第4回 中村勇亮さん(本屋ルヌガンガ)
長き夜のスマートフォンの体温がひとの温度をこえてゆくまで 『ピース降る』田丸まひる
温かなベットルーム。後ろめたさが少し混じった自堕落な甘美さ。毛布の柔らかな肌ざわり。画面の中で交換される、面と向かっては言えない言葉のやりとり。時折こぼれる笑み。私がこの歌から想起してしまうのは、そんな、どこか甘やかな光景だ。
同時に、この光景を引きのショットで収めたら、人同士と機械の親密さが逆転した、どこかSF的な冷たさが漂ってくるのだろうな、と思わせてくれたり。
でも私は、ひとり画面を見つめ続けるSFめいた夜を、丸ごと肯定してくれるようなこの歌の優しさが好きだ。私たちはいつだって温かさを必要としていていて、それをもたらしてくれるのが、CPUに負荷がかかった精密機械であっても一向に構わないのだから。
(「ほんのひとさじ」vol.10より)
中村勇亮(本屋ルヌガンガ)
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