見出し画像

「ストーカー」の始まり

18日、枚方市のマンションで遺体で発見された関西外語大の女子大生(19歳)。上半身を複数刺されていた。

犯人は、彼女をストーキングしていた26歳の男でした。

制服姿でほほ笑む女性。
大阪・枚方市のマンションで死亡していた、大学生の渡邉華蓮さん(19)。渡邉さんを殺害した疑いで逮捕されたのは、無職の西光勝容疑者、(26)。事件前には、渡邉さんが知人に、交際相手に関する相談をしていたことがわかった。
渡邉さんの知人「やっぱり『ストーカーされていた』って言っていたので」

FNNプライムオンライン(2024/5/20)


2人は、3カ月ほど前にネットをつうじて知り合い、一時は半同棲状態だったが、渡邉さんが別れ話を切り出したことで男がストーカーと化し、今回の事件にいたったようです。

亡くなった渡邉華蓮さんは福島県出身。明るい性格という周囲の評判や、あどけなさの残る顔写真が公表されたことで、さらに同情が集まっている。

まだ19歳。いちばん楽しい時期が始まり、人生はこれからなのに、本当に痛ましい。



この件ではちがうようですが、入学や入社時期の春は、ストーカーを生みやすい季節です。


1988年のリチャード・ファーレー事件(ESL銃撃事件)も、1984年の春から始まりました。

カリフォルニア州のハイテク企業「ESL」に勤めるエンジニア、35歳のファーレーが、新入社員の22歳のローラ・ブラックに一目ぼれして、しつこくつきまとうようになる。

ローラの申し立てでファーレーは会社をクビになるが、それを恨んだかれはローラがいる「ESL」を銃撃し、死者7名、負傷者4名の大惨事となった。ローラも負傷者に含まれます。


この事件が大きなきっかけとなって、1990年にカリフォルニア州で最初のストーカー規制法ができ、1997年までにアメリカ全州でストーカー規制法が制定されました。

それと同時に「ストーカー」「ストーキング」という言葉が世界に広まった。つまり、この事件が、社会が認知する「ストーカー」の始まりと言っていい。

ストーカーという言葉は、わたしのような高齢者の人生前半にはなかった。比較的新しい言葉なのです。



わたしはたまたま数日前、このファーレーの事件を思い出していました。

5月17日に、Netflixの新作「花嫁のママ」でブルック・シールズが復活したという記事を書いたのですが、彼女は、このESL銃撃事件の映画化のさい、被害者ローラ・ブラック役で主演しています。

1993年のテレビ映画「ストーカー異常性愛」(原題 I Can Make You Love Me または Stalking Laura)です。


予告編動画


1990年代はブルック・シールズの低迷期でしたが、この映画は(テレビ映画とはいえ)彼女の印象的な主演作でした。

「花嫁のママ」の記事でも、この作品に触れようかと思っていました。

わたしはこの映画を、むかしTSUTAYAで借りて見ました。日本語版ビデオで。

VHS版を中古で買って、わたしはまだ持っている。その後ソフト化はされてない模様


この映画はストーキング被害について啓蒙する役割を果たしたし、わたしも「ストーカー」というものをこれで初めて知ったように思います。

映画化にあたって被害者のローラ・ブラックが協力していて、映画的な誇張が一部にあるけれど、おおよそ正確に事件が描かれているとされます。

名優リチャード・トーマスが犯人のファーレーを演じ、ストーカーの恐さを好演している(見る人によっては、恐すぎるかもしれない)。


もちろん、ストーキングという行為そのものは大昔からありました。

でも、1980年代までは、しょせん色恋沙汰の延長で、「女のほうも誘った責任がある。女も悪い」と思われていました。

加害者のストーカーは、前科がない、ふだんは真面目な男であることも多い。

ESL銃撃事件のリチャード・ファーレー。独身ながら、ハイテク企業のバックグラウンドチェックにも引っかからなかった、ふだんは真面目な男だった


だから、世間も警察も、最初はまともに取り合わず、このESLの事件では、ストーカー行為は4年にわたった。

その深刻な帰結への認識がなかったのです。それが、この映画を見ればよくわかります。


日本では、1999年の「桶川ストーカー殺人事件」をきっかけに、2000年に初めて「ストーカー規制法」ができました。アメリカから10年遅れていた。

そういう新しい言葉・概念なので、まだ世間に深く浸透しているといえず、いまもなお、対策が十分にできていない。



枚方の事件の被害者、渡邉華蓮さんは、ストーカー行為に悩みつつも、「警察に相談すると、相手を怒らせるかもしれない」と言って、結局警察には行かなかったようです。

この渡邉さんの怖れが分かるのは、ストーカー事件で、実際に警察に相談したことで事態が悪化する前例があるからです。


ストーカー事件の古典となったESL銃撃事件もまさにそうで、ローラが警察に相談し、法的な接近禁止命令がファーレーにあたえられたことが、結果的にファーレーを自暴自棄にさせる原因になっています。

先日の西新宿タワマン事件でも、警察の介入は功を奏しておらず、むしろ事態を悪化させた可能性があります。


ESL銃撃事件などをきっかけに、ストーカー行為を重罪に問えるストーカー規制法が誕生したわけですが、それで十分ではなかったのですね。

アメリカでも、ストーカー規制法だけでは被害を防げていないと問題になっている。すべての相談に応じるだけのリソースが現状では警察にないことも認識されている。


日本でも、こうした「警察に相談しにくい」現状を変えるために、ストーカーへの、もう一段厳しい対策が必要です。


念のため言っておけば、女が男をストーキングする例もある。だけど、圧倒的に被害者は女性です。

女の側から見れば、付き合っていようといまいと、どの男が突然「ストーカー」に変貌するか、事前にわからない。それが恐ろしいところで、誰でも潜在的に被害者になりうる。


今回の枚方の事件でも、また西新宿タワマンの事件でも、2021年の大阪のカラオケパブ「ごまちゃん」事件を思い出した人は少なくないのでは。

25歳の女性オーナーが、56歳の妻子ある常連客に、4年近くストーキングされたあげく、店で惨殺された。

それらの事件での殺され方は、すべて刃物のメッタ刺しで、似ている。いつもは気弱な男が、女性ひとりのところを襲い、激情的に殺す。ストーカーは恐ろしいのである。


ブルック・シールズも復活したことだし、ストーカーの恐ろしさがわかる、彼女のこの1993年の映画を、あらためて広く見られるようにしてほしい、と思ったのでした。


実際のローラ・ブラック。ファーレーの銃撃で肩と肺に重傷を負ったが、回復後ESLに職場復帰し、その後は投資銀行家になったとされる(追記に記したJackie Floresの動画より)


なお、ESL銃撃事件犯人のファーレーは、死刑判決を受けましたが、まだ獄中で生きているようです(75歳)。


<追記>
YouTubeに「Stalking Laura」全編がアップされている。著作権がどうなってるかはわからないので、視聴は自己責任で。


また、以下は、この映画でストーキングの恐ろしさを知ったという人気YouTuberが、実際の事件を振り返ったドキュメンタリーです。


She was stalked by her coworker for over 4 years...The true story behind the movie "Stalking Laura"
(Jackie Flores 2022/9/23)


<参考>


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?