亀井 孝のアーチェリーノート

アーチェリー選手 亀井孝の娘「Ai」のnote。 2021年8月4日、父が大怪我を負…

亀井 孝のアーチェリーノート

アーチェリー選手 亀井孝の娘「Ai」のnote。 2021年8月4日、父が大怪我を負いました。言葉足らずで不器用な父から毎日届くメールを記録するアカウントです。                                  https://www.a-rchery.net/

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「ステミラック注」

2021年8月4日受傷当日、手術を前に医師の「歩けなくなります」の言葉の意味を、朦朧とした頭ははっきり理解しました。 翌日、病室に移されて家族と会い、そこで初めて聞いた言葉がありました。娘婿が調べてくれた「ステミラック注」です。ニプロと札幌医科大が共同開発した、脊髄損傷の「再生医療」薬です。脊損も再生医療も、何の知識もない中で、この言葉だけが、ここから始まる急性期における、すべての心の支えとなりました。 2週間の急性期がタイムリミットでした。どうしたらステミラック注を受けら

    • 12本のどうしても外れる矢の見つけ方

      アルミアローの時代にシャフトは、120本が1パックになってEASTONから送られてきました。そしてパック同士混ざっても、全く問題はありませんでした。理由は、アルミシャフトはカーボンシャフトでいう、プルトルージョン製法のような「引き抜き加工」で作られていました。この製法は非常に精度の高いパイプが大量に作れる方法で、出来上がったアルミシャフトには寸法や重さのバラツキはほとんどなく、表面処理の必要もありません。 ところが今のカーボンアローは、アルミアローと違って、ほとんどのカーボン

      • では、樽型シャフト はどうやって、何が?

        オールカーボンシャフトもアルミ/カーボンシャフトも、同じ「シートローリング製法」で作られるといいましたが、「樽型」の説明が不足していました。 EASTONの「アルミ/カーボン」シャフトは、製造方法が公開されていないので詳細は分かりませんが、基本的には1984年から変わっていません。オールカーボンシャフトのシートローリング製法と同じです。ただし異なるのは、最後に海苔巻きから芯は引き抜くのですが、芯の外側にマンドレルに代わる薄いアルミコアのシャフトが残されることです。このアルミ

        • 海苔巻きシャフトの作り方

          カーボンアローの市場において、「アルミ/カーボン」と呼ばれる、アルミをコアとして、その上にカーボンを巻き付ける、コンポジットのシャフトを製造しているのはEASTONだけです。その理由は、EASTONが1939年から一貫してアルミシャフトを作り続ける、アルミシャフトで100%のシェアを誇るアルミ専門メーカーだからです。 そんなEASTONが、初めてアルミ/カーボンをデビューさせたのは、1984年のロサンゼルスオリンピックでした。しかし、この時のシャフトは完成品ではなくプロトタイ

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        • wheelchair
          5本
        • Tackle Case
          35本
        • long long time ago
          20本
        • Technique
          6本
        • Archer Avenue
          13本

        記事

          EASTON初めての敗北

          インターネットが登場する1990年代終わりまで、世界選手権とオリンピックはメーカーが新記録と共に、新しい商品をデビューさせる最高の宣伝舞台でした。メーカーはこれらの大会に合わせて、新しい商品をチャンピオンに使わせたのです。 1972年ミュンヘンオリンピック、テイクダウンボウ。1975年インターラーケン世界選手権、ケブラーストリング。1976年モントリオールオリンピック、カーボンリム、2トーンアルミシャフト。そして1984年ロサンゼルスオリンピックでは初めて、EASTONが「カ

          スクリュードライバーは好きですか?

          オレンジを搾ったからといって、オレンジジュースにもなれば、みかん水にもなります。ウォッカを混ぜれば、スクリュードライバーにもなります。そこで、もう少しオレンジのはなしです。 アーチェリー用品にCFRP(カーボン繊維とエポキシ樹脂の複合材)が使われる理由は、軽くて強くて、反発力に富むという性質からですが、同じオレンジでもバレンシアオレンジとマンダリンオレンジでは、色も味も栄養も違うように、カーボン繊維と言っても多種多様です。 カーボン繊維は有機繊維を焼成させて作ります。この焼

          スクリュードライバーは好きですか?

          カーボンリムとオレンジジュース

          1976年、それまでのグラス(FRP)リムにカーボン(CFRP)が貼り合わされた時から、グラスリムとの区別のために少しでもカーボンが入っていれば、それらは「カーボンリム」と呼ばれるようになりました。 この時からアーチェリーの世界では、少しでもCFRPが含まれていれば、カーボンアロー、カーボンロッド、カーボンサイトなどと呼ばれるようになったのです。そしてカーボンは高級品や高性能の代名詞のように扱われ、その名が付くだけで高価な商品となりました。 農林水産省のお達しでは、オレンジ

          カーボンリムとオレンジジュース

          70ポンドのリムの作り方

          コンパウンドボウではなくて、リカーブボウの「70ポンド」のリムを見たことがありますか? 競技用コンパウンドボウの上限は60ポンドですが、リカーブボウでは上限がありません。とはいえ、昔アメリカで100ポンドの弓を引かせてもらったことがありますが、日本で象は射たないのでリカーブの70ポンドのリムを見たことはありませんでした。 70ポンドをどうしても作って欲しいと頼まれました。いろいろメーカーに聞いたそうですが、すべて断られたとのことです。 実は、作ることはそんなに難しくはありま

          どっちが上で、どっちが下リム?

