神野美紀

1971年、大阪出身の現代詩人。 独学で書きはじめ、文学ジャンル以外の様々な場所・方法…

神野美紀

1971年、大阪出身の現代詩人。 独学で書きはじめ、文学ジャンル以外の様々な場所・方法などで、積極的に発表。 最近では、活版印刷の手法を取り入れた作品を多く制作している。

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『砂を並べ生きる(PT)』解説

序文。言葉、そしてコミュニケーション 他者と言葉を交わすとき、そこには必ず『受け取り方』という乖離ができ、理解への溝が生まれる。そしてそれは時として互いの断絶を…

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『武者震いかどうかなんて知るか』解説

日常の中で何かいつもと違う出来事が起こった時、または能動的にそれを起こす時、その人の心の中では様々な感情が入り乱れているのではないだろうか。 悪い出来事はもとよ…

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【6:37の旅立ち】

そのとき綿毛はわたしを呼び止めた あなたは何処へ向かうのか わたしは屈んで しばらく綿毛を見つめる 春の終わりはみんな巣立って 見送るうてなが自慢げに屹立している …

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6:25の結晶

夜明け前の街灯下で ちらりちらりと雪の落ちるが見える あまりに少ないものだから 自重を支え合い 雪は雪のままで重なり 屈めば 結晶の姿を露わにしたまま きらりと ダイヤ…

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怠惰の言い訳

死んだように生きている 定刻通りの予定調和 自分に腹が立って 両手を大きく払って 全部ご破算にしたくて 恥ずかしいやら 情けないやら 猫だけが黙って腹を出す お言葉に…

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3:50の遊泳

足の痺れで目覚め 細かな振動が脳へと届き揺れる 布団の中で後ろへ倒れたら 感覚の消失が ブラウン管テレビの電源オフを 忠実になぞる 吐瀉物 発汗 共鳴する振動 意識は…

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自己との対話

入眠時幻覚 睡夢 明晰夢 自動筆記 私のこころは すべて夜に紡がれるため 支配されている なぜか? 理性のたがを外すためだ

神野美紀
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めぐる朔

病院を出ると いつも 月がいる。 一昨日は猫の爪だったのに 今日は瞳になっていた。 一日おきに見るものが こんなにも 変わるだなんて。 あらわれて 消えるまで 一か月もか…

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わたしはくまになる

夫婦は家族へと質を変えたが イタズラは今も続いている 性の煩わしさからスッカリ解放された夫に 寝顔で天下無双される日も少なくない この日 私はリラックマになった なん…

神野美紀
2年前

猫耳

通院日こわいこわいとイカの耳 猫は怖がっているとき、耳がイカのようになります。

神野美紀
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ハンバーグ

「しんどいねん…」私がポツリと言ったから 今日は夫がチャチャっとごはん

神野美紀
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やつあたり

寝付けない夜 時計の音ばかりが大きくて 時間が急流のように 私の前を通り過ぎる 寝られない時は 気付けばいつも朝だ くやしいから 夫の鼾に 心の中でゲンコツひとつ

神野美紀
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カササギ橋

七夕夜はれを願うも雨降りて 橋のカササギ涙に濡れる

神野美紀
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遊びごころ

夏にそなえ蚊遣り線香、蚊帳をだす 大人の密かな独り寝の基地

神野美紀
2年前

ほうせんか

こいごころ ふれてはじける ほうせんか

神野美紀
2年前

入道雲

虹渡る船あのひとをおもう夏

神野美紀
2年前
『砂を並べ生きる(PT)』解説

『砂を並べ生きる(PT)』解説

序文。言葉、そしてコミュニケーション

他者と言葉を交わすとき、そこには必ず『受け取り方』という乖離ができ、理解への溝が生まれる。そしてそれは時として互いの断絶を生み、伝えたかった事は虫食いの穴が空き、意味の通じない文のようになってしまう。
だが、そこでお互いがコミュニケーションという歩み寄りを行うことで、その溝を少しずつ狭めることができる。
そのコミュニケーションの濃度が上がったとき、互いの溝は

