マガジンのカバー画像

美術展観賞記録

46
展覧会に行ったときの感想文。Instagramに投稿しているものと基本的には同内容です。
運営しているクリエイター

記事一覧

「ザ・キャビンカンパニー大絵本美術展 童堂賛歌」(平塚市美術館)

「ザ・キャビンカンパニー大絵本美術展 童堂賛歌」(平塚市美術館)

 ザ・キャビンカンパニーは阿部健太朗と吉岡紗希の二人による絵本作家・美術家のユニット。Eテレの子供番組、ポケモンとのコラボレーション、こどもの読書週間ポスターなどといったコラボレーションも多く、名前を知らずとも、ひょっとしたら彼らの作品にお目にかかっているかも知れません(私はポスターを観たことがありました)。

 非常にプリミティブで、力強いパワーに満ち満ちた作品。既に色が塗られた画面に型紙を貼り

もっとみる
【画像72枚】「三島喜美代―未来への記憶」(練馬区立美術館)

【画像72枚】「三島喜美代―未来への記憶」(練馬区立美術館)

 私が始めて三島さんの作品を観たのは2021年、六本木・森美術館のグループ展。割と政治的なものにも傾きやすいテーマの展覧会で、作品はおろかインタビュー映像も力んだもの、気取ったものが多いなか、大阪のおばちゃん全開の自然体で語る三島さんの姿はひときわ印象的でした(ちなみに十三だそうです)。

 缶や新聞・チラシなどの「ゴミ」を題材に陶器を作るという作品アイデアも新鮮で、ほどなくしてART FACTO

もっとみる
【画像27枚】「歌川国貞(三代豊国)の役者見立東海道 歌舞伎役者の面影」(藤沢市藤澤浮世絵館)

【画像27枚】「歌川国貞(三代豊国)の役者見立東海道 歌舞伎役者の面影」(藤沢市藤澤浮世絵館)

 美人画で知られる初代歌川国貞が三代豊国となってから制作された「東海道五十三次之内」(1852-53)、通称「役者見立東海道」。背景に東海道の風景があしらわれた役者絵のシリーズです。
当時の人気は相当高かったようで、「その二」という形で同じ宿場町を題材に描かれたり、「間(あい)の宿」と呼ばれる、宿場間にある休憩所を題材にした作品を制作していたりもし、最終的な総数は130点と、東海道の揃い物としては

もっとみる
【画像49枚】「アルフォンス・ミュシャ展 アール・ヌーヴォーの美しきミューズ」(茅ヶ崎市美術館)

【画像49枚】「アルフォンス・ミュシャ展 アール・ヌーヴォーの美しきミューズ」(茅ヶ崎市美術館)

 1894年、オペラ『ジスモンダ』のヒットを受け追加公演が決定、主演女優のサラ・ベルナールが新しいポスター制作を印刷所に依頼したのは同年12月24日のこと。しかし常連のアーティスト達は休暇中、「1月1日〆切」という急な依頼に唯一対応できたのが、たまたま印刷所で校正をしていたというミュシャでした。ミュシャは挿絵画家としてサラを描いていたこともあり、ポスター制作の依頼を引き受けることに。

 そして、

もっとみる
【画像59枚】「シアスター・ゲイツ展:アフロ民藝」(森美術館)

【画像59枚】「シアスター・ゲイツ展:アフロ民藝」(森美術館)

 陶芸・宗教・都市計画など、多岐にわたるバックボーンを持つ黒人芸術家シアスター・ゲイツ。特に陶芸に関しては日本の愛知県常滑市に1年間留学しており、現在も関わりを持ち続けております。いっぽうTEDのプレゼンテーション動画では、廃墟となった住宅(リーマンショックでしょうか…?)を地域コミュニティの拠点として再生している様が紹介されていたりもしており、その活動内容は非常に多彩。

 展覧会も陶芸のみなら

もっとみる
【画像11枚】「女子美術REUNION」(松坂屋上野店 美術画廊)

【画像11枚】「女子美術REUNION」(松坂屋上野店 美術画廊)

 女子美術大学出身者によるグループ展。上野店とは言いますが、最寄り駅は御徒町でございます(上野公園からは徒歩10分強といったところ)。
 どうやら自分は海が好きなようで、その意味でも中嶋彩乃さんの描く海が良いなと思いました。以前から軍艦や波といった、海にまつわる題材をひたすら描かれている方で、特に澄んだ空気感であったり、青い海をたゆたう白い波の「生きた」塩梅であったりが気に入っております。朝方だっ

もっとみる
「デ・キリコ展」(東京都美術館)

「デ・キリコ展」(東京都美術館)

 一般的に「絵画」というと、たとえば人物や池、リンゴというように、現実にある何かしらの「もの」が描かれていた/いるもの。それが20世紀に入り、キュビスムや抽象絵画が登場すると、その「常識」が少なからず揺さぶられるわけですが…同時代を生きたデ・キリコの描く「形而上絵画」の場合、石像、マヌカン(マネキン)、どこかしらの路上、室内という風に、描かれているものはいちおう現実に存在するもの。
 しかし問題は

