かろ / Tomohiko Kato

Instagramにて美術展の感想文を書いてます。一般の大学経済学部卒業後、芸大通信部…

かろ / Tomohiko Kato

Instagramにて美術展の感想文を書いてます。一般の大学経済学部卒業後、芸大通信部卒業(アートライティング)、学芸員資格取得(2024-)。

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「マティス 自由なフォルム」(国立新美術館)

2023年春にも東京都美術館で開催されたマティス展。コロナ禍による延期の影響で、ちょっと珍しい2年連続開催となりました。なお、前回はポンピドゥー・センター、今回はマティス美術館のコレクションが中心となっており、主催も異なる別個の展覧会です。   前回も前回で面白かったんですが、マティスの集大成と言える《ロザリオ礼拝堂》が映像展示で、レプリカ等による再現が無かったことに「無いのか…」と思ってしまったことも事実。もちろん展示として思いついたとしても、敷地スペースや美術館としての設

    • 「没後50年 木村伊兵衛 写真に生きる」(東京都写真美術館)

       戦前~戦後にかけて、小型カメラのライカを手に街に繰り出し、「ライカの名手」として名を馳せた木村伊兵衛。  その写真は非常に軽やかなテンポに溢れるもの。肖像写真などでは比較的安定感がありますが、自らを「報道写真家」と自称したのはなるほどと。メインの被写体が中央で目立つ隅でカメラマンを怪訝に観ている人をトリミングしていなかったり、素材としての生々しさを残すところはある種報道的だと思いました。  パネル解説によると、プロパガンダを要求された戦中に対し、戦後に入ってからは自己表現

      • 「第8回横浜トリエンナーレ 野草:いま、ここで生きてる」(横浜美術館)

         タイトルにつけられた「野草」というのは中国の小説家である魯迅の散文詩集のタイトルより。前回は確か夏頃の開催ということもあり、「楽しい」という印象も強かったのですが、今回は昨今の世相を反映し、シビアな話題に触れた作品が多かったように感じました。「楽しむ」を目的に美術館に行くと面食らう作品が多いかと正直思いますが、かつてジェリコーやゴヤがそうしてきたように、同時代を生きる現代芸術だからこそできることでもあります。  印象に残ったのは、複数箇所に展示されていたトマス・ラファの映像

        • 手書きの手帳

           少し前(と言っても半年ほど前)から手帳を手書きに戻した。  元々手帳は数年来手書きでやっていた。そこに深いポリシーがあったわけではなく、単にGoogleアカウントをまともに使っていなかったというだけの話である。「手帳を続けるには高い手帳を買うと良い」と言う話を聞き、数千円払って有名なブランドの手帳を使ったりもして、出来ることなら使える機能を全て使いこなしたいとも考えていた。  しかし2年ほど前、そうやって書き入れたことを何一つやってないという大変由々しき問題が発生した。

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        「マティス 自由なフォルム」(国立新美術館)

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          その後のPomera生活

           昨年の春、ポメラ(Pomera、ノートパソコン型・キーボード入力のデジタルメモパッド)のことを記事で話題にした。  以前も書いたが、私が使うようになったきっかけはテレビプロデューサーの佐久間宣行さんがラジオのリスナー投稿をきっかけに話題にしていたこと。芸人さんや放送作家さんに愛用者が多いとのことで、私も1年ほど使っていなかったポメラを再び使うようになっていった。  その後、現在に至るまでポメラとのお付き合いはずっと続いている。特に学芸員資格の実習の際、提出する日誌を書くと

          その後のPomera生活

          関西弁警察

           まず、私は関西人ではない。  茨城県に生まれ、千葉を経て、3歳の頃に神奈川県の湘南エリアに越してきた。両親はおろか、親族にも関西圏出身・在住の人間はいないようである。湘南にもいちおう方言はあるが、その影響もほとんど受けておらず、基本的には標準語に近い言葉を話している。  そんな生粋の関東っ子な私だが、子供の頃、突如としてテレビで、自分とは明らかに違う日本語を話す人たちが出てきた。  その言葉とはもちろん、関西弁である。  正確にいつ頃かは記憶していないが1990年代初頭、

          「作者在廊」

           最近ちょこちょこ話題になるギャラリーストーカーの問題。  私は直接その現場を目にしたことはないけd… いや、2−3年前、ある人気芸術家の個展を見に行った時、在廊していた作家の動きに合わせて、6-7人程度の「群衆」が動いているなと思ったことがあった。作家さんはただ友達や関係者と駄弁っていただけで、その「群衆」が作品を見ていたかは怪しいところ。大騒ぎになっていたわけではないが、あれがギャラリーストーカーのいちパターンなんだろうとは容易に想像される。  この問題は今に始まったこと

          卒展に行ってきました。

           人はなぜ、卒展に出かけるのか。  私が初めて卒展に出かけたのは昨年。  エゴン・シーレを観に東京都美術館に行った帰り、ふと見かけた東京藝術大学(藝大)の卒展を観たことがきっかけでした。本当は事前予約制だったらしいのだが、受付で話したら「いいですよ」と、あっさり会場内に入れてくれました。優しい。  もちろん卒展で展示される作品が、制作された大学生・大学院生達にとってのベストバウトであることには違いないと思います。ただ、それだけじゃなく、芸術の歴史を意識したかのようなオーソ

