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犯罪と精神医学(4): 小説「金田一耕助シリーズ: 八つ墓村」のモデル"津山三十人殺し"の精神医学的考察(前編)

皆様、こんにちは!鹿冶梟介(かやほうすけ)です。

突然ですが、小説「八つ墓村」をご存知でしょうか?

「八つ墓村」は横溝正史作の長編推理小説「金田一耕助シリーズ」の一つで、映画にもなりました(キャッチコピーの「祟りじゃ〜!八つ墓村の祟りじゃ〜!」は有名でしたね)。

ところでこの「八つ墓村」にはモデルとなった事件があることをご存知でしょうか?

それは「津山事件(別名: 津山三十人殺し)」という、単独犯による殺人事件としては最多被害者数を記録する大事件です。

(ちなみに、本邦における単独犯による最多殺人数の記録は、2019年の京都アニメーション放火事件によって塗り替えられました)

今回の記事では、日本犯罪史上空前の惨劇といえる「津山三十人殺し」を精神医学の観点から解説いたします。

本記事は長文につき前編・後編に分けて解説いたしますが、最後までお付き合いいただければ幸いです。


横溝正史作の長編推理小説「八つ墓村」は有名作品ですよね。



【津山事件(別名: 津山三十人殺し)とは?】

1938年(昭和13年)岡山県の西加茂村(現津山市)で起こった大量殺人事件

当時21歳であった都井睦雄が祖母を斧で殺害した後、猟銃と日本刀で住民を次々に殺害した

犯行後、犯人は自殺したため被疑者死亡で不起訴となった。

この事件の異常さは殺害した人数だけでなく、事件の計画性および残虐性にもある。

村への送電線を切断し村全体を停電させた都井は日本刀一振り、匕首(短刀)2本、9連発の猟銃銃弾約100個を携帯し、夜陰に乗じて次々に村人を襲った。

犯行時の姿はまさに異形で、黒セルの詰襟服、巻きゲートルと地下足袋を身につけ、二つの懐中電灯を取り付けた鉢巻を頭に巻き、首からは自転車用の角型電灯を吊り下げていた。

漆黒の帷が降りた村を彷徨う3つの灯り(電灯)は、生存者が「三つ目の化け物」と形容するように村を恐怖の奈落に突き落とした

約90分という短時間で都井は幼児・老人の見境なく殺害し、その数は30名に及んだ。

殺戮を終えた都井は、村を一望できる荒坂峠の山頂にて猟銃で心臓を撃ち抜き自殺した。

自殺現場には脱ぎ揃えられた地下足袋の傍らには一通の遺書が残されていた。


犯行時の様子を再現した写真。 黒詰襟の服に、足にはゲートルと地下足袋。頭には日本の懐中電灯をつけ、首から自転車用前照燈を下げ、薬莢入りの雑嚢を肩からかけ、日本刀一振と匕首二口を腰に差す。
引用: 津山三十人殺しー日本犯罪史上空前の惨劇. 筑波昭, 新潮文庫, 2005

【犯人(都井睦雄)の生い立ち】

ここで犯人である都井睦雄の生い立ちを紹介します。

この"悪鬼"は一体どのような人生を歩んできたのでしょうか...。

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