見出し画像

神様をお助けする道を探して|明治神宮で禊(みそぎ)の日々 6

神道文化学部のすすめ【神社実習編】
神社実習は、御神域での合宿であり、実習という名の修行だった— その体験を通して、神社の向こう側にある世界の一部をご紹介します。助勤(アルバイト)の話もあり。トップはこちら

神に奉仕する人と直接感じる人の違いを感じながらも、どうにか2日目の実習を終えた私(第5回

3日目の朝5時。再び太鼓の音で目が覚める。御神域での慌ただしい朝の始まりだ

だが、明日には帰れると思うと心が軽い。相変わらず皆の後を追いかけながら、何とか点呼に間に合った。

揺れる想い

国旗掲揚。禊行で身を清めて、御神前で朝拝。祝詞の奏上などを行い、神への感謝と国家の安寧を祈願する。

さらに社殿と館内の清掃。その後、8時にようやく朝食。ここまでは、昨日と全く同じである

だが今日は、講和の後に座談会がある。「理想の神職像」について班で話し合い、発表するのだ。

今ここにいるのは、大学で神職課程を履修している学生で、大半は二年生である。

社家(しゃけ、神社を世襲する家)、一般家庭の出身者が半々ぐらい。既に神職になると決めている子もいれば、決めていない子もいる。

私は、受験の面接で「神道のことを深く知り、広める役割を担いたい」と言って、入学した

だが、それを神職になって行うのか、他の方法で行うのか、この段階では思い描けていなかった。

受験前に行ったオープンキャンパスで、30歳を過ぎた女性が神職として奉職することの難しさを聞いていたのもある。

だが、何よりも、入学以来「神に奉仕する人と直接感じる人の違い」を度々感じていたことが大きい。この実習に限らず、授業でも感じていた。

神様を感じる体験をしてきた私だが、神職に求められる資質は全く異なるのだ。

その反面、実習を通じて、御神域に身を置くことの清々しさを全身で感じていた。

「このような環境で神様事ができたら、どんなに良いだろう」という思いも膨らんでいたのだ。

神様を直接感じる人が、神様にご奉仕する。このことが行われて来なかったのは、なぜだろう。

若い実習生が「祈願者の方にとって、親しみやすい神職になりたい」と、瑞々しい意見を言うのをよそに、48歳の私は、心の中で問いかけていた。

心をひとつにする修行

座談会を終え、昼食を取った後。神楽殿での雅楽鑑賞、神々に日々の食事をお供えする日供祭(にっくさい)への参列等があった。

その後は、これまでと同じく、夕方の禊行、夜間参拝と続く。その中で、この日は「大祓行(おおはらえぎょう)」があった。

「大祓詞(おおはらえのことば)」という祝詞(のりと)を、正座の状態で、何度も奏上するのである。

祝詞の奏上は、間違わないことはもちろん、全員で息を合わせることが強く求められる。

大祓行でも、声が揃わないなど、息が合っていなければ、何度もやり直しを命じられるのだ。

私たちはこれまで、御神前に参進する際、足並みを揃えるよう、何度も言われてきた

「心をひとつにする」

このことを、神道ではとても大切にするのだ。

一見、右へ倣えの精神に感じるかもしれないが、そうではない。

各々が雑念を静め、自分の中の神性(もうひとりの自分)につながった状態になれば、自ずから心がひとつになる。その上で、御神前に出る。

そのような感覚を、日本人は伝統的に持ってきたのだと、私は理解している。

夜の事件と修行の終わり

夜の神拝行事を終えて、拝殿から研修所へ戻る。

参拝者のいない夜の参道を、玉砂利の音を響かせながら、道彦(みちひこ、先導役)を先頭に皆で進んでいく。この時間も今日で最後だ。

明日実習が終わる。そう思うと、ほっとする。

皆もそうだったのだろう。いつもの緊張感は薄れ、和やかな空気が広がる。一言二言、会話をする姿も見られた。

だが、研修所に戻ると、指導員の方が突然「私語をした者は申し出なさい」と言った。「実習の修了は認められない」というのだ。

真剣度が足りないと指摘を受ける。申し出た子の中には、泣いてしまう子もいた。思いもかけないことである。

私自身は私語はしていなかったが、状態は似たようなものだった。

話し合いの末、どうにか修了は認められることになったが、気持ちを一定に保つことの難しさを感じさせられる夜となった。

***

最終日の朝の5時。再び太鼓の音で目が覚める。

慌ただしい朝の始まりは変わらない。私たちは、最後の禊行と朝拝に臨む。終わりに、正式参拝をさせていただいた。

初めての神社実習は、思ったよりも修行だと感じた4日間だった。来年は別の神社で7泊8日の実習がある。一体どうなることだろう。

全ての日程を終え、私たちは3日ぶりにリクルートスーツに身を包む。

初日の朝に回収されていた携帯電話も、ついに返却された。皆、一斉に電源を入れて、大学のサイトにアクセスする。

今日は前期の試験の成績発表日なのだ。単位が取れた、落としたと騒いでいる。

私にとっては初めての成績発表。だが、GPAという新しい評価指標で書かれていて、30年ぶりの大学生には見方がよく分からない。

近くにいた子に見てもらったら、無事全ての単位が取れていて、好成績だと教えてくれた。

大学の夏休みは残り2週間ほど。仕事帰りに神道を学ぶ日々が、また始まるのだ。

おわり

次回(12/26)は、「明治神宮で禊(みそぎ)の日々」シリーズのあとがきを投稿します。こちらも是非ご覧ください!

★次回(あとがき)はこちら↓

★前回はこちら↓

★第1回はこちら↓

★マガジントップはこちら↓



この記事が参加している募集

フォロワーの皆さまとのお茶代にいたします。ぜひお話ししましょう!