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小説を構造分析し、新しいログラインをつくるワークショップ 新潮R-18文学賞受賞作を教材に

5月9日に『小説新潮』2024年5月号に掲載された最新のR-18文学賞受賞作を教材にミニ講義&異化ワークショップをしました。
以下は読書会後に参加メンバーにお送りした講義メモと事後アンケートをそのまま掲載したものです。初学者向けなので解説はあんまりしてませんが、そういえば普段こういうことやってんな〜の振り返りにどうぞ。

ざっくり事前知識

  1.  WhatとHow
    なにを書くのか? どう書くのか?

  2.  ログライン
    Aという困難をもった主人公が、Bという困難につきあたって、行動することで、葛藤し、Cという変化が起こる。

  3. 三幕構成
    1幕:設定と発端 2幕:発展と葛藤 3幕:決着と結末

  4. 異化する
    ログライン化した物語から骨組みだけを抽出し、ちがう物語に転換する

以下、『小説新潮』2024年5月号からの引用を含む

「息子の自立」の場合

  1. WhatとHow
    障がい者の息子の性処理問題に悩む母

  2.  ログライン・3幕構成
    1幕:
    腰痛で障がい者の息子の性処理ができなくなった母が(困難A・設定)
    障がい者専門の風俗に依頼しその風俗の担当者が友人の娘であることがわかり(発端)
    2幕:
    息子がその娘・リリカに恋してしまい(困難B・葛藤)
    息子とリリカはデートプランを利用する。すると、息子はリリカと「一度だけでいいからセックスがしたい」と言い出す(困難C・クライマックス前の最大の困難)
    3幕:
    風俗の店員やリリカに協力してもらい、息子の望みを果たす(決着)
    それによって、母自身も「彼を幽霊にしていたのは自分かもしれない」という気づきを得る(結末)

「君の無様はとるにたらない」の場合

  1.  WhatとHow
    親から不当にもらう金銭への鬱屈とした思い(抽象)
    母と離婚した父からもらった400万円使う話(具体)
    Whatは具体的なほうがいいのだけど、この小説の場合は友人パートの比重も大きいので「親子関係」みたいなフワッとな感じになるかも。びみょ〜。もっと単純に「親からのヨゴレの金」みたいなバツっと言い切れるやつがベスト?

  2. ログライン・3幕構成
    1幕:
    母と離婚した父に毎月面会で会い、5万円渡される女子高生(困難A・設定)
    父が愛人に5万円渡していた過去があり、そのお金を使えないと400万円貯まっている。そのことを友人に相談し、「ヨゴレの400万の使い道」を考える(困難B・発端)
    2幕:
    友人に連れられ、ふたりでラブホテルに泊まる(発展)
    ラブホテルで友人の母親との折り合いの悪さを聞かされ、親からもらうヨゴレのお金について考える(困難C・葛藤)
    3幕:
    父にお金を返し、いままで溜めてきた鬱屈とした思いをぶつける(決着)
    父と決別し、ヨゴレの金についても整理をつける(結末)

  3.  異化する
    この物語において、「ヨゴレの400万の使い道」をちがう分岐にして考えれば、ちがう物語を構築する参考になるのではないか? つまり、

別居父から毎月5万円→ヨゴレの400万の使い道に悩む→(   )→父に文句を言い、決別する

という骨組みだけを抽出し、そこから(   )にオリジナリティのあるアイデアを出せれば、自分の作品を書くときにそのアイデアが使えるのでは?(もちろん、このワンラインをそのまま使ってはダメだけど)

4,  大喜利
 みんなで「ヨゴレの400万の使い道」を考えてみた!

・初見客でホストのアフターを勝ち取る
・最新スペック盛り盛りだと52万するiPad Proを購入
・偽・母の形見ブレスレットを購入、父に渡す
・水原一平にあげる
・福岡PayPayドームを4回開閉させる
・しあわせな家庭をつくるには?って自己啓発本を自費出版し、父にプレゼント
・1万円札でシャドーボックスを作る(物理的に無駄にする)
・月の土地を買えるだけ買う

みたいなアイデアが出た!

5,  ログラインを再構築してみる
大喜利で出したアイデアを使って、ログラインを再構築してみる。今回は、

別居父から毎月5万円→ヨゴレの400万の使い道に悩む→福岡PayPayドームを4回開閉させる→父に文句を言い、決別する

に決定。ここで重要なのは、そのアイデアを最大限活かせる「シーン」を考えること。
上村なら「九州に台風が上陸し豪雨警報の出る日、父と福岡PayPayドームに野球観戦に行った主人公は、野球観戦の合間に父にこれまでの思いを打ち明けようと思うが、なかなか話せずにいた。そんなとき、『わたしはこの400万円でPayPayドームを4回開閉させられる……!』と思う。ドームが開いてどしゃ降りの雨の中、父にあまり声が届かないからこそ、娘は父に思いをぶちまけることができた」みたいなシーンにする(そのリアリティは一旦置いておいて)、ってことを話した。

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読書会後アンケート

大喜利大会が面白かったし、あらためて物語を異化するということがどういうことか学べてよかったです。基礎的なログラインや三幕構成をみんなで考える時間もとても勉強になりました。これからは物語を書くときに時間をかけて丁寧に大喜利していこうと思いました。

息子の自立について、作品を読んでいてはじめに思ったのは自分の中で障害を抱えている人はそういう欲とかから遠い場所にいるのではないかと勝手に思ってしまっていたことを実感しました。自分の中にある勝手な偏見を通して物事をみてしまっていることを気付かされました。

三幕構成やwhatとhowのことについて、先日授業で扱っていたことを再度先輩のお話で聞くことによって、より理解を深めることが出来ました。説明がとてもわかりやすくて、自分で難しく考えていた部分がパッと解けたような感じがしました。 また、読書会後にたくさん質問させていただいた時に真摯に答えてくださって、シーンの話など、特に勉強になりました。本当にありがとうございました。

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というような感じで、物語の骨組みを抽出して、物語を組み替えていくワークショップをやってみました! 楽しかった!

また次回をやるかもしれませんし、やらないかもしれません。ひとまずみなさんお元気で。ご参加いただいた方、ありがとうございました。


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