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【Netflix】「ヒルビリー・エレジー」トランプ人気を理解する鍵「白人貧困層」を描く 副大統領候補の自伝映画

【概要】

ヒルビリー・エレジー -郷愁の哀歌-

2020 | 年齢制限:16+ | 1時間 57分 | ヒューマンドラマ

イェール大学ロースクールに通う青年は、突然の連絡を受けて帰郷したオハイオの田舎で、3世代で暮らした家族の過去と自分の未来に思いをはせる。

出演:エイミー・アダムス、グレン・クローズ、ガブリエル・バッソ
(Netflix公式サイトより)


予告編



【評価】


いわずと知れたトランプの副大統領候補、J・D・ヴァンスの自伝映画。


2020年の映画だが、今月15日、ヴァンスが副大統領候補に指名されたとたん、Netflixでの視聴率は1180%、つまり10倍以上に跳ね上がり、原作の同名自伝は、アメリカで再びベストセラーリストに入った。(英語版Wikipedia「Hillbilly Elegy」)

原作を読んでないわたしも、あわててNetflixで見たクチです。


ヴァンスは、トランプが勝てば4年後には大統領候補だし、高齢のトランプに何かあれば彼が大統領だ。今回トランプが負けても、年齢(39歳)からいって、長くアメリカ政界のキーパーソンになるでしょう。

「ヒルビリー・エレジー」は、映画か本かで、やはり見ておかなければならないと思った。


副大統領候補に指名されたJ・D・ヴァンスと、インド系の妻ウシャ(People)


映画のほうは、2016年出版の原作をもとに、巨匠ロン・ハワードが撮っています。

「ヒルビリー」とは、アメリカで「田舎者」のこと。

映画が描くのは地方の白人貧困層ーーそうした層が、トランプの主な支持層だと言われている。


最初に言っておけば、面白いっすよ、この映画。

わたしも貧困層出身だから、共感したし(わたしもヴァンス同様、奨学金とバイトで大学に通った。親も援助はしてくれたが)。

少なくともわたしは、映画を見て、明るい、前向きな気持ちになれました。


Netflix映画だから、アメリカでも日本でも、一部の劇場でしか公開されませんでしたが。

アカデミー賞をとっても、おかしくなかったと思う。

だけど、のちに述べるように、賛否がはっきり分かれた映画でした。


「レッドネック」と蔑称される、中西部の貧しく無学な白人たち。

その環境のなかで、ちょっとデブのガキ、J・D・ヴァンスが、苦闘の末、名門イェール大学ロースクールを卒業するまでを描いている。

母親は、シングルマザーで、苦労してJ・Dを育てる。だが、貧しく報われない生活から薬物中毒となり、J・Dにも暴力を振るうようになる。

J・D自身も、不良たちと付き合い、生活が乱れていく。

そんな親子を見かねて、J・Dの祖母がーーやはり貧しく病気持ちだがーーJ・Dを引き取って育てる。

「私は、娘を育てるのに失敗したが、孫のお前はきちんと育てたい」という祖母の思いに応えて、J・Dは勉学に頑張り出す。

だがJ・Dは、母親も貧困の犠牲者だと分かっていて、母親に愛憎相半の感情をいだく。

最後、薬中でボロボロになった母親が、大学卒業目前のJ・Dの手を握り、「私とずっと一緒にいて」と懇願する。

だが、そのとき、J・Dは、法律事務所での重要な就職面接をひかえていた。

母親の手を振り払えないでいるJ・Dは、ある決断をするーーというのがクライマックスになっている。


息子が副大統領候補に指名されて、祝福を受けるJ・D・ヴァンスの母。麻薬は絶っている(Wall Street Journal)


前述のとおり、この映画は評価が割れて、アカデミー賞とラズベリー賞(最低映画賞)の両方にノミネートされた。(祖母役のグレン・クローズがアカデミー賞助演女優賞候補、ロン・ハワードがラズベリー賞監督賞候補、など)

評価が高かった祖母役のグレン・クローズ


否定派は、「紋切り型のお涙頂戴もの」「貧困ポルノ」だと酷評した。

これも、アメリカの「分断」の象徴だろう。


原作は読んでないから知らないが、映画には、トランプはもちろん、政治家や政治活動家は出てこない。政治と直接関係ない内容である。

だが、最初から、政治の色眼鏡で見られる対象だった。

トランプの人気を引き上げたタイトル、トランプの人気を説明するタイトルだと言われたため、どうしてもトランプへの好き嫌いが、評価に入り込む。

原作「ヒルビリー・エレジー」がベストセラーになった2016、17年は、ちょうどオバマの末期、トランプの第一期で、そのときも、「トランプ人気を理解するための必読書」だとNYタイムスは評した。

当時は、J・D・ヴァンスはまだ政治家ではない。トランプにも批判的なことを言っていた。2022年に上院議員に当選し、2期目をねらうトランプの副大統領候補になるとは、世間は思わなかっただろうし、ヴァンス本人も思わなかっただろう。

いままた、副大統領候補の自伝だという興味で見られている。

わたしも、それがなければ、積極的に見る気にはならなかっただろう。

虚心に楽しむことが難しくなった映画。それが、映画にとって幸いなことだとは思えない。


個人的には、わたしが密かに愛するヘイリー・ベネットが、ヴァンスの姉役で出てるので、得点が高い。

ホラー映画「クリスティ」のときから好きでした。「イコライザー」では、すぐ殺されて出番が少なく、がっかりしていた。

そのヘイリー・ベネットの巨乳がやたら気になる映画でもある。


母役のエイミー・アダムス(左)と、姉役のヘイリー・ベネット


巨乳はともかく、この映画が好きだからといって、トランプを支持する必要はない。

また、トランプが嫌いだからといって、この映画を見ないのは、ちょっともったいない。

そんな映画です。


わたしは、トランプがJ・D・ヴァンスを副大統領に指名したのは、石原慎太郎が猪瀬直樹を都知事の後任に指名したのと、似ていると思いました。

なんとなくですが。

ヴァンスが大統領になれば、文人大統領として、ゲーテみたいな存在になるかも知れない。

ヴァンスの「ヒルビリー・プレジデント・エレジー」を読みたいと思う。(猪瀬みたいにズッコケないで欲しいと思う)


<追記>

後で気づいたが、猪瀬直樹氏は、J・D・ヴァンスの副大統領候補指名に敏感に反応し、noteに「ヒルビリー・エレジー」について書いていた。



<参考>



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