介護の言葉⑦「認知が、入っている」。
この「介護の言葉」シリーズでは、家族介護者に対して使われたり、また、介護を考える上で必要な「言葉」について、改めて考えていきたいと思います。
今回は、第7回目になります。どちらかといえば、家族介護者ご本人というよりは、支援者、専門家など、周囲の方向けの話になるかと思います。よろしかったら、読んでいただければ、ありがたく思います。
「認知が、入っている」
もしかしたら、今回は、専門家の方から、より反発が起きるような気もしています。
専門家の方々も使っているのを、何度も聞いていますが、だけど、それを聞くたびに、微妙な気持ちになる言葉です。それは、私自身の個人的な問題かもしれませんが、気になり続けていますので、今回、こうして書いてみて、できましたら、率直なご意見もお聞きしたいと思いました。
初期の、もしくは、認知症疑いの人に対して、
「認知が、入っている」
という言葉は、比較的、よく聞きます。
ただ、その使い方は、聞くたびに、何か抵抗感があります。
それは、とても個人的な、言葉に対しての細かいこだわりだけに聞こえるかもしれず、確かに、そういう側面もあると思います。
同時に、今、現場で使われている方を非難する気もありません。「認知と使うのは、認知症を略しただけ」と、抵抗感がない方は、これから後は、読まれる必要もないかもしれません。ただ、もし、よろしかったら、少しでも気になる方は、読んでいただければ、ありがたく思います。
今回は、広く受け入れられない可能性もありますが、その抵抗感は何年も感じてきたので、伝えさせていただきたいと考えました。この記事を読んで、もしも、さらに考えを広く、深くしていただければ、とてもうれしく思います。
「痴呆症」から「認知症」へ
すでにご存知のことだと思うのですが、「認知症」は、昔は「痴呆症」と言われていました。
痴呆という文字を見ても分かる通り、かなりの侮蔑的な意味合いも含んでいると思います。そして、その名称が変えられることが決まったのが、2004年のことでした。
私は家族の介護を始めたのが1999年のことでしたから(リンクあり)、病院の関係者も、たとえば年齢が高齢であれば、すぐに「痴呆ですね」と言われ、ホウキではくように、他の病院へいくように、言われた記憶もあります。それは、どこか厄介者払いに近いニュアンスで、痴呆になったらおしまい、といったようなイメージを、より強めてしまうものだったのかもしれません。もちろん、その時は、私も患者の家族に過ぎませんから、より、嫌な印象が強まっていた可能性はあります。
そして、個人的には、そうした専門家たちの態度などをみてきたせいか、痴呆症、という名称が、認知症に変わったからといって、そんなに状況が変わるとは思いませんでした。
さらに、「認知症」という名称も、不自然なものと言えるかもしれません。
認知、という言葉は、心理学で、知識を得る働き、すなわち知覚・記憶・推論・問題解決などの知的活動を総称する。ということですから、病気や症状のイメージとは、直接の関係がありません。
それなのに、「認知症」という名称になったとたん、症状名とする約束事は、今でも、かなり強引なことだと思っています。
認知行動療法や、認知心理学など、専門用語もあります。それは、認知症との直接の関係は、もちろんありません。
ですので、認知、という言葉に「症」をつけただけで、「認知症」とし、それを高齢が最大のリスクによって、引き起こされる様々な症状の総称として呼ばれるのは、自然に考えれば、あまり納得感があるものではありません。
私も、「認知症」という名称が出てきた頃に、短い言葉にして普及させる、といった意図があるとは思いましたが、それほど丁寧な説明がないまま、決まってしまった印象もあり、名称を変えるだけでは意味がないようにも思えました。その上、「認知症」という不正確な名称が、広がることで、何かが歪まないのか、という不安もありました。
(資料)「認知症という言葉が、どうして使われる様になったのですか?」
その名称変更の際、認知障害、という名称が、実は一番支持をされていたので、認知症に決まっていく過程に不透明感の印象はあるままです。認知症よりは、認知障害の名称のほうが、はるかに納得感はあります。
ただ、今になっては、言いやすさが優先されているのだと思います。
