「介護時間」の光景⑰「雑草」 7.18.
毎回、同じような話で、申し訳ないのですが、今回の前半は、2002年、18年前のことです。
私は、母親と、妻の母親の両方に介護が必要になり、妻と二人で介護を始めました。途中で、私自身が心臓の発作を起こしたこともあって、母親には病院に入ってもらい、義母(妻の母)を家で介護する生活になったのが2000年の夏でした。
それから、2年がたち、やっと、この生活に慣れてきた頃だと思います。それでもずっと不安は、あるままでした。
(2002年の記録です。多少の加筆・修正をしています)。
雑草
道路のわきの排水溝の上に、鉄の格子みたいになっているふたが、よくはめこんである。細長い穴がたくさん並んでいるように見える。
考えたら、その下が、どうなっているか、歩いている時だから、細かくはよく分からないのだけど、たぶん、その奥には、何かの水の流れがあるんだろうな、くらいしか意識していない。
いつものように歩いている、病院のそばの道路にも、やはりそのふたがあった。
ちょうど穴の高さに揃えるように、下の方から、緑の雑草が伸びてきていて、いくつもの長方形の穴がうまっていた。
今までも目にしていたはずなのに、今日、初めて見たような気がする。
その格子が、全部、緑でうまった方が、おもしろいんだろうか、と考えても仕方がない事を思って、通り過ぎる。
(2002年7月18日)
この日は、このあとに、母親の入院する病院に行っています。
自分で書いたメモも残っています。
「台風が来たこともあって、3日ぶりに病院に来て、午後4時55分頃に着く。
病室に入ったら、横になって目をつぶっている母がいる。
ずっと、こうだったんだろうか。
起きて、母と話をする」
『百人一首がいるのよ。
31くらいしか思い出せない』。
「どうして必要なのかは、よく分からないが、その30くらいの短歌が、紙にきっちり書いてある。それが正解なのかどうかは、私には分からなかったが、でも、たぶん合っているようで、なんだかすごいと思った」。
『いつも、帰りたい、の人。
3階へ行っちゃったのよ』
「この病室は4階だから、そういう微妙な変化があって、でも、わりとここのところ、母親は落ち着いていた。時々、病人だと思うこともあるけれど、今日は、穏やかな時間が流れて、夕食も40分くらいで食べ終わってくれたので、そんなに遅くなかった。
実家へ外出で行く話も普通にできて、それを伝えたときは、喜んでくれた。
これまで、そんな話をする余裕もなかった。外出をしようと思うような余力もなかった。やっと少しできた」
「午後7時に病院を出る。
面会時間はここまでなので。
曇ってきた。
雨が降るかもしれない」。
2020年7月18日。
それから、ちょうど、18年がたった。
昨日の金曜日には、東京都内の新たなコロナ感染者が293人で、どうやらこれまでで最も多い数字というようなニュースを知り、また不安がふくらんできていた。
土曜日の朝は、雨が降っていて、この1週間くらい、ずっと降っていて、電車に乗ったら、コロナ感染拡大防止のために窓が開いていて、水滴が外から入ってきて、ちょっと冷たかった。
人身事故のために、いつも乗っている路線は運転を見合わせていて、あわてて、違う行き方を考えて、それを一瞬ためらったのは、山手線を使わなくてはいけなかったからだ。今の感染拡大中の、東京都内の真ん中を走る電車で、土曜日とはいえ、もし混雑していたら、そこで感染してしまうのではないか、といった恐さがあった。
かなり恐かったのだけど、午前9時半の山手線は、意外と空いていて、「距離」をとるために、立っていた。ちょっとホッとした。
夕方に、また、山手線の止まる駅で待っていた。
ホームの一番端に、小学校に入る前くらいの男の子と、その父親らしき人が二人で立っていた。
写真でも撮るのかと思って見ていたら、少し遠くに新幹線が通り過ぎていった。
山手線も走っていく。
男の子は、新幹線が走っていくのを見て、本当に飛び跳ね続けて、腕を回して、うれしそうに、しばらく笑っていた。父親と思われる人も、笑っている。
感染拡大させてしまうのではないか。GoToキャンペーンで東京都だけはずして、どうして混乱させるのだろう。
ここのところ、新幹線を見るたびに、そんなネガティブなことばかりを、思ってしまっていた。
だけど、本来は、かっこいい乗り物だし、すごいスピードで通り過ぎっていっても、少しスピードをゆるめて走っていっても、「あ、新幹線だ」などと、笑い合えるはずだった。
久しぶりに、そのことを思い出した。
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