第6回 永山裕美さん(梅田 蔦屋書店)
老けてゆくわたしの頰を見てほしい夏の鳥影揺らぐさなかに 『カミーユ』大森静佳
一読後、谷崎潤一郎の『春琴抄』が頭をよぎった。自分の美しさを永遠に残すために、男に、男自身の目を突かせた女。それに反して、この歌の女は老いを見よ、この一瞬を共に生きよと迫る。
鳥の影が揺らぐ一瞬、刻々とゆっくり確かに死のほうへ向かう私の時間。そして、その思いを向けられた相手にも流れる時間。それぞれの生の時間は完全には重ならず、容赦なく流れ去る時間というものの本質的な哀しみを感じさせる。『カミーユ』はひたむきで、真摯な眼差しがどこか息苦しい。けれど、その果敢さに、覚悟に、時折深く慰められる、『カミーユ』は私にとって、そういう歌集なのだと思う。
(「ほんのひとさじ」vol.10より)
永山裕美(梅田 蔦屋書店)
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