かまめし

ライター。

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あっぱれ!細川宣伝社 第1話

あらすじ 小学5年の細川悠太は、父親とサックス奏者のケンちゃんとの3人でチンドン屋を始めた。亡くなったひいお爺ちゃんの『細川宣伝社』を引き継いだのだ。ある日、ひいお爺ちゃんの部屋から「チンドン奥義」なる額縁が見つかる。奥義は4つ。しかし、書いてあるのは暗号文で意味がさっぱりわからない。一人前のチンドン屋をめざす悠太は、暗号文の解読を試みる。悠太がチンドンの腕を磨こうとするのには、別の理由もあった。実は悠太は、チンドン屋をやっていることをクラスでバカにされていた。「バーカ、カー

    • あっぱれ!細川宣伝社 第9話

      【第9話】  本番の土曜日まで、自宅で女形の練習に打ち込んだ。一番苦戦したのが、歩き方だ。膝に習字紙を挟んで歩くのは、思っていた以上に難しかった。  一方で、驚かされたこともある。習字紙を挟むと内股になって歩幅がせばまり、自然とすり足になるのだ。  歩き方をやっとのことでマスターし、そこにプリンス直伝の表情や所作を組み合わせてみる。  なで肩にして、フォークとナイフを持つようにバチを打つ。中指一本分口を開いて、すり足で進みながら、顔から動かす流し目。  そばにいた母さんが「

      • あっぱれ!細川宣伝社 第8話

        【第8話】  西中の記念祭のあと、僕はクラスでちょっとした有名人になっていた。記念祭でのパフォーマンスが、新聞に取り上げられたのだ。  見出しは『ちびっ子チンドン 伝統のワザ甦らせる』。  電話取材によるネズミ花火とハッタリに対する僕の拙い喋りが、洗練された文章で綴られていた。  休み時間になるたびクラスメイトが机を囲んでくる。  話している最中、教室の隅から視線を感じた。純也だ。ロッカーに寄りかかって、こっちを見ている。クラス替えで子分の博と離れてから、純也は一人でいるこ

        • あっぱれ!細川宣伝社 第7話

          【第7話】  記念祭は二週間後に迫っていた。それなのに……。  甘かった。僕は、ネズミ花火を甘く考えすぎていた。  富山から戻った次の日、挑戦してみたけど全然できなかったのだ。ケンちゃんが撮影してくれた動画を見ても、まるでダメ。  後ろ向きで歩きながら回転しようとすると、足がもつれて転んでしまう有様だ。膝小僧に擦り傷を作ったのなんて、いつぶりだろう。本番ではゴロスを叩きながらやらなければいけないというのに、それ以前の問題だ。  思い通りに動けないのは、イメージがシッカリでき

        あっぱれ!細川宣伝社 第1話

          あっぱれ!細川宣伝社 第6話

          【第6話】  四月。一週目の金曜日。  校庭の桜は、数日前の強風ですっかり散っていた。 「またかぁ……」  言葉と一緒に大きなため息が漏れてしまう。今日から小学校最後の一年が始まるというのに、最悪の気分だ。教室から見える葉桜が余計に気持ちを沈ませる。  新しいクラスは六年一組。純也とまた一緒だった。  窓際の席で頬杖をついて外を眺めていたら、ふいに声を掛けられた。 「今年もヨロシク」  机の横に沙奈が立っていた。沙奈とはこれで六年間同じクラス。「なんか運命感じちゃうね」と続

          あっぱれ!細川宣伝社 第6話

          あっぱれ!細川宣伝社 第5話

          【第5話】  木曜の夕方。  父さんとケンちゃんと、最寄り駅の近くにあるコーヒーショップで待ち合わせた。先日の反省会の続き、チラシ配りの作戦会議だ。  ケンちゃんが先に来て席を確保してくれていた。傍らにサックスケースが置いてある。  レジでココアを購入してから席に着く。 「ケンちゃん早かったね」 「バイトが早く終わったから」  耳からイヤホンを抜くケンちゃんを見て、疑問が浮かんだ。 「そういえば、バイトって何やってるの?」 「スタジオミュージシャン。アーティストがCD作ると

          あっぱれ!細川宣伝社 第5話

          あっぱれ!細川宣伝社 第4話

          【第4話】  三月半ばの土曜日。  僕らはショッピングモールでチンドンを披露した。新入学セールの宣伝で、まずまずの出来だった。  新生細川宣伝社になって一発目の仕事ということもあり、心機一転、それぞれ衣装を新調していた。  父さんは、白の地下足袋に着流しで、角刈りのカツラ。土地土地を股にかけて旅をする股旅のいで立ちだ。  ケンちゃんは、黒革のジャケットとパンツはそのままで、首にワンポイント。赤いスカーフをまいている。正義のヒーローを意識したという。  問題は僕だ。草履に黄色

          あっぱれ!細川宣伝社 第4話

          あっぱれ!細川宣伝社 第3話

          【第3話】  年が明けた最初の日曜日。  昼下がり、人影もまばらな近所の公園に、僕らはチンドンの練習に来ていた。ケンちゃんも一緒だ。  フリーターのケンちゃんは、ウチから歩いて五分ほどのアパートで一人暮らし。年末年始はどこにも行かず、部屋で映画を見て過ごしたという。バンド経験者だけあって、普段は音楽関係のバイトをやっているらしい。  ケンちゃんが細川宣伝社に加わったのは、去年のお盆過ぎだった。町内会の掲示板に貼り出した『チンドン楽士募集』のチラシを見て連絡してきた。  楽士

