第21回 小澤康基さん(紀伊國屋書店徳島店)
アイロンの形に焦げたシャツを見て笑ってくれるあなたがいない 『つむじ風、ここにあります』木下龍也
数ページ前まで笑わされていたのに、油断していると唐突に、いつかの記憶を鷲摑みされるような、そんな感覚。ユーモアと死。一冊の歌集のなかで、こんなにギャップがある歌人はそうはいない。
ひとつの短歌の中にもその傾向は窺える。取り上げた歌も冒頭はユーモアたっぷり。そして、そこからの落差。もちろん色々な解釈が可能だ。「あなた」は近所に出かけているだけかもしれない。だが、一度、「死」という単語が頭にちらつくと、もう駄目だ。「あなた」はもういない、二度と会うことはできない、というストーリーから抜け出せなくなってしまう。
「本当に深刻なことは、陽気に伝えるべきなんだよ」
木下龍也の歌集を読むと、伊坂幸太郎『重力ピエロ』のこのセリフを思い出す。
(「ほんのひとさじ」vol.13より)
小澤康基(紀伊國屋書店徳島店)
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