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御霊入れのちハローワーク|第13話

【早期退職の理由は、神様が教えてくれた】
毎週日曜日の18:30に公開していた連載。40代独身女性が先を決めずに早期退職したら、不思議な体験をして、自分の使命に気づく話です。書くことになった経緯はこちら

8月末。断崖絶壁の八ツ峰を無事登り終え、安堵と達成感に包まれた私(第12話

9月に入り、自宅の神棚に御霊入れ(みたまいれ)をすることになった。

御霊入れは、神棚に神様をお迎えする祭事だ(名称は神社で異なる)。

通常は神職が行うが、八海山尊神社では、関係の深い先達(山伏)が行うことも多い。我が家には佐藤さんが来てくださることになった。

神棚自体は、八海山への登拝を決めた頃、お札をお祀りする場所を作る感覚で、小さなものを設置していた。

だが、これまで神道に無縁だった私は、神棚に神様をお迎えするという概念がなく、そのままにしていたのだ。

私の実家は、宗教面はごく一般的な家庭だった。家には神棚も仏壇もない。葬儀や法事の際、お寺にお世話になるくらいだ。

ただ、父が幼い頃に疎開していた祖母の実家は、敬虔な檀家(寺に所属し布施をする家)だった。

その影響か、初詣にあまり行かないなど、神社との縁は人一倍薄かった。「うちは仏教だから」が父の口癖であった。

そんな家庭で育った私にとって、御霊入れをするのは大きな決断だった。

当時は神道を宗教と捉えておらず、「入信」という感覚はなかった。だが「家族は驚くだろうな」という気持ちが強くあったのだ。

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一方、もう後戻りはできないとも思っていた。八海山で不思議な体験をして以来、神様とご縁をいただいたという確信が断ちがたくあった。

佐藤さんは神職の装束を身につけている。初めに、神様を呼ぶような、言葉ではない、振動のような声を上げた。お腹の底から揺さぶられる声。

続いて、祝詞奏上、お祓いをしていただく。最後に心ばかりの直会(なおらい)をして、御霊入れは無事終わった。

私にとっては、神様を信じる者になる通過儀礼のような出来事であった。

***

一方、再就職については全くの白紙のまま、正式退職日が近づいていた。

これまでは、言わば「退職が決まっている1年の休暇期間」だった。早期退職金からではあるが、今までと同じ給料を毎月もらっていた。

職業欄には、まだ「会社員」と書ける状態。金銭的にも精神的にも、どこか守られていた。

その羊水に包まれたような時間は、神棚への御霊入れで幕を閉じたのだ。

仕事をどうするのか、気持ちがまったく定まらないまま、私は10月から正式に失業者となった。

失業手当をもらいにハローワークへ通う日々。46歳にして無職の自分を突きつけられる。

神様とご縁をいただいたはずの私だったが、一転して迷走の日々を送ることになる。

つづく

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