」(個別な心理的支援)の設置の必要性は、訴えたり、伝え続けないといけないと、改めて思っています。





(他にも、いろいろと介護について書いています↓。よろしかったら、読んでいただければ、うれしいです)。




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