四季詩集

四季詩集(1)

 「四季詩集」というものをご存じでしょうか。私はつい数か月前に知りました。「何か詩を読みたいな」と思った時に、様々な詩人の作品を収録した詩集がないものか、と考えてGoogleに頼った結果辿り着いた一冊です。私は現代詩人より昔の詩人の方が馴染みがあるので、四季詩集はあまり抵抗なく読めるのではないかと考えて、古本屋さんで購入しました。80年くらい前の本で1万円しました。。。
 せっかく読み進めていくのだから、感じたことを記録しておこうと思います。絶版本なので、そもそも読んだことのある方は殆どいないと思いますが、気になった詩を紹介していきます。

四季詩集とは

 詩誌「四季」の同人の作品を収録した詩集です。「四季」は昭和8年創刊の詩誌で、萩原朔太郎室生犀星井伏鱒二中原中也伊東静雄立原道造らが同人として参加し、風立ちぬで知られる堀辰雄が編集に携わっていました。

四季詩集 概要

タイトル:四季詩集
著者:丸山薫 編
出版社:山雅房 昭和16年(1941年)
価格:3円50銭
発行部数:限定800部
参加詩人:
井伏鱒二、乾直恵、内木豊子、大木実、木村宙平、阪本越郎、神保光太郎、杉山平一、竹村俊郎、竹中郁、田中冬二、立原道造、高森文夫、津村信夫、塚山勇三、萩原朔太郎、福原清、丸山薫、眞壁仁、槇田帆呂路郎、三好達治、室生犀星、村中測太郎、薬師寺衛 (50音順)

井伏鱒二『つくだにの小魚』

そして水たまりの水底に放たれたが
あめ色の小魚達は
互いに生きて返らなんだ

 水溜まりにこぼれ落ちた小魚のつくだ煮が、生き生きとして見えても死んでいるという事実に、もの悲しさが漂っています。つくだ煮として持っていたのだから当然にして死んでいるのですが、水溜りに落としたことで小魚たちが生きていた情景が思い浮かび、命を頂くという行為を唐突に意識させられます。水底に沈んでいく小魚達にも命があったという事実を改めて認識したことが「互いに生きて返らなんだ」という一文から伝わってきます。

井伏鱒二『冬の池畔 ー 甲州大正池 ー』

堤に雉が三羽舞いおりた
私は蟲くいの釣竿を持ち
案山子のように立っている

 冬は寂しさを感じる季節です。池には沢山の鴨、土手には一羽の雉がいて、連帯感と孤独感の対比が表現され、寂しさが際立っています。そんな中、借り物の釣竿で寒鮒釣りを始めます。寒さに耐えかねて懐炉を温め直すのですが、土手を見やると三羽の雉が舞い降りてきます。雉は決して孤独ではなかったのです。一方で自分は案山子のように立っていて、「鴨と雉」に対する「連帯感と孤独感」だったはずが、「鴨雉と自分」が対比する構図になっていることに気付いてしまいます。寒々とした池畔で強烈な孤独感を前にして佇んでいる自分。しかし手には借り物の釣竿が握られていて、借り物であることから他者との繋がりが暗示されています。(しかし、恐らく当の本人はそのことに気付いません)単に孤独感や絶望感で終わらせることのない、懐炉のような温かみを含ませている詩だと感じました。

詩人としての井伏鱒二

 小説家のイメージが強い作者なので、非常に新鮮な印象でした。日常を切り取って、難解な比喩表現は用いずに淡々と紡がれていく文章が、読みやすいのと同時に綺麗です。難解な表現に拘るのも良くないのかな、と思うほどです。決して小説的ではなく、あくまで詩的に物語が展開されて「散文詩も上手なんだろうなぁ」と思いました。
 特に『冬の池畔 ー 甲州大正池 ー』では「借り物の釣竿」がポイントになっていて、最後に伏線を回収するような感動も覚えました。何より、単に読み流してしまうと辿り着けない真意のようなものが隠れているようで、唯一無二の表現者だと感じました。

終わりに

 一気に数人の詩人の作品をまとめようと思いましたが、結果的にひとりしか紹介できませんでした。少しずつ読み込んでいって、不定期で紹介していきたいと思います。できれば順番に全員紹介したいですね。

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