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【Netflix】「幻を売る男」投資詐欺に騙される快感

【概略】

幻を売る男: ヘネラシオン・ソーイ詐欺事件
El vendedor de ilusiones: El caso Generación Zoe(原題)
Illusions for Sale: The Rise and Fall of Generation Zoe(英語題)
2024 | 年齢制限:13+ | 1時間 47分 | ドキュメンタリー

アルゼンチン史上まれに見る詐欺の隠れみのになっていたスピリチュアルコーチングネットワーク、"ヘネラシオン・ソーイ"。組織が勢いを増し、やがて崩壊してゆくまでに迫るドキュメンタリー。
(Netflix公式サイトより)

予告編


【評価】

5月23日に世界公開された新作。これはなかなかいいドキュメンタリー。


日本でも大流行の「投資詐欺」。そのアルゼンチン版のインサイドストーリーです。

日本の最近で言えば、「ザ・グランシールド」事件なんかに近いかも。でも、規模はもっと大きい。

事件の発生も新しい。ほぼコロナに入ってからの話。犯人も2022年につかまったばかりで、裁判はこれから。


主犯のレオナルド・コシトルトの父親は、出版社を経営していたらしい。

その出版社が倒産し、コシトルトは若いころから、父と本を行商で売り歩いた。

その経験から、人をまるこめこむ天才的話術を身に着けたようだ。


最初はコーチングのセミナーから始めて、投資すればドル建て7・5%の利率で還元するという金融プラットフォーム「ヘネラシオン・ソーイ」を生み出した。

数百ドルから「投資」できるので、庶民の人気を集めた。入会は紹介のみ。紹介者には「ソーイ」から多額の謝礼が出る。

要はネズミ講だが、「コーチング」「暗号資産」など新しめの概念をちりばめて、最新ビジネスのようによそおった。


「トレーディングルーム」を公開し、集めたカネであたかもトレードをしているように見せかけたが、ただシミュレーションを繰り返しているだけだった。

コシトルトは、「投資」などはしていない。使途の全貌はなお不明だが、たぶん自分たちのぜいたくに使っている(残りは追跡不能な形で隠匿しているかもしれない)。


会員がふえている限り、ニセの「配当」だけは払えるが、ある日、多くの会員が「元金を返してくれ」と言い始めたら、ウソがばれる。「ソーイ」にカネはないのだから。

そうして「ソーイ」は崩壊し、コシトルトは逮捕された。だがコシトルトら幹部は、「自分たちはビジネスをしていただけ」「闇の勢力にハメられた」などと無罪を主張している(一部は逃走中)。


日本では有名人の名をかたる投資詐欺が流行だが、ヘネラシオン・ソーイは、コシトルトの話術だけで数億ドル(一説には4億ドル)集めたというのだから、たいしたもの。

イケメンでもない太ったおっさんの彼が、なぜそんなに人気だったのか。写真を見ただけではわからない。


このドキュメンタリーの価値は、騙された側、マルチの会員になってコシトルトの忠実な先兵になった側の視点から、事件を描いているところ。

被害者である彼ら彼女らは、ある意味で騙されたがっていた。

コシトルトは、上手に「夢」を見させてくれたわけだ。


「しょぼい人生だ」と自分にがっかりしている人たちに、「高級車を買えるかもしれない」「ぜいたくを味わえるかもしれない」「人生を変えられるかもしれない」という希望を与える。

希望を与えられて、彼ら彼女らの顔は喜びに輝く。「夢を見る」ことで、人生を取り戻したように感じた、と語っている。


騙されたことに怒っているというより、「騙しつづけてほしかった」と顔に書いてある。

詐欺の渦中にある「高揚感」がよく伝わるドキュメンタリー。

こういう映像を見せられると、詐欺がなくならない理由がよくわかります。



<参考>




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