浮気をするのは、親と向き合えていないから
先日彼女と別れた。
素晴らしい人だったが、私から別れを切り出した。このまま付き合っていても、いずれ結婚をしても確かに幸せにはなれるだろうな、という安心感もあったがダメだった。私の中で、彼女との未来は妥協であることがわかったから。私は理想とズレることは許さない。
こちらの作品で、私はパートナーの基準を明確にした。
この生き苦しい社会で必要なことは、ただこれだけ。私はそう思い、そして彼女はこれを最後まで体現してくれていた。そういう意味では完璧な安心感はあったのだが。
でも私は別れてしまった。今となっては、以前定義した「一番弱い自分を愛してくれるかどうか」は見直さなければいけない。これだけでも十分なのだが、本当の意味でのパートナーシップを築く上では力量不足なのだ。それを今日は考えていきたい。
どんな自分でも愛してくれる
私の彼女は、この点においてかつてないパフォーマンスを発揮してくれた。今まで31年間の人生において、感じたことのない安心感。小説の世界でしか触れたことのない安心感。こんなものがこの世界において存在するのだな、という感覚を得られていた。まあ私がそもそも関わってきた人間は親をはじめとして本当に酷い奴らばかりだったので、そのハードルが低かったのかもしれないなと今では思うのだが。とにかく、「これ言ったら引かれるかな」「気持ち悪い、男のくせに、とか思われるかな」といったこの世の呪いから、彼女は俺を救ってくれた。別れる最後まで、彼女は俺の言葉を否定せず、俺を傷つけなかった。最後まで、「彼女より素晴らしいパートナーにはこの先出会えないかも」という人生の嘘がチラついた。だがそんなわけはない、私は100%満足してないのだから妥協してはいけない。妥協は死を意味する。それを握りしめて、私は別れを告げた。
何が足りなかったのかといえば、私が描く理想の体現度だ。私の理想は、「違和感を少しでも覚えたら、互いに踏み込んで確認し合う」というもの。言葉にするのは簡単、体現するのは修羅の道。これをどこまでも一緒に追いかけてくれる、そんな伴侶が欲しいのだ。彼女は「一番弱い俺」を愛してくれはするが、この修羅の道を共に行く覚悟が足りなかった。付き合う当初は私の理想にものすごく共感してくれてはいたが、実際に付き合ってみれば理想の認識に大きなズレがあった。私の理想と彼女の理想の水準は大きく離れていた。
具体的に振り返る。
交際当初、私は瀕死状態だった。身体はどこまでも痩せ細り、生きる気力が湧いてこないボロ雑巾状態。まさに生きた屍。そんな、文字通り「一番弱い自分」を必要としてくれた。価値を感じ、魅力を感じて私を求めてくれた。本当にこんな人いるんだな、という感じ。
寂しくて死にそうだったので毎日電話した。仕事がある日も、飲み会帰りで遅くなった日も、毎日欠かさずに彼女は電話に応じてくれた。「駿くんの声聞きたいから」と言って、彼女は快く応じてくれた。彼女に負担をかけて悪いかな、自粛しようかなと感じたことも何度もあったが、ちゃんと確認していくと彼女自身にとってもそれは利益のようだった。互いに明確な利益があり、毎日1時間以上電話させてもらった。何を話すでもない、時折数十秒の沈黙が生じる。だが機械越しに、確かに彼女の息吹を感じる。それがどれだけ心地よかったか。どれほど、発狂しそうな寂しさを和らげてくれたか。今でも彼女には感謝しかないのだ。
なぜそんな感謝しかない彼女と別れてしまったのか。