          卒展に行ってきました。

          コートと美術鑑賞

           美術館の展示室内というのは作品保護の観点から、概ね20-22℃ぐらいに設定されている。これは夏としては寒く、冬としては少し暑い。美術館側もそういう鑑賞環境については当然認識しており、特に夏は必要に応じ、ブランケットやストールを貸してくれる美術館もある。  私は元々暑がりなうえ、冬でも背中や顔にじんわりと汗をかくことがある。展示室にメモ帳・筆記用具を持ち込むこともあり、それ以上に余計な荷物を持ち込みたくもない。  そういうわけで、上着類は鞄と一緒に、美術館備え付けのロッカー

          コートと美術鑑賞

          「生誕120年 安井仲治 僕の大切な写真」(東京ステーションギャラリー)

           安井仲治は戦前に活躍したアマチュア写真家。ただアマチュアと言っても、この時代に写真で生計を得ていた者はまだいません。安井は洋紙店勤務を続けつつ、20代ですでに写真展の審査員を複数務め、30代では新聞社主催の講演を行うなど、この道ではむしろ権威的な存在でした。  20年と決して長くはないキャリアのなか、優しいソフトフォーカスのスナップショットや肖像写真に始まり、モホリ=ナジの影響を受けた前衛芸術的なフォトモンタージュに至るまで、その活動内容は多岐にわたります。    興味深か

          「生誕120年 安井仲治 僕の大切な写真」(東京ステーションギャラリー)

          「マリー・ローランサンー時代をうつす眼」(アーティゾン美術館)

          1908年、ピカソ、ブラックらの知己を得たことでキュビスムの画家としてスタートした彼女。このキュビスム時代に表現はシンプルに、肌は白くなり、淡い色彩の幻想的な作風になっていったわけですが、詩人アポリネールとの失恋をきっかけにキュビスムから離れ、どのジャンルにも完全にコミットはしない、幻想的な作風のみが彼女の手元に残っていきました。 言葉で言えば「白い」「淡い」「幻想的」ではありますが、その画面からはむしろ堂々とした強さというか、そういうものをローランサンの絵には不思議と感じて

          「マリー・ローランサンー時代をうつす眼」(アーティゾン美術館)

          美術鑑賞にGoogleレンズは使える?

           展覧会で観賞をする際、「困ってしまう」のが文字資料。  例えば回顧展であればその人の著書、また同時代に刊行されていた雑誌であったりなんなりがガラスケースの中に展示されていることがある。作品リスト上は、作品番号とは別に「資料1」「資料2」などという番号を振られていたりもする。  私にも虚栄心というものがあり、いかにもそれらしく腕を組み、マスオさんみたいな知ったかぶり全開の表情でその「資料1」を覗き込む。しかし、そこに何が書いてあるのかが理解できない。私の場合は近代以降の日本

          美術鑑賞にGoogleレンズは使える?

          【ネタバレ有り】映画「第三の男」(1949、英)

           地元で上演会があったので観てきました(吹替版で鑑賞)。オーソン・ウェルズ出演のノワール映画で、テーマ曲はヱビスビールのCMでおなじみ。割と緊張感のあるシーンも多い本作ですが、あの曲がかかるたび、どうもほっこりとした気分を抱えてしまうのは時代です。  物語としては後半、映像で観たかった場面が会話ベースで進行してしまったり、若干「端折った」というか、バタバタな印象もありましたが、それを差し引いても十分「面白かった」と思える映画。特に心理描写が非常によく描けているなぁと思いまし

          【ネタバレ有り】映画「第三の男」(1949、英)

          行列

           セルフレジと有人レジがあれば、私はセルフレジを選ぶことが多い。  Suicaもあればクレジットカードの用意もあるし、比較的空いているというのも大きい。有人レジの行列を横目に、セルフレジでテンポ良く買い物を済ませるのはCMのような、ちょっとした爽快感もある。  しかしその日は違った。  和風ツナマヨおにぎりを手にレジに向かうと、セルフレジに行列ができている。人数にしておよそ3人ほど。男2人の女1人、一様にスーツ姿である。 (そんなこともあるかな)  と思い、列に並んでいると

          「小さな版画のやりとり 斎藤昌三コレクションの蔵書票と榛の会の年賀状」(茅ヶ崎市美術館)

          今回展示されていたものは蔵書票と年賀状。 蔵書票は書籍の盗難防止のため、本の見返し部分に貼られたもので、「紙の宝石」として、現在もコレクションの対象となっております。それを使った豆本なども展示されており、あまり古本でも出くわしたことが無いだけに(たぶん剥がされているんだと思います)、その存在にまず興味津々でした。   一方の年賀状は、1935年から約20年間活動していた年賀状交換グループ「榛(はん)の会」によるもの。有名どころでは棟方志功も参加していたこともあるとのことでした

          「小さな版画のやりとり 斎藤昌三コレクションの蔵書票と榛の会の年賀状」(茅ヶ崎市美術館)

          マヨネーズ

           なか卯で唐揚げ丼を食べる。  590円。1ヵ月使い放題のクーポンを持っていたので490円。  トッピングを見ると「マヨネーズ 50円」と書いてある。脂と油、太ること間違いなしの組み合わせだ。ホンジャマカの石塚英彦氏はお弁当でたまたま食した唐揚げマヨネーズがきっかけで、今の道に進んだと聞く。それでもなお、「唐揚げ+マヨネーズ」の魅力というのは知らないでわけではない。  しかし、ふとテーブルに目をやると、そこにはかつてマヨネーズの仲間だったはずの七味唐辛子や醤油なんかが鎮座し