          あっぱれ!細川宣伝社 第3話

          あっぱれ!細川宣伝社 第2話

          【第2話】  東京の下町。僕が暮らす地域には、年に二回、人がどっと押し寄せる。正月の初詣と夏の水かけ祭りのときだ。今日は、その正月のほう。  元日の午前。自宅からほど近い神社は、想像以上の混みようだった。受験生らしき人たちが目立つ初詣の列は、三十分で十メートルも進まない。  参拝客が増えたのは数年前から。受験生向けに「ゼッタイ落ちない」と謳った油性マジックと絵馬のセットを販売したところ、SNSで拡散され大きな話題となったのだ。  気温は低いはずなのに、人混みにいるため、それ

          あっぱれ!細川宣伝社 第2話

          13歳の壁を乗り越えろ 第1話

          あらすじ 中学1年の子役タレント塩田正樹は、芸能界の壁にぶち当たっていた。中学生になった子役に立ちはだかる『13歳の壁』だ。その壁を乗り越えられずギョーカイを去った子役は数えきれない。一方で、乗り越えれば今後も活躍できるとされていた。その壁を乗り越えるため、正樹は番組で共演している同い年の篠原夢叶と共に新企画を立ち上げる。児童自立支援施設の現状を見つめるドキュメンタリーだ。しかし、放送直前、正樹に関するスクープが週刊誌に報じられてしまう。番組が取材した元不良の少年が施設を脱走

          13歳の壁を乗り越えろ 第1話

          13歳の壁を乗り越えろ 第10話

          【第10話】  翌朝、夜が明けきらないうちに目が覚めた。  5時15分。グッスリ眠ったせいか、やけに目覚めがいい。二度寝もできそうにないので、母さんに録画してもらった記者会見を見ることにした。前の日の自分のやつだ。  リビングでHDDレコーダーの電源を入れ、録画一覧の画面を出す。それを見て、「あっ」と声が漏れた。  録画されていたのは、憧れの権藤キャスターのニュース番組だった。  考えてみれば当然だ。会見した時間、ズバ解の放送局では権藤キャスターのニュース番組を放送している

          13歳の壁を乗り越えろ 第10話

          13歳の壁を乗り越えろ 第9話

          【第9話】  週刊新風の発売日、前日。  昼過ぎに、花林社長が記事を持って自宅に駆け込んできた。  手渡されたゲラには、またも人を小馬鹿にしたような見出しがある。もちろんクエスチョンマークつき。    『リア充熱愛スクープ! 夢叶姫、正樹を尻に敷く?』  白黒の見開きページに、二枚の写真が載っていた。  一枚は夢叶ちゃんが僕の肩を叩いている……ように見える写真。  もう一枚は、僕が夢叶ちゃんの手を握っている写真だ。  それを見た母さんは、「ギャッ」と尻尾を踏まれた猫のような

          13歳の壁を乗り越えろ 第9話

          13歳の壁を乗り越えろ 第8話

          【第8話】  スペシャル企画のロケ一週間前。  レギュラー放送の収録後、テレビ局のカフェテリアでミライさんを交えて打ち合わせが行われた。トモちゃんは別件の仕事があって欠席だ。  カフェテリアは、レジで注文して先に支払いを済ませるタイプ。僕はそれとなく夢叶ちゃんの後ろに並んだ。  先頭の小池さんが注文を促してくる。 「一緒に払うので、みんな注文しちゃってください」  夢叶ちゃんがカフェオレを注文したのを聞いて、僕も同じものを頼んだ。  まただ。またやってしまった。本当はメロン

          13歳の壁を乗り越えろ 第8話

          13歳の壁を乗り越えろ 第7話

          【第7話】  10月半ば過ぎ。週刊誌の騒ぎは、すっかり収束していた。しかし、SNSでの夢叶ちゃんへの誹謗中傷は相変わらずだ。  小池さんから呼び出されたのは、ちょうどその頃。ZCPのことで話があるという。  平日の午後、集合場所は前に集まったファミレスだ。学校が終わってから駆け付けると、ボックスシートに小池さんの姿があった。ノートパソコンでカタカタ何やら打ち込んでいる。 「お疲れ様です」と向かいに座った僕に、小池さんは「あとちょっとで終わるから」と画面から目を離さずに言った

          13歳の壁を乗り越えろ 第7話

          13歳の壁を乗り越えろ 第6話

          【第6話】  家族みんなで見たズバ解スペシャルは、いつもとはガラリとテイストが異なり別番組のようだった。  夢叶ちゃんが、ヒトミちゃんに話を聞いて泣き出すシーンも使われていて、その場面で母さんは涙ぐんだ。現場にいた僕でさえ、改めて鼻の奥がツンとなった。  それほど涙のシーンへの導き方が秀逸だった。小池さんの話の組み立てが冴えていたのだ。  そこまでのストロークは、こんな感じだ。  夢叶ちゃんとヒトミちゃんの対談がひとしきりあって、洗濯物を畳むヒトミちゃんの姿が挟み込まれた。

          13歳の壁を乗り越えろ 第6話

          13歳の壁を乗り越えろ 第5話

          【第5話】  ズバ解スペシャルの放送を3日後に控えた、夏休み最後の水曜日。  スペシャル企画の正式タイトルは『ズバ解夏休み緊急スペシャル。僕の悩み私の悩み、それでもみんな前を向く』に決まった。  編集作業とナレーションの収録が無事終わったと、きのう小池さんからLINEが届いたばかりだ。少女漫画のように瞳をキラキラさせたウサギのスタンプ付きだった。小池さんなりに手応えがあったのだろう。  初めてのロケに加え、放送時間も拡大されて、いつもの2倍の60分。仕上がり具合が気になって

          13歳の壁を乗り越えろ 第5話