もっとみる
【画像11枚】「法然と極楽浄土」(東京国立博物館)

【画像11枚】「法然と極楽浄土」(東京国立博物館)

 法然は平安末期から鎌倉初期にかけて活動した浄土宗の開祖。ざっくり言えば「南無阿弥陀仏」と念仏を唱え続けることで、極楽浄土に往生できると法然は説きました。密教などと比べると簡略化された印象もありますが(弟子の中にも、都合良く拡大解釈する向きもあったようです)、その背景には末法の世の中、そしてより多くの人々を救いたいと考えた法然の考え方があります。
 ちなみに法然は地方武家の子で、夜襲により父を亡く

もっとみる
【画像15枚】李晶玉個展「アナロジー:三つのくにづくりについて」(N&A Art SITE)

【画像15枚】李晶玉個展「アナロジー:三つのくにづくりについて」(N&A Art SITE)

 昨年川越で開催していた「神話#2」(NANAWATA)の延長とのこと。私がコロナ感染したりして、「神話#2」の展示を観ていなくて色々アレですが、日本・韓国・北朝鮮にまつわる建国神話を取り扱った内容だったかと伺っております。今回もその時の作品が展示されている様子。

 一つの国につき、併置されるのは三つの作品。日本を例にとると、最初に展示されるのは鉛筆画による天岩戸。次に、少し大きめのカンバスに国

もっとみる
【画像6枚+α】「ライトアップ木島櫻谷」(泉屋博古館東京)

【画像6枚+α】「ライトアップ木島櫻谷」(泉屋博古館東京)

 三つあるうちの、最初の展示室1がとにかく美しい。

 そこには5点ほどの屏風と水墨画掛軸(今尾景年《深山懸瀑図》)、写真撮影に関するパネル、あとはベンチが2つあるのみですが、そのベンチに座って、この後の作品や予定も一旦かなぐり捨て、腰を据えて長居したくなるような雰囲気があります。強いて言うならベンチをもう少し入口近くに置き、5点の屏風を眼中に収められる位置にしてほしかったぐらい、完成度の高い展示

もっとみる
「浮世絵の別嬪さん - 歌麿、北斎が描いた春画とともに」(大倉集古館)

「浮世絵の別嬪さん - 歌麿、北斎が描いた春画とともに」(大倉集古館)

 タイトルにはありませんが、今回は肉筆オンリーの展覧会。個人的に版画のほうはたくさん観る機会があるのですが、肉筆のみの展覧会というのは地味に初めてかもしれません。春画の展示は3フロアあるうちの、地下1階のみ。中学生以下(入場無料)は地下1階はご遠慮を、ということでしたが、春画無しでも十二分に楽しめる展覧会です。

 通常の浮世絵(多色多摺の錦絵)は版元が企画を立案し、それをもとに絵師が絵を書き、彫

もっとみる
【画像24枚】「平野杏子展 -生きるために描きつづけて」(平塚市美術館)

【画像24枚】「平野杏子展 -生きるために描きつづけて」(平塚市美術館)

 子育て等の悪夢から見たきっかけに具象絵画から抽象絵画へと進み、そこから更に仏教芸術の要素をミックスするなど、複数回にわたる作風の変遷を繰り返した平野杏子。抽象画と仏教芸術のミックスはポップアートのようなコラージュ調でもあり、一方で構図に対する関心も伺えます。

 卵や目玉などのモチーフを描きつつも、後期に入るとブランクーシ?な抽象彫刻もあり点描もあり民藝調もあり…自分の感情に正直に、描きたいもの

もっとみる
【写真35枚】「ここは未来のアーティストが眠る場所となりえてきたか?」(国立西洋美術館)

【写真35枚】「ここは未来のアーティストが眠る場所となりえてきたか?」(国立西洋美術館)

 西洋美術館にとって初めてとなる現代芸術展。しかし、西美の礎となる「松方コレクション」を収集した松方幸次郎はそもそも、若い芸術家達に"本物"の芸術を見せてあげようと意図したと言われております。その"本物"の芸術に触れた芸術家たちは果たして西洋の名作と比肩する作品をものにできているのか、今回の開催はむしろ自然な流れと言えるのかも知れません。

 今回の展覧会はアーティゾンの行う「ジャム・セッション」

もっとみる
「ブランクーシ 本質を象る」(アーティゾン美術館)

「ブランクーシ 本質を象る」(アーティゾン美術館)

 思えば私が美術のことを勉強し始めた時、そのときに初めて知った名前の一つが今回のブランクーシ。いわゆる抽象彫刻ということもあり、手がかりの乏しさを感じる人もいるかもしれません。
 写実彫刻をやっていた頃はロダンに傾倒し、そのロダンに激賞されるほどの腕前だったそうですが、「大木の下ではなにも育たない」と言い、ロダンの影響下を離れ、独自の道を歩むことになります。それは単純なフォルムかつ、石や金属といっ

もっとみる