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【Netflix】「ダンスは悪魔のために」家族と宗教、どっちが「カルト」か?

【概略】

ダンスは悪魔のために: Tik Tokカルト7Mの実態
Dancing For The Devil: The 7M TikTok Cult

2024 | 年齢制限:16+ | 1シーズン | ドキュメンタリー

TikTokダンサーたちが、教会とその運営するマネジメント会社に所属。次第に、教会創設者にまつわるおぞましい真実と、この組織を取り巻く深い闇が露呈していく。
(Netlix公式サイトより)

予告編


【評価】


5月29日に公開された新作ドキュメンタリー。60分×3回。

アメリカでは好評のようだけど、日本ではどれだけ見られているのだろう。

そもそも、このTikTokダンスグループの事件は、どれほど知られているのか。

私は初めて知った。


ドキュメンタリーの内容にも、手法にも、私は数々の疑問を感じざるを得なかった。


ドキュメンタリーのあらすじ


話は2019年、ミシガン州からLAに出てきた姉妹、ミランダ(姉)とメラニー(妹)が、ミランダの恋人をつうじて、LAの「シェキナ教会」牧師、ロバート・シンと出会ったところから始まる。

姉妹はともに、LAでダンサーとして成功することを目指し、ふたりで踊る動画をTikTokで披露していた。

妹のメラニーは、シェキナ教会になじめずに離れるが、姉のミランダは、シェキナ教会と深くかかわるようになる。

ミランダは、恋人をふくめたダンス仲間と、牧師の家で共同生活を始め、TikTokでグループのダンスを披露するようになる。

ロバート・シン牧師は、彼らがTikTokで支持を得ているのを見て、彼らダンサーのためのマネジメント会社「7M」を立ち上げる。

「7M」は、TikTokでの700万視聴、または700万フォロアーを目指す、という意味らしい。

シン牧師は、今風の格好・今風の曲で踊る彼らに、昔のヒット曲で踊らせたり、スーツを着て踊らせたりした。

そうしたシン牧師のアイデアが当たり、2021年ごろには、彼ら彼女らはTikTokで大人気となり、CMの仕事などが舞い込むようになる。

だが同時に、姉のミランダが、メラニーをはじめ家族と連絡をとらなくなる。もう二度と家には戻らない、という。

家族が調べたところ、どうやら「シェキナ教会」はカルトであり、シン牧師が若者たちを洗脳して、自分たちのためにタダ働きをさせているらしい。

2022年、メラニーと家族の、ミランダをカルトから救い出す作戦が始まったーー


姉妹の仲がよかったころの動画↓(2020年)


ミランダが家族から離れ、7Mのマネジメントで踊っている動画↓(2021年~)



不公平な内容


ちょうど、コロナ期間中の話だ。

私もこの間、よく「踊ってみた」動画を見た。世界中でダンス動画がブームだった。

この事件は、そういうなかで起こっている。


でも、いろんな意味で評価が難しいドキュメンタリーだ。

このドキュメンタリーは、シェキナ教会を「カルト」だとする家族の立場から描かれている。

ロバート・シン牧師ふくめ、教会側が取材を一切拒否しているため、公平な内容とはいいがたい。


オウム真理教事件の最初、江川紹子やサンデー毎日の牧太郎が、「息子、娘たちを返せ」キャンペーンをやったことを連想した。

それがオウムを下手に刺激して、むしろ解決を遠ざけて事件を大きくした。

(それについては、「小説 平成の亡霊」で描いた)


このドキュメンタリーでも、メラニーの家族の視点で描かれるため、家族の問題は取り上げられない。

だが、成人した娘をいつまでも家族のなかにとどめ、母の日や父の日やクリスマスのたびにプレゼントをやりとりしたい、というこの家族も、私の感覚ではそうとう気持ち悪い。

ミランダが家族から離れたいと思う気持ちも分かるのだ。


「家族」と「宗教」と、どっちがより「カルト」か、と考えてしまう。

カルト宗教も人を傷つけるかもしれないが、殺人の4割は家族関係で起こり、家族内のレイプ事件も多い。

家族イデオロギーもひとつの洗脳だ。家族を神聖化するのは間違いである。


フェミニズムの過剰


そもそも、ドキュメンタリーで言われていることは、まだ「事件」になっていない。

監禁や誘拐、傷害などの事実は認定されていない。「洗脳」は罪にならない。

メラニーの家族が社会に訴えたあとも、ロバート・シン牧師ならびに教会は刑事告訴されておらず、経済的搾取についての民事裁判が2025年から始まるようだ。


タイトル「ダンスは悪魔のために」が示すように、このドキュメンタリーは牧師を文字どおり「悪魔化」しているが、大丈夫なのか。牧師も、批判信者側を名誉棄損で訴えているようだ。

このドキュメンタリーの評価は、裁判になり、より公平に両者の見解が出てからでもいいのではないか。


また、このドキュメンタリーは、後半になると、ほとんどフェミニズム扇動的になる。

男の宗教指導者に、女が洗脳され抑圧され搾取された、という構図が強調される。

「マッドマックス」の新作がフェミニズム過ぎると批判されているようだが、こういうのが最近の流行りなのだろう。

フェミニズムも結構だが、男の側の言い分をまったく聞かないのでは、公平でなく、興ざめする。


アジア系


私が興味を覚えたのは、このロバート・シン牧師のバックグラウンドだ。見かけがアジア人だからね。

でも、どういう経歴の人なのか、ドキュメンタリーはほとんど教えてくれない。

ロバート・シン牧師


名前(Shinn)から、牧師は中国系アメリカ人だと思われるが、彼の教会の信者は、おもに黒人やアジア系の移民だったようだ。

LAにチャンスを求めて移民してきた、貧しく孤独な若者が信者になった。彼らの多くは、家族に育児放棄などの問題があったようだ。


だから、このドキュメンタリーの主役である白人姉妹は、信者の典型ではないっぽい。

白人が問題にしたから、大騒ぎしている、という側面を感じる。


アジア系の信者では、キリスト教徒が多い韓国人が多かっただろう。

このドキュメンタリーでも、過去にシェキナ教会の信者だったという韓国人姉妹が登場する。

この韓国人姉妹の、感情的で他罰的な態度も、このドキュメンタリーの公平性があやしいと思わせる理由だ。


すべてはSNSのために


ただ、メラニーの家族が中心になるのも、そして、そもそもこの件が世間に露見したのも、メラニーらが上手にSNSを使って訴えたからだった。

事件の原因をつくったのもSNSで、事件を大きくしたのもSNS。

SNSがすべての中心に存在するのが今っぽい。


このドキュメンタリーも、ドキュメンタリーといいつつ、手法はSNS的だ。

典型的なのは、韓国人姉妹の姉が、カメラの前で話す場面。

そこは、ソウルのカフェで、背後には普通に一般客が座っている。

しかし、「一般客」は、そこにカメラがないように振舞っている。まわりの「一般客」もエキストラなのだろう。

そういうふうに、「日常」が演出されているので、どこまでが日常の現実で、どこからが演出か分からない。

それこそSNS的だと思う。


普通人が、「日常」を売り物にしているうちに、「普通」も「日常」も信用できなくなる。

SNSの発信者も、何が「現実」なのか混乱し、SNSで発信しないと「現実感」を得られなような、「虚実皮膜」の人生を生き始めているのではないか。

ドキュメンタリーが依拠すべき「真実」が、読み取りにくくなった時代だと感じた。



<参考>

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