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「介護booksセレクト」㉑『なぜ、認知症の人は家に帰りたがるのか 脳科学でわかる、ご本人の思いと接し方』

 いつも読んでくださっている方は、ありがとうございます。
 おかげで、こうして書き続けることができています。

 初めて読んでくださっている方は、見つけていただき、ありがとうございます。
 私は、臨床心理士/ 公認心理師越智誠(おちまこと)と申します。


「介護books セレクト」

 当初は、いろいろな環境や、様々な状況にいらっしゃる方々に向けて、「介護books」として、毎回、書籍を複数冊、紹介させていただいていました。

 その後、自分の能力や情報力の不足を感じ、毎回、複数冊の書籍の紹介ができないと思い、いったんは終了しました。

 それでも、広く紹介したいと思える本を読んだりすることもあり、今後は、一冊でも紹介したい本がある時は、お伝えしようと思い、このシリーズを「介護booksセレクト」として、復活し、継続することにしました。

 今回は、認知症の方の行動や思いについて、脳科学の視点からの対応が述べられていて、確かに新鮮な視点だと感じられたので、紹介させてもらうことにしました。

『なぜ、認知症の人は家に帰りたがるのか  脳科学でわかる、ご本人の思いと接し方』 恩蔵絢子・永島徹

 この書籍は、脳科学者の恩蔵絢子氏が、認知症の介護をしているときに出会う様々な事例に関して、解説をし、ソーシャルワーカーで介護の専門家である永島徹氏が、さらに補足をする、というスタイルで出来ています。

 これまでも、脳科学の視点から認知症の行動心理症状(周辺症状)へのよりよい対応の仕方などは明らかにされてきています。けれど、やはりそれは、認知症の症状に焦点が当てられたものであり、認知症をもつ人の暮らしに焦点が当てられたものではないように感じていました。
 そのような中、出会えたのが「記憶を失っても、その人らしさは失われない」といった恩蔵絢子さんの言葉でした。私は恩蔵さんの著書を読み、これまでとは明らかに違う希望を感じ、人間の脳の働きと可能性を知ることができました。このことから、ぜひ、恩蔵さんに本書の事例を脳科学の視点で解説してもらいたいと思いました。

「あとがき」で、永島氏が述べている、こうした過程があるのであれば、それは、これまでとは違う視点で語られる可能性が高くなると思いました。

事例への対策

 そして、確かに、その「成果」が出たように思えるところも少なくありませんでした。

 例えば、「事例2 なぜ、なぜ、同じことを何度も聞いてくるのか。」については、これまで、何度も語られてきたことです。私も、数限りなく聞いてきた記憶がありますが、今回の説明に関しては、他ではあまり言われたことがないような指摘が含まれていたと思います。

 今までのその人だったら決してしないようなことが起きると、家族も慣れるまではついつい驚いた顔をその人に向けてしまいます。悪気はないのですが、ご本人にとっては、ただでさえ不安がある中で、人からびっくりした顔を向けられると二重に傷つくことでしょう。

(「なぜ、認知症の人は家に帰りたがるのか」より。以下の引用も、基本的には、すべて同書より)

 今までは、その「繰り返す理由」への説明はされてきました。記憶力に障害が出てくるために、何度も同じことを聞いてくるのではないか、という言葉です。

 ただ、その時に、その繰り返される言葉によって、その周囲の人がどんな反応をしているのか、そのことによって、本人にとって、どんな影響があるのか。少なくとも、専門家が、こうした語り方をしたのは、あまり記憶にありません、

 つまり、記憶障害によって、失敗してしまうことによって、周囲の人に驚かれる。それは、失敗によって恥ずかしさがある上に、傷つく、という2重の辛さを味わっている可能性があるという指摘です。

 確かにそうなれば、もう失敗はしたくない、という気持ちも高まるのは自然かもしれません。それが、「同じことを何度も聞いてくるのか」の理由の一つにもつながるのでは、という推測です。

 ただ「忘れて何度も聞いている」のではなく、「自分が言われたことをちゃんとやり遂げられるか不安で、どうしてもやり遂げたいからこそ、失敗しないように何度も聞く」という切実な気持ちがあるからなのかもしれません。「これをやっていいの?」「これでいい?」と何度も作業について確認をとるのも、失敗したくない、自分に能力があることをわかってほしい、という気持ちの表れでしょう。
 アルツハイマー型認知症になると、自信を失いやすい。だから周りの人が彼ら・彼女らの自尊心をいたわることが大切で、それができたら生活が安定していきます。