きっかけは、私が元気になってしまったこと。生きた屍だった私は、彼女から愛情をもらい、それが栄養となってみるみる生気を取り戻していった。屍から人間に昇格できたのだ。夕方、空が暗くなってくると襲ってくるあの絶望。この世に自分は一人で、もう誰も自分を必要としないのだ。自分は生きていても苦しいだけ、死んだ方が楽になる。その社会の洗脳に屈することがもうなくなってきた。彼女のおかげで生気を取り戻した結果、皮肉なことに私は彼女に依存しなくなったのだ。本質的には健全なレベルで彼女にはきちんと依存していたのだが。だが毎日1時間以上電話する、それをしないと寂しくて発狂して死にたくなる、というのは明らかに人間として破綻している。破綻しているし、「あなたがいないと死んでしまうわよ」というのは私の理想のパートナーシップからは大きく外れる。だから彼女のおかげで、私は息を吹き返し。そしてまた一歩、私の理想に近づいたのだ。
駿くんが電話したい時に電話してくれていいよ
毎日電話するのがしんどかったら、毎日じゃなくて全然いいよ
彼女はそう言ってくれていた。だから私は甘えてしまったのだ。勿論、毎日電話していたのに毎日じゃなくなることが、「あなたへの愛情が薄れている」ということではないよと明確に伝えた。
だが言葉とは虚しいもので。どれだけ伝えても想いは伝わらないことがある。生気を取り戻した私は、逆に毎日電話するのがしんどくなってしまった。私は私で読み込みたい書籍があり、膨大な時間を自分との対話に費やしたい。そんな健全な欲が込み上げてきた結果、私は毎日彼女を求めなくなった。2,3日に一度の電話、に頻度が落ちていた。
彼女は、私が「病的なまでに彼女に依存していた状態」が心地よく、そして生気を取り戻した後の私に寂しさを覚えたようだった。実際に目に見えてわかりやすい「彼女を必死で求めている感」が彼女にとっては重要だったようだ。私はそれを見落としていた。
それがきっかけで、ある日小さな違和感を覚えた。電話をしている際、彼女の声色にいつもの張りがない。逆に彼女の生気が少しだけ抜かれてしまったような、そんな声。それがなぜなのか確認していくが、彼女はなかなか口を割らない。
「言いたくないこともあるだろう」「踏み込みすぎないこと、それが優しさだ」なんて、今までの弱い俺だったら考えていたはず。そして踏み込まずに、互いに違和感や不安を膨らませていき最後に爆発して終わる。そんなクソみたいな弱さ。己との対話を怠らない私は、それが瞬時に見えた。私はもう二度と、踏み込まないことによる失敗は繰り返さない。それが染みついた私は彼女を逃さなかった。彼女はやはり奥底の生々しい本音を相手にぶつけるのがまだまだ苦手な人。「……これ言ったら、駿くんを傷つけるかもよ?」と何度も何度も予防線を張っては本音を誤魔化す。それはあなたの本音じゃないよね? と何度も何度も私は確認する。そんな、この弱い一般社会の住人、一般常識に照らし合わせれば「しんどい時間」「めんどくさい男」を完璧に体現した私がそこにいた。彼女は逃げ出してもよかったものを、そこは私のことが好きであるという、私に対して価値を感じているからなのか。私の追随に付き合ってくれた。そして何度もはぐらかす、そして沈黙を続けてきた彼女だが、最後には折れた。彼女の奥底の、本当の本音を私に話してくれたのだ。
これは嘘だったのだ。彼女の強がり。「毎日電話してほしい」「その方が安心するわ」だったのだ。私はその嘘が見抜けず、「じゃあお言葉に甘えて」をしてしまった。どんな男女も絶対にぶつかる水準の、小さなすれ違い。私も例外なくこの壁にぶつかった。世の中のほとんどのつがい達は、この小さなすれ違いに気づかず。そして後から気付いたとしてもそれを放置してしまう。めんどくさいと口では言いつつも、ただ恐れているだけ。ピリッとする空気に。一瞬対立するような、衝突するようなあの冷たい空気に耐えられないのだ。まさにかつて、自分が幼い頃に感じた感覚。無条件に親から受け入れられ、愛されることを望んだ私たちが裏切られた時の感覚。あの最大の恐怖を、もう二度と味わいたくない。そう恐れて私たちは、理想の親を投影したパートナーに踏み込んでいけない。あの時の恐怖を、また味わされるに違いない。そう錯覚しているから。
