記事一覧
カポエラスイッチ 第01話
【あらすじ】
カポエラ教室を廃業して無職の俺、手嶋マキオは、娘と行った市民プールからの帰り道に、海外出張中の妻カナエが乗る飛行機がハイジャックされたことをニュースで知る。しかし、勤め先と警察に妻の安否を尋ねると、「そんな人物はいない」と言われてしまう。藁にもすがる思いで、探し物専門の超能力を持つ知人を頼って、行きつけの飲み屋トグロマグマを訪れる。嵐の中、店に集まった常連客に次々と目覚める超能力を連
クレカやショップのポイント制度が嫌い。種類多いし、少額端数のチリツモだし、メイン使用の以外は使い切れないし、ポイント増のために買い回れと走らされるし、無駄が多いように思う。賃上げや物価上昇率への影響もあるのでは?「経済が停滞した原因のひとつである」とかいう論文ないかな。
【毎週ショートショートnote】放課後ランプ(娘)
朝一番に教室に着くと、銀のランプを机に置いた。曽祖父がエジプトで買ってきた骨董品だ。
欲に塗れた手で幾度となく擦られてきたのだろう、かなり黒ずんでいる。
先人達を責めるつもりはない。私も自らの欲を満たすために、ランプの精を呼びだしたのだから。
ランプの横腹に指を添えてゆっくりと撫でると、先端から赤紫の煙が立ち昇った。
煙は隆々と筋肉の塊に変化し、髭を携えた魔神が姿を現した。
私を見下ろし
【毎週ショートショートnote】放課後ランプ(母)
「ランプ?カレーを入れる器みたいな銀色のやつなら棚に入ってたと思うけど」
娘が棚から埃をかぶったランプを出してきた。祖父がエジプトで買った骨董品だ。子供の頃、何度かこすってみたが、ジーニーは出てこなかった。
「何に使うの?」
「まあ、ちょっと。部活で」
中学に上がり、娘の言葉は以前より素っ気ない。成長を喜ぶ反面、寂しくもある。近頃は難しい顔をして、スマホばかりをいじっている。
「文芸部で
カポエラスイッチ 第17話(最終話)
「エピローグ」
自宅マンションのソファで寝ていたらしい。
外は台風で大雨だ。
長く眠り過ぎたせいか、頭がぼうっとする。
少々記憶が混濁していた。
テレビボードに置いてあったはずの家族写真がなかった。娘の部屋をノックして入ると、書籍が山のように積まれた物置になっていた。家中のクローゼットを開けてみたが、女子高生どころか、人がいた痕跡もない。
どうやら俺は、3LDKのマンションで一人暮ら
カポエラスイッチ 第16話
「スイッチ」
南シナ海のハイジャック事件から8年が経った。その後、事件は犯人が全員逮捕されて幕を閉じた。ハイジャックされた旅客機の燃料が切れるまで、政府はテロリストに対する強固な姿勢を崩さなかった。飛行機は海上に胴体着陸をしたが、奇跡的に死者はゼロだった。光る猫が安全な道を示して助けてくれたと、何十人も証言したことが話題となった。
それ以上に世の中を騒がせたのは、大手日系企業の社員がテロに加
カポエラスイッチ 第15話
「カナエ」
本郷の窓の向こう側にあった電波の右腕が持って行かれてしまった。鋭利な断面からは、血液が噴き出し続けている。本郷は電波の体を押さえると、腋窩を指で圧迫して応急的に止血した。
「救急車呼んで!タオル持って来てください!」
俺と庵寺の頭は、状況に追いついていなかった。
機内から意識を戻した水耕が「痛ってぇっ!」と左脇腹を押さえ、椅子の上で目を覚ました。血まみれの床を目の当たりに、倒れ
カポエラスイッチ 第14話
「本当に、撃つのか」
「現在時刻は午後三時。あと三時間で飛行機の燃料が切れて、タイムリミットを迎える。すぐに始めよう」
「ぶっつけ本番だな」
「力を合わせて世界を救うんじゃ!」
皆が静かに見守る中、水耕が俺の手首を握った。一瞬の硬直の後、だらりと脱力してテーブルに伏した。彼の意識は南シナ海上空に飛んでいった。
続いて、本郷が両指で作った円を水耕に向けると、異次元空間の窓が開き、トグロマグマ店
カポエラスイッチ 第13話
「Netflixの見過ぎ」
店の入り口から風が吹き込み、広い肩幅のシルエットが現れた。
「お疲れさまっす。こんな日に昼間っから、揃い過ぎっすよ」
「本郷!お主を待ってたんじゃ!ほら、そこへ座れ!」
庵寺は、電波を箸でぞんざいに突いてどかすと、愛娘の隣の椅子を勧めた。電波は人差し指を庵寺に向け、
「次やったら撃つから」
と低い声で言った。庵寺が、ぷるるっと震えた。
本郷は頭を下げて席に座ると
カポエラスイッチ 第12話
「犯行声明」
今朝未明、ジャカルタで発生したインドネシア航空GA872便の航空機乗っ取り事件、いわゆるハイジャック事件の犯人グループがインターネット上で犯行声明を出しました。声明によりますと、今回の事件はISのメンバーによる犯行であり、現在アメリカ当局に収監中とされるスリジャヤナ・ホメニロ氏の釈放を含めた三つの要求をしているとのことです。ホメニロ氏はアフガニスタンの連続爆破テロの首謀者として国
カポエラスイッチ 第11話
「電波砲」
「こんにちはー。あーもー、すごい雨ー。風もヤバいよー」
ボサボサの頭