          ティラーハイト(Tiller Height) は、ストリングハイトとは違います。「ティラーハイト」はストリングを張った弓の、リムの付け根部分での弓からストリングまでの長さを表します。しかし、実際にはその長さではなく、上下の数値の「差」を示すことで使われます。その意味で「ティラーハイト=リムバランス」 です。 a 、b の長さをティラーハイトと言う訳ですが、実際には a-b=c が、プラス( a>b )か、マイナス( a<b )か。そして、その「差」( c )が何ミリなのか、

          どっちが上で、どっちが下リム?

          サンドイッチの切り方

          アーチェリーのリムを作る時の作り方は2つあります。「サンドイッチ製法」と「たい焼き製法」です。たい焼きについては、別の機会にお話しするので、今回はサンドイッチについてです。 今皆さんが使っているリムは、多分サンドイッチ製法で作られています。この製法は木製か発泡材の芯材に、CFRP と呼ばれるプラスチック下敷きのようなカーボンの板を、何枚も重ね合わせて接着する方法です。だから「サンドイッチ製法」です。 この時貼り合わせられる素材は、最初からリムのように先細りの形をしているのでは

          スタッキングポイントとボウレングスの微妙な関係

          弓の特性図ともいえる f-x曲線は、「ドローレングス」に対する「ドローウェイト」で描かれます。つまり、アーチャーの引き長さや弓の持つ「パワー」も性能の一部であり、それを無視した設計では、 安定した的中性能を発揮できないことを示しています。 この f-x曲線を見てください。「日本人が日本の弓で、世界の頂点に立つ」というヤマハのコンセプトのひとつです。体格やリーチで劣る日本人を前提に、最大の矢速と安定性をアーチャーに提供すべく設計されたものです。 そこでこの図でも分かるように、

          スタッキングポイントとボウレングスの微妙な関係

          f-x曲線とスタッキングポイント

          弓の長さ「ボウレングス」は、一般に「66インチ」「68インチ」などと表されます。これは弓のチップからチップまでの長さではありません。AMOの規格に準拠するかもありますが、決められた長さのストリングを張った時に、決められたストリングハイトの範囲内に収まるかということで決まります。それは、同じストリングを違う弓に張った時、ストリングハイトが異なることでも分かります。 そんな「弓の長さ」をアーチャーは、どのように選択すれば良いのでしょうか? 近年、アーチャーは「弓の長さ」に対して

          f-x曲線とスタッキングポイント

          1st.-2nd.-3rd. Axis

          パンドラの箱から飛び出したのは、リムの差し込み角度からのポンド調整だけではありません。 「サードアクシス」を知っていますか。リカーブボウではあまり聞くことのない言葉です。直訳すれば「3番目の軸」ということで x-y-z方向、3つの軸のひとつとして語られ、コンパウンドボウで使われる言葉です。 コンパウンドボウでは、主にスコープの調整時に使われます。これはリカーブサイトの発展形として、レンズの付いたコンパウンド用サイトに付加された、通常のリカーブサイトにはない方向への調整機能を指

          パンドラの箱

          「性能」は差し込み角度にだけ、宿るのではありません。 弓が作られるところを想像してください。最初に設計という、図面を引く作業から始まります。(今はコンピュータですが) 最初に1本の直線が引かれます。ハンドル(弓)の「中心線」です。そしてこの線上に置かれるのが、グリップの一番深い所にある「ピボットポイント」です。これがすべての基準になります。 そのうえで、ハンドルがリムと接する「接合点」が決められ、そこに差し込まれるリムの「差し込み角度」が決まっていくわけです。これが決まらな

          クラス分け

          助手席から降りてきた小田凱人は、車いすに頼らず杖を片手に歩き出す。左足には人工関節が入っており、長い距離の歩行は難しいというが、足取りは軽やかだ。歩行時にそれなりの不自由さは確認できるが、誰の手も借りずに階段を上って2階にあるメイクルームに向かった時には驚いた。「筋力の低下を防ぐためにも、普段は立って生活するようにしています」と、本人はリハビリを理由にあげるが、通底しているのはカッコいい自分でありたいという想い。とにかく、見え方、見られ方を強く意識している(ように見える)。

          「美しく射つ」ということについて

          どうして分からないのでしょう? それとも、分かっていながら分からないふりをしているのですか? いや、もうそんなことはどうでもいいくらいのところまで来てしまったのでしょうか。 その昔、日本にはたくさんのマッキニーやペイスがいました。その前にはジョン・ウィリアムスやハーディー・ワードといった世界チャンピオンがいました。それがどうでしょう。今、試合場を見渡しても、いるのは平気で押し手を落としてシュートするアーチャーたちばかりです。それもひとりやふたりではありません。これから日本を支

          「美しく射つ」ということについて