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音楽を、記す

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チェロ奏者として執筆した『クラシック音楽』に関する書き物をこちらにまとめていきます。
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記事一覧

ストライキとあなたの命日|2023年3月26日

ストライキとあなたの命日|2023年3月26日

あなたの命日である今日、現代ドイツは全土に渡る交通機関の大規模ストライキの前日。

そう、前日なのに。

私が乗る予定だった列車は急遽運行がキャンセルになるし、それ以外にも遅延や運行中止の頻発で、駅はてんやわんや。

すっかり気持ちが萎えてしまって、早々に予定を取りやめて、家まで引き返してきたのよ。

そうやって愚痴をこぼしたら、彼は一緒に怒ってくれるだろうか、それとも小馬鹿にしたように笑うだろう

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第1回 J.S.バッハ への バースデーレター 【演奏音源つき】

第1回 J.S.バッハ への バースデーレター 【演奏音源つき】

音楽と文学をかさねた世界を皆様へお届けする
不定期マガジン『音文学のすゝめ』

第1回目は、2018年3月21日で333回目の誕生日を迎えたバッハへ贈る、
私からのバースデーレターと演奏のプレゼントです。

ノートのご購入後に、本文と演奏をお楽しみいただけます。
興味を持ってくださった方はぜひ!

【曲目】バッハ作曲『無伴奏チェロ組曲第1番 プレリュード・サラバンド・ジーグ』
チェロ:上原ありす

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道示す星 ヴォルフガング・ベッチャー氏への弔辞

道示す星 ヴォルフガング・ベッチャー氏への弔辞

2021年2月24日。
また一人、偉大なるチェリストが逝去なされた。

ヴォルフガング・ベッチャー氏

ベルリンフィルの元首席奏者であり、世界で活躍するチェロ奏者であった方。そして、私にとっては、ドイツへの道を作ってくださった方。

オスナブリュックと草津での二回。私は先生のマスタークラスを受講した。
当時録音していたそのレッスンは、今でも時折聞き返す。

シューマンのチェロ協奏曲、ベートーヴェ

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実録 『コロナ渦中のドイツ音大入試』 【前編】

実録 『コロナ渦中のドイツ音大入試』 【前編】

みなさん、こんにちは。ドイツ在住チェロ奏者で時々物書き、上原ありすです。

今回は、コロナ渦中に受験したドイツの音楽大学の入学試験について、書いていきたいと思います。

歴史に残る出来事と言われるこのコロナ騒動。現在でも国ごとに様々な感染対策が為されています。
音大入試時においても規制がかかり、例年と違う点が多く見られました。

それに伴い、大変なことばかりではありましたが・・・思い返せば、今だか

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薔薇になったチェリスト|ジャクリーヌ・デュ・プレ

薔薇になったチェリスト|ジャクリーヌ・デュ・プレ



イギリス生まれの女流チェリスト、ジャクリーヌ・デュ・プレ

数多の男性チェリストたちと肩を並べ、歴史に名を残す女性チェリストといっても過言ではない。

ピンと来なかった人にも、ダニエル・バレンボイムの奥さんであった人、
といえば聞きなじみがあるのだろうか…。

クラシック好きといっても、オーケストラ・指揮者・ピアニスト・バイオリニストに精通している方は多い。
しかし、チェロにまでその触手を伸ば

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平和を奏でたチェリストの、未だ揺れる祖国

平和を奏でたチェリストの、未だ揺れる祖国

12月29日。偉大なるチェロ奏者 パブロ・カザルスの生誕日に寄せて、今年一年の自分、チェロ奏者としての自分を振り返っている。

思いを馳せる相手が偉大過ぎる故か。
自身に対し、「ふがいない」という言葉ばかりが次々に溢れ出てくる……

ただ、ひとつ。
未だ安定とは無縁であるわが岐路の、その迷いや不安の中で。
今までの自分では抱いたことのなかった感情を知ることもあった。

それが音楽に活きるかは、これ

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コロナにあえぐ音楽家たち

コロナにあえぐ音楽家たち

以前、自身の公式サイトにこんな記事を投稿しました。

指揮者・大友直人先生のインタビュー記事から、現代のクラシック音楽が抱える「芸術性とエンターテイメント性の両立」という問題について、当時の私の考えをまとめたものです。

日付は2019年3月9日。
偶然にも、今からほぼ一年前となります。

この記事の終わりに、私はこのような文を綴っています。

真に到達された「芸術」は、知識や複雑さを超え、人の心

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神と、人と、天才と

神と、人と、天才と



(全文)

教会で、がっつりモーツァルト漬けの3日間を送ったのは
ちょうど先週のこと。

そういえば、モーツァルトと教会で面白い逸話があった。

旅の途中、父と共にシスティーナ礼拝堂を訪れた幼いモーツァルトは、アレグリの合唱曲『ミゼレーレ』を耳にする。

それは年に3日、この礼拝堂でのみ歌われる秘曲であり、楽譜の持ち出しも固く禁じられていたものであったが、

宿に帰ったモーツァルトは、一度だけ

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