 こんなふうに思えると、その繰り返しに対しても、実際に何十回も同じことを聞かれるのは、一種の拷問に近い部分もありますが、それでも、少し、その見え方が変わってくるかもしれません。

対策としては、周りの人が、「失敗しても大丈夫、あなたのことを変わらずに大事に思っている」というメッセージを出し続けることが助けになると思います。

 これは、出来たら、誰かがそばにいて、困ったことに対してすぐに対応できる、という体制をとった上での対策なので、こうした細やかな介護になると、介護者の負担が重くなるのは間違いありません。

アルツハイマー型認知症の人へのアシストでは、たくさんの人にかかわってもらうことが大事です。いつもだれかについて歩かれて、自分の自由がまったく取れなくなってしまえば、人はだれでも苦しくなってしまうでしょう。

 多くの人が関わる介護は、その体制をつくるのが、かなり難しく、ある意味で「ぜいたくな介護」ではあるのですが、目指すべき状態ではあると思います。

少しずつ多くの人がかかわって、お互いにアシストしあえるといいでしょう。大事にするべきは、認知症の人の自尊心だけでなく、すべての人の自尊心です。

 こうして、介護者も含めて考えられたことを、きちんと文章にするのは、大事だと改めて思います。そして、確かに、この対応に関する話は、これまでとは少し違う印象を持ちました。

本人の気持ち

 この書籍は、脳科学を基本としながらも、認知症が、どのように作用し、どんなふうに感じているのか。そんな本人の気持ちを可能な限り、理解しようとする試みにも思えます。

 例えば、認知症のかたが、季節外れの服装をする場合があり、暑いのにたくさんの服を着込んでしまう場合、これまでは、感覚的な機能がうまく働かなくなっているから、という説明は数多く聞いてきましたし、それで確かに納得がいく部分もありました。

 ただ、そこに、本人の気持ちまで関係しているのではないか、といった推測は初めて聞いたかもしれません。

実は自信を失ったり、孤独を感じたりして心がさびしいと、体の方も室温を実際の温度よりも低く感じる、という研究があります。すなわち、心細さで体がなんだか寒く感じて、服をたくさん着ている可能性があるのです。

 さらに、「事例22 なぜ人物がわからなくなるのか」では、本人の気持ちの推測から、介護する人への間接的な支援につながり得る分析をしています。

 同じくらいの年の女性、似たような体つきの女性が、みんな娘に見えてしまう。娘さんは、「え?私、横にいるよ!?」と驚いてしまうかもしれませんが、それは実は「どの人も娘さんに見えてしまうほど、娘さんが大事だ」ということを表しているのです。

名前が呼べなくなったとしても、ちゃんと親しみを持っていることが、その人物がその人の人生の中で、どれだけ大事だったかを表しているのです。 

楽しい雰囲気

 そして、大変な介護環境の中ではつい忘れがちで、実は介護者であれば、いつも薄々感じていることを、改めて気がつかさせてくれるような指摘もあります。

アルツハイマー型認知症の人に問題を伝えるためには、楽しい雰囲気の中で伝えるということです。「今はエアコンを入れておかないといけないよ」という言葉も、楽しい雰囲気の中で伝えたら、「そうだねえ」と納得してくれるかもしれません。

アルツハイマー型認知症の人でも同じで、感情がたくさん動くような経験をすると、海馬にたくさん刺激が届くので、そのことは他のことよりは記憶に残ることがあります。

不安という感情は伝わってしまう。そして、不安の中よりも、楽しい雰囲気の中の方が言いたい内容は正確に伝わりやすい、ということを覚えておきましょう。


 これまでの認知症への対策といったことをテーマにした書籍や話などに違和感がある方には、おすすめしたい気持ちになります。

 介護の場面で、よく遭遇するような34の事例を取り上げているのですが、その対応については、これまでとは少し違う印象がありますので、できたら、手に取っていただき、ご自分の困難を感じている事例についてだけでも、読んでいただければ、と思います。


(他にも、いろいろと介護について書いています↓。よろしかったら、読んでもらえたら、うれしいです)。



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