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『武者震いかどうかなんて知るか』解説

日常の中で何かいつもと違う出来事が起こった時、または能動的にそれを起こす時、その人の心の中では様々な感情が入り乱れているのではないだろうか。
悪い出来事はもとより、良い出来事でさえ、嬉しさの裏側で
「本当にうまくいくのだろうか」
「自分はこの出来事に見合うものを持っているだろうか」
など、不安になる要素は少しでもないだろうか。
そしてそんな時、人はどうするか。
そう、とりあえず己を鼓舞するのだ。そ

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【6:37の旅立ち】

【6:37の旅立ち】

そのとき綿毛はわたしを呼び止めた
あなたは何処へ向かうのか
わたしは屈んで
しばらく綿毛を見つめる
春の終わりはみんな巣立って
見送るうてなが自慢げに屹立している

うらやましい
わたしは何に縛られているのだろうか
今よりも先へ向かいたい
自分の奥を探りたい
そんな気持ちで
まだ丸いままの子らに
風をおこす

ふっ

巣立ちの慶びに綿毛が舞った
もう一度綿毛はたずねる
あなたは何処へ向かうのかと

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6:25の結晶

6:25の結晶

夜明け前の街灯下で
ちらりちらりと雪の落ちるが見える
あまりに少ないものだから
自重を支え合い
雪は雪のままで重なり
屈めば
結晶の姿を露わにしたまま
きらりと
ダイヤより繊細で
雲母より危うい存在を
主張している

僅か数ミリ

樹枝六花

広幅六花

角板付樹枝

樹枝付角板

美しく透明な花には
こうして
名前がついている

怠惰の言い訳

死んだように生きている
定刻通りの予定調和
自分に腹が立って
両手を大きく払って
全部ご破算にしたくて
恥ずかしいやら
情けないやら

猫だけが黙って腹を出す
お言葉に甘えて
吸わせてください
その腹を

猫の爪が額に食い込んで
叱咤される安心に
胡座をかく

3:50の遊泳

足の痺れで目覚め
細かな振動が脳へと届き揺れる
布団の中で後ろへ倒れたら
感覚の消失が
ブラウン管テレビの電源オフを
忠実になぞる

吐瀉物
発汗
共鳴する振動

意識は刈られ
無重力の夢を泳ぐ
生還できるか
生還できたか
自問自答の雑音に
眩暈が足された刹那
楔が穿たれた

自己との対話

入眠時幻覚
睡夢
明晰夢
自動筆記

私のこころは
すべて夜に紡がれるため
支配されている

なぜか?

理性のたがを外すためだ

めぐる朔

病院を出ると
いつも
月がいる。
一昨日は猫の爪だったのに
今日は瞳になっていた。
一日おきに見るものが
こんなにも
変わるだなんて。
あらわれて
消えるまで
一か月もかかるのに。

こうして
時間はわたしを置いてゆくくせに
時間でわたしは老いていく。

わたしはくまになる

夫婦は家族へと質を変えたが
イタズラは今も続いている
性の煩わしさからスッカリ解放された夫に
寝顔で天下無双される日も少なくない
この日
私はリラックマになった
なんだ、満喫しているじゃないか
写真のポーズが語りかける
そのとき私がどんなに息苦しく眠っていたか
知りもしないで

だがまあ
人と会うときはこのクマに頼ってみるのもアリだろう
まるで誂えたようなフィット感なのだしね

猫耳

猫耳

通院日こわいこわいとイカの耳

猫は怖がっているとき、耳がイカのようになります。

やつあたり

寝付けない夜
時計の音ばかりが大きくて
時間が急流のように
私の前を通り過ぎる
寝られない時は
気付けばいつも朝だ

くやしいから
夫の鼾に
心の中でゲンコツひとつ

カササギ橋

七夕夜はれを願うも雨降りて
橋のカササギ涙に濡れる

遊びごころ

夏にそなえ蚊遣り線香、蚊帳をだす
大人の密かな独り寝の基地

ほうせんか

こいごころ ふれてはじける ほうせんか