元の世界に戻りたくない|第14話
神棚の御霊入れを終え、神様とのご縁を深める一方で、正式に失業者となった私(第13話)
失業手当をもらうためにハローワークへ通うものの、まだ再就職のことは、とても考えられる状態ではなかった。
私は大学を卒業後、20年以上、IT企業でプロモーションや広報の仕事をしてきた。会社員で働くことに何の疑問もなかった。
だが、早期退職の思いが突然やって来てから、自分を取り巻く世界は一変してしまった。
山伏との出会い。久高島での不思議な体験を経て、変わる自分。八海山での神様を身体中で感じるような体験。
「神様事(かみさまごと)」が自分の人生のテーマだと自覚させられる日々を1年過ごした。
その体験が濃密すぎて処理しきれない状態。仕事のことを建設的に考えられなくなっていた。
この頃の私は、「元の世界に戻りたくない」という気持ちでいっぱいだった。
元の世界に戻ると、神様事から離れてしまう。そう思っていた。元の世界とは、言わばビジネスの世界である。
まだ神様事が何なのか、よく分からない。できることもない。
それなのに、神様事だけで生きていきたい。でもどうしたら良いか分からない。そんな堂々巡りの状態に陥っていた。
神様事に縛られていたのである。
その状態は正式退職の前から始まっていた。御霊入れをした9月。私はひとつの事件を起こした。
アメリカに1ヶ月、逃避行しようとしたのだ。
***
9月に入り、正式退職日が近づくにつれて、失業者になることへのプレッシャーが大きくなっていた。
神様事だけで生きていきたいと強く願う一方で、無職のままではいられないと思う気持ちも増していく。
矛盾する感情が同居して、前に進みたいのに出口が見つからない日々。
その気持ちに押し潰されそうになった頃、1年前、インド瞑想3週間の旅にご一緒した夫妻から、再びお誘いがあった。
アメリカで1ヶ月瞑想をするコースに、10月から参加しないかというのである。
インドに行った時は、ゆっくり休息をとって、新しい人生の足がかりにしようという高揚感があった。
だが、今回は心のどこかに影があった。混乱する自分から逃げたい。その気持ちが目的となってしまっていたからだ。
それでも、私は手続きを進めた。
インドに行って以来、瞑想の教師になることを誘われてもいた。それも良いのかもしれないという気持ちがどこかにあった。
残るは飛行機のチケットを取るだけとなったある日。私はアメリカ行きを両親に告げた。
すると、早期退職でさえ止めなかった両親の顔がみるみる曇った。心配する顔を見て、とめどなく涙があふれる。
この1年の不思議な体験や神様事への思いも、混乱する気持ちも、何ひとつ言葉にできないまま、私は泣き続けた。
46歳の娘の精神は完全にさまよっていた。
***
失業後しばらく経つと、私は次第に、神様事への思いを封印するようになった。
お世話になっている八海山尊神社の先達(山伏)は、本業を別に持ちながら、基本ボランティアでご奉仕する。
伝説の山伏・月岡先達でさえ、長年会社員をしながら夜修行をされていたのだ。
私は自分にそう言い聞かせ、まずは仕事を探すところから始めようと考えるようになった。
そもそも、失業手当をもらうには、就職活動をしなければならない。
だが、当時の私には、求人に応募して面接に向かうのは、まだハードルが高かった。そこで私は、一計を講じることにした。
つづく
フォロワーの皆さまとのお茶代にいたします。ぜひお話ししましょう!