第5回 鎌田裕樹さん(恵文社一乗寺店)
星が甘いのを知っている私たちの頭上で出産しはじめる獅子 『ひとさらい』笹井宏之
子どものころ、庭に茣蓙を敷き、長短五本、でこぼこの直線となって寝転んで、家族みんなで獅子座の流星群を見た。星が降っている、自ら燃えているということを知らぬほど幼かった自分にあの瞬きはどう映ったか。この歌には自分ですらよく覚えていない、その時の情景と感情の全てを見透かされるようだった。書いた彼はきっとそこにいたのだろう。あるいは、あの夜、空を見上げた全員の傍らに。
この歌集に出会ってから少し経つが、いつ読み返しても笹井宏之の歌は、水や風、太陽の光のように、ただそこにある。それは生命への讃歌というより、自然そのもので、私たちが日々出会う、どんな些細な営みにも、等しくやさしい笑顔を向けている。
(「ほんのひとさじ」vol.11より)
鎌田裕樹(恵文社一乗寺店)
歌集の棚から 過去の記事
第2回 竹田信弥さん(双子のライオン堂)
第3回 吉田慎司さん(がたんごとん)
第4回 中村勇亮さん(本屋ルヌガンガ)
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?