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Vol.9 川端康成「雪国」を読んで

これ、ノーベル文学賞の審査対象になった作品。

「雪国」の英訳(サンデンステッカー)がとても素晴らしかったために、川端自身、「ノーベル賞の半分はサンデンステッカー教授のものだ」と言い、実際に賞金を渡している(ウィキペディアより)

さて、感想文。この小説、なかなか難しい。

なんだかもやっとしたストーリーで、展開が一行で変わり、一回読んだだけでは、感想文の域にも達せない難しさがある。ただ、冷え冷えとした寂しさだけは伝わった。

親の遺産で無為徒食に生活を送っている旅の男「島村」と、芸者として生きている「駒子」との淡く儚げな関係を、雪深い温泉街を背景に、抒情性豊かに描かれている。

この作品が書かれたのは、今から80年以上前の昭和10年前後。満州事変や犬養毅首相を射殺、2・26事件など、軍部の暴走が目立ち政党内閣が滅びる時代。また、昭和9年には東北の大凶作で娘の身売りなどが続出とある。

そんな社会情勢の中で、川端先生は、実際に長岡の芸者置屋で、多数の芸者を並べ、取っ替え引っ替えあの大きな目で温泉芸者を観察したと、なにかで読んだ記憶がある。なんだか気持ち悪い。

ただ、ここに描かれた芸者たちの優しい心情ときびしい目と孤独感は、なぜかとても心地よく感じた。特に「駒子」の描写は、複雑な人間関係の中、苦い経験を重ねながらもみんなに優しい。そして芸者として荒んだ様子もなく、たくましく生きている様に触れたいと思った。

一方、親の遺産で無為徒食の生活を送っている「島村」という男は、「駒子」が人の治療費を稼ぐために芸者になったことを徒労だと躊躇なくいう言い放つ奴。人が一生懸命にやってることをムダな骨折りだという冷たい奴。こいつには関わりたくない。

この小説、ひょっとしたら、人間の因果関係を描いているのだろうか。精神疾患気味の「葉子」と病気の「行男」と「駒子」の因果関係がはっきりと描かれていないのが、どうしても気になる。これも、もう一度読んで、深読みを楽しみたい。


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