己と徹底して向き合い、親と徹底して向き合った私が、そんな錯覚に負けるはずもなく。その程度のすれ違いは完璧に潰す。上記の、「毎日電話する問題」のすれ違いも完璧に潰した。そこに対する認識、そしてその認識を形成する奥底の価値観。互いのそれがなんなのかは明確になった。
だが。その話し合いの中で、私が絶対に見過ごせない問題が新たに生じたのだ。
結論を言えばここになる。交際当初は彼女は私の理想に共感してくれていたが、蓋を開けたら違かった。
実際の彼女はこうだったのだ。私の理想からは程遠い。
そしてこのラリーの中で彼女は、私が絶対に見逃せない言葉を吐いた。
あんまり寂しくなって、不安になると、浮気しちゃうかもしれない
こう言った。ただこれは物の例えだ。仮に、毎日電話していたのに、たとえば一週間ぐらい連絡がなかったら。仮に、こうだったら。仮に、仮に。そんな例え話を織り交ぜながら、彼女はゆっくりゆっくり、俺を傷つけないように。俺と対立し衝突しないように。言葉を選びながら、彼女の本音を少しずつ吐き出してくれた。
これは物の例え、なのだ。そんなことは分かっている。でも俺は、絶対にこの言葉を見逃すわけにはいかなかった。この、彼女が悪気なく無意識に、ぽろっと吐いた言葉を。
言葉は人間を映し出す。その人間の発想、体内にない言葉を人間は吐き出しようがない。ぽろっと出た言葉。無意識下で出た言葉。特に酔っ払っている時の言葉。これらは全て、その人間の本音を映し出しているのだ。私はこの真理を知っているから、だから彼女の言葉を見過ごすわけにはいかなかったのだ。
俺は、親や親族たちの不倫を何度も見てきた。そして彼女は、自身が何度も男に浮気されて深く傷ついてきた。俺たちは、人を裏切る行為に辟易していたはず。それは実際に言葉でも何度も確かめ合っていた。浮気とは、人を裏切る行為。自分の本音を隠し、相手と向き合うことから逃げ続け。現実と戦うことから逃げる、犬畜生の行為。それを互いに確認し合ってきたというのに、まさか彼女からそんな言葉が出るなんて。
分かってる。本当に彼女が浮気したい、とかそういう意味で言ったのではないことぐらい。そして彼女も、そう弁明した。だが弁明すればするほど薄寒い。心の虚しさがただ膨らんでいく。「私はそんなつもりで言ったのではない」と言えばいうほど、その言葉は無意識だったということ。そして言葉とは、無意識であればあるほど奥底の本音であること。彼女が弁明すればするほど、その刃は俺に刺さっていく。そしてだいぶ仕上がってきた俺は、それをぶつけた。言葉は無意識の本音を映し出す。それを突きつけられた彼女は、え、とか、いや、うーん、とかなんとか言って取り繕っていたが。
彼女の本質は、人と向き合えない人間だったのだ。それが本件でよく分かった。
だが正直、本当の意味で人と向き合える人間などごく僅か。人と深く向き合うためには、徹底した親との向き合いが必要となる。その地獄のような課題をクリアできる人間など一握り。まだ絶望するのは早い。
これを最初から体現するなんて。体現してもらうなんて、ぶっちゃけ無理ゲーなのかもしれない。そう思った私は、それをそのまま彼女に伝えた。そして己の願望を伝えた。
今のあなたとは、正直、本当の意味でパートナーになれる気がしない。私の理想は、互いに勇気と覚悟を持って踏み込み、確認する。これを徹底すること。その先にしか、本当に欲している安心感は手に入らない。そして安心感とは、どちらかが受け身では絶対に創り出すことはできない。互いの積極性の中でしか育むことはできない。
