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10分小説

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ランダムで流れて来る今日のお題を10分で書き上げる企画です。
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記事一覧

黒板

黒板

私は高校の教師だ。
ひとつ奇妙な事がある。
それをご紹介したいと思う。

2-6のクラスの黒板だけ、いやにチョークの乗りが良いのだ。チョークが良く走ると言うか、ついつい力がこもってしまってもチョークが折れない。私はチョークを折りがちなのだが、不思議と2-6で授業をした時には折れた事がない。

また、チョークだけではなく授業の進行自体もスムーズなのだ。いや、2-6の不名誉の為に言っておくが、2-6は

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黒髪

「先生、出来ました」

「おお、今日も出来たか金子。今日のお題はなんだったんだ?」

「はい、今日のお題はコレでした」

「………念の為に聞くぞ、金子。これはなんと読む?」

「先生、僕を馬鹿にしないでください。同じ轍は踏みませんよ。それは『黒髪(くろかみ)』です」

「そうだ金子! お前は前回『長髪(ちょうはつ)』を『長髭(ながひげ)』と間違って読んでいたからな! その反省が活きたな!」

「は

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帽子

帽子

公園に忘れられた帽子がある。
それは野球帽だった。

公園はもう日が沈む。黒字にオレンジでロゴが入ったその帽子は、夕闇に紛れてしまう。

遂に日が沈んだ。壊れた電灯しかない公園は、近くの家の灯りだけが届く。時折公園の前を通る車のライトが強く、鋭く公園の中を照らし出す。それでも、誰も帽子には気付かない。

忘れられた帽子は、闇に紛れて誰にも見つからない。
帽子は誰の頭の上にも乗らない。
帽子は、今は

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執事

執事

「執事ってさ」

「あん?」

「いや、執事っているだろ」

「ああ、セバスチャンとかそう言う感じの、な」

「そう、そう言う感じ」

「それがどした」

「ああ言うのってどう思う?」

「ぁあ?」

「いやだから、ああ言うなんか、話の中に出て来るような、主の為に忠義を果たします、みたいなさ」

「くっだらねぇ」

「馬鹿げてる?」

「だってそうだろ。仕事だぜ仕事。単なる仕事。何が主の為に、だ。

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長髪

「先生、できました」

「ああ、毎日お題に沿って小説を書いて行くと言うのも、書く練習になっていいだろ、金子」

「そうですね。何はなくとも書いた、と言う実感も沸きますし」

「10分で書く、と言う制約もいいだろ」

「そうですね。とにかく手を動かす、考えた事を如何にまとめてアウトプットするかと言う訓練にすごく良いです」

「うんうん。それなら良かったぞ、金子」

「この、箱。この中に先生が書いてく

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炎

ゆらめく炎に包まれて。二人は森の中で夜を過ごす。女は男に言いたい事があり、男は女に聞きたい事があった。しかし女はそれを言い出せず、男はそれを聞き出せずにいた。

バチバチと、薪が音を立てる。虫の音と、風で揺れる木々の揺らめきと、月明かり。二人は静寂に包まれていた。けれど、その静寂は重い。出来る事ならその重さから早く抜け出したいと二人は思っていた。

夜はまだ長い。言いたい事があるならいくらでも言え

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足組み

足組み

ある地方に伝わる風習をご紹介しよう。

それは「養子足組み」と呼ばれている。

「養子縁組」ならば聞いた事がある読者も多い事だろう。血縁関係にないものが法律上の親子になる事だ。

だが「養子足組み」は膝小僧。
血縁関係にない者同士の膝小僧が法律上の「膝親子」になる制度である。

膝親子とは何か?
それはお互い困った時に膝を貸し合う関係性の事である。

夜中突然、無性に膝枕して欲しくなった時はないだ

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スニーカー

スニーカー

季節が巡って 新しいものが芽吹く日

そんな日はいつも決まってあの曲を聴く

わたしは あの頃から少しは変われたはず

夕暮れの公園で あなたと二人だけだと

そう思っていたあの頃

他には何も見えなかった

夜の公園で ぎゅっとつないだ左手

今までも私の左手は

あの頃の熱をまだ覚えているよ

季節が巡って 新しいものが芽吹いても

私は 眠り続けたまま

重たい目を 開ける事がずっと恐かった

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先生

先生

「やってるかい?」

「あいよ~。らっしゃい」

「いやぁ今日は冷えたねぇ」

「寒の戻りってやつですかねぇ」

「こんな日には一杯引っ掛けて温まりたいもんだぁね」

「そうですね。ささ、どうぞ一杯」

「お、すまないねぇ」

「お客さん、この辺りの方ですかい?」

「ああいや、ちがうのよ。おれぁ今日はちいとした小間使いでね。こっちの方に来たもんだからよぅ……かぁ~っ!美味い!仕事のあとのこの一杯

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銃

銃器マニア。
人を殺す為のその道具に魅了される人は少なくない。

銃は人を殺す為の道具ではないと言う意見もあるかもしれない。銃は身を守る道具であると。使わずとも抑止力になると。

身を守る、抑止力になるとはつまり「私は危険だから近づくな」と言う事で、それは毒がないのに毒がある他の生物の色形に擬態する生物に似ている。

殺すか殺さないかはさておいても「傷つける」、少なくとも「傷つける可能性がある」と

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厚塗り

厚塗り

厚く。
厚く。
塗っていく。

塗り固めて。
塗り固めて。
塗り潰す。

私のひと撫で、ひと撫でが。
何層も。
幾重にも。
積み重なって層になる。

薄い。
薄い。
その結果。
時間の積み重なり。

私と。
あなたの。
記憶と、思い出。

「志摩さん」

「はい?」

「志摩さんちのベランダにあるやつ、アレ…なんなんですか?」

「主人です」

「え?」

「主人を想って毎日少しずつ塗り上げていま

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エプロン

エプロン

エプロンを脱ぐ女性の仕草が好きだ。
服を脱ぐのよりもエプロンを脱ぐ仕草が良い。
服を脱いで下着が露わになるのよりも、だ。
裸エプロンでもない。
服を着た女性がエプロンを脱ぐ仕草が良いのだ。

なぜなのだろう。
なぜ好きなのか理由は分からない。

脱ぐ、と言う仕草が好きなのかもしれない。
エプロンを脱ぐ所作には美しさを感じる。
それは着物の脱ぎ着にどこか通じるものがあるように思う。

たすき掛けをす

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ショートヘア

ショートヘア

「飯田!」

「はい!監督!」

「お前は今日からショートだ!」

「……!!ありがとうございます、監督!俺、一生懸命チームの為に頑張ります!」

「ああ。頼んだぞ、飯田」

「はい!……あの、監督。それは……?」

「お前に使うバリカンだが」

「え!ウチの野球部って丸刈りなんてしてないじゃないですか!ウチの野球部はロン毛オッケーで有名な野球部、むしろロン毛じゃないとどこか浮いちゃうくらいなのに

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制服

制服

在宅ワーク中である。
在宅ワークは非常に良くない。

私にはサボり癖がある。
誰も見ていない環境下でまじめに仕事に取り組める自身はない。だが仕事をしなければ金が稼げず、私は死んでしまう。働かざるもの食うべからず。いっそベランダで畑でも作って自給自足の生活でもしようか。

だがそんなノウハウもない私はひとまず働かなければならない。
そんな時目にしたとあるSNS上の発言。

『在宅ワークで気を付ける事

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