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第14回 樽井将太さん(古本屋 百年)

どちらの言葉も、醜いことがたまらない牛肉石鹼 美しい歌をだれかうたってくれないか 『Confusion』加藤治郎

 言葉が走る。言葉を追いかける。激しい運動に距離感を失いながら、それでも言葉が伸ばした手の先で走りつづける。
 普段、言葉は私たちの先を走らない。適切な距離と速度を互いに測りながら、私たちの手の届くところにいる。
 では、言葉はどのようなときに私たちの先を走りだすのだろうか。
 たとえば『Confusion』に収められた言葉は私たちの先を走っている。見たこともない速さで。見たこともない姿勢で。しかし、それでも私たちを完全に置き去りにすることはなく、まるで追跡を誘うための距離を伸ばした手の少し先で漸く保つようにして。
 そうしながら『Confusion』の言葉もまた何かに誘われるようにして走っている。それは言葉だ。言葉は言葉を追いかけるときに走りだすのだ。
 だから『Confusion』を読むときに私たちは、言葉を追いかける言葉を追いかけるようにして走りだせる。
(「ほんのひとさじ」vol.12より)

樽井将太(古本屋 百年)

Confusion書影

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