俺は人生に妥協しない。パートナーシップに妥協しない。もしあなたが俺が最初に伝えた理想に本当に共感してくれるのなら。親の課題に向き合って、人生の課題に向き合ってほしい。
これを伝えた。彼女は彼女で、親や兄妹と全く本音で向き合えていない。それによる傷が今も癒えていないまま。
まさにここ。だからあなたは俺に本音を言えないし、自分が違和感を感じてもそれに蓋をして逃げてしまう。その奥底の課題を抱えたままでは、俺は一緒にいることは苦しい。本当の意味での安心感を、あなたと創り出すことは今のままでは絶対にできない。だから親と、そして人生と向き合ってほしい。
こう伝えた。彼女は一切の横槍を入れることなく、真剣に聞いてくれた。駿くんの言ってること、なるほどなと思うし、すごくよく分かる。確かに私は、なんと言ったらいいのかわかんないけど……そうね、向き合わなきゃいけないことがまだ残っている気はする。そう、彼女はゆっくりと言葉を絞り出した。だが結局、彼女は俺を選択しなかった。彼女は、親と人生と向き合う、その地獄の試練を選択しなかった。つまりは、そういうことだ。
こんなにも深く向き合い、話し合って円満に別れたのは初めて。今までの自分だったら絶対に言えなかった、奥底のドス黒い本音。「今のあなたは、私にとって価値がない」を明確に伝えて別れるなんて。もちろん寂しさはあるが、それ以上に達成感と晴れやかさが大きい。こんなにも、俺は人間として仕上がってきているのだと、その実感が心地よい。
また独り身になってしまったが、私は素晴らしい選択をした。自分に嘘をつかないこと。自分の人生に、そしてパートナーに絶対に微塵も妥協しないこと。これを貫けたのだ。そしてパートナー選びの基準がまたブラッシュアップされた今、確かな手応えしかない。
日々己と対話し着実に進んでいる私には、理想のパートナーと出会える未来しかないのだ。
以下の長編小説、企画出版希望です。
編集者や出版関係者でこちらの内容を本で出版したい、と思ってくださる方は、
こちらまでご連絡ください。
第一弾:親殺しは13歳までに
あらすじ:
2006年。1日に1件以上、どこかの家庭で親族間殺人が起きている国、日本。そんな国で駿は物心ついた頃から群馬県の田舎で、両親の怒号が響き渡る、機能不全家庭で生まれ育つ。両親が離婚し、母親が義理の父親と再婚するも、駿は抑圧されて育ち、やがて精神が崩壊。幼馴染のミアから洗脳され、駿は自分を追い込んだ両親への、確かな殺意を醸成していく。
国内の機能不全家庭の割合は80%とも言われる。ありふれた家庭内に潜む狂気と殺意を描く。
第二弾:男という呪い
あらすじ:
年間2万体の自殺者の山が積み上がる国、日本。
想は、男尊女卑が肩で風を切って歩く群馬県の田舎町で生まれ育つ。
共感性のかけらもない親たちから「男らしくあれ」という呪いをかけられ、鬱病とパニック障害を発症。首を括る映像ばかりが脳裡に浮かぶ。
世界中を蝕む「男らしさ」という呪い。男という生物の醜さと生き辛さを描く。
第三弾:監獄
あらすじ:
21世紀半ば。第三次世界大戦を経て、日本は「人間の精神を数値化し、価値算定をする」大監獄社会を築き上げていた。6歳で人を殺し人間以下の烙印を押された大牙(たいが)は、獲物を狩る獲物として公安局刑事課に配属される。最愛の姉に支えられ、なんとか生きながらえていた大牙は、大監獄社会の陰謀に巻き込まれ、人として生きる場所を失っていく。
あるべき国家運営と尊厳の対立を描く、理想郷の臨界点。
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