だけど、認知障害が、同じ医学用語があるという理由で退けられ、「認知症」に決まったのですが、それならば、たとえば、「精神分裂症」を「統合失調症」に変えたように、「認知失調症」といった言葉や、「認知機能障害」でもよかったのではないか、と思います。その時は、略称として「認知障害」や、「認知症」が使われるかもしれませんが、「認知が、入っている」という、元々の言葉の意味がまったく変わってしまうような使われ方は、かなり防げたように思います。
偏見への可能性
ここから先は、考えすぎかもしれません。
そして、自分自身の偏見みたいなものも、それこそ、入っているのかもしれません。
それでも、「認知が、入っている」という言葉を聞いて、抵抗感を覚えるのは、どうしても、こんな言葉が頭に浮かんでしまうからでした。
不明確な概念のあるところ、常に偏見の巣となる。
難しさを振りかざしたいわけでもなく、言葉の使い方の厳密さを押し付けたいということでもありません。
繰り返しになりますが、「認知」という概念は、今使われている「認知症」とは、直接関係がありません。もし、症状の名称とするのであれば、当初、一番支持を受けていた「認知障害」や、もしくは「認知失調症」といった言葉を使うべきだと、今でも、思っています。
たとえば、昔、「痴呆症」という名称の頃に、「痴呆が、入っている」と言われていた記憶もありますが、それは侮蔑的な意味合いが強いとはいえ、「認知が、入っている」よりは、言葉として、概念として、正確な使い方をしていると思います。
これは、言葉の正確さにこだわる狭い考えのようにも思われるかもしれません。
ただ、「認知が、入っている」という使われ方をされているために、今は「認知」という言葉自体が、すでにネガティブな意味合いを、まとい始めているように思うのですが、いかがでしょうか。そうであれば、近い将来「痴呆」という響きと、「認知」という言葉で受ける印象が、似てきてしまう可能性すらあると思うのは、考え過ぎでしょうか。
言葉の意味を壊した先には、あまり明るい未来はないように思います。
言葉の影響
ただの言葉ではあるのですが、使っている言葉によって、人間が、影響を受ける、ということはあるように思います。
「あの人、認知が入ってきている」という言葉は、おそらくですが、本人の前では使わないような気もします。
それに自分自身が認知症になった時に、どちらが言われたい言葉でしょうか↓。
①「あの人、認知が入ってきたみたい」
②「あの人、認知症になったかもしれない」
もちろん、どう言われても、自分の症状が変わるわけではないのですし、こじつけと思われるかもしれませんが、私は、可能であれば、②の言葉を使っている専門家のお世話になりたいと思っています。
ここからは、さらに屁理屈かもしれませんが、「認知」と使っている専門家よりも、「認知症」と言っている専門家の方が、要介護者を大事にしてくれそうな気がします。それは、根拠のない思い込みかもしれませんが、私自身は、これからも「認知が、入ってる」は使わないと思います。かといって、しつこいようですが、「認知が、入っている」という使い方を責めたいわけでは、ありません。
恍惚の人
もともとを遡れば、どうして、痴呆症というような侮蔑的な意味合いも含む名前になったのかを想像すれば、おそらくは、その名称が決まった頃は、平均寿命の短さによって、「認知症」の患者が、今より少なかったのかもしれません。
そこに、認知症の重度の方を診察する事があれば、医師としても、もしかしたら、ショックがあり、自分とは無関係と思いたくて、「痴呆症」と名付けられたのかもしれません。
さらに、今さらで、申し訳ないのですが、有吉佐和子の「恍惚の人」がベストセラーになった1970年代に、「痴呆症」ではなく「恍惚症」という名前に変えてもよかったのではないか、と思うことがあります。
恍惚、という言葉自体の意味は、複雑ですが、かなりポジティブな部分もあるので、そんなことを夢想したりもしてしまうのですが、そんなことを思ってしまうのは、「認知が、入っている」という言葉を生んでしまうような、「認知症」という名称への微妙な抵抗感が、今だにあるせいだと思います。
今回は、特に専門家の方には、前回(リンクあり)よりも抵抗感がある内容だったかもしれません。さらには、分かりにくいことだったとは思いますが、今回は、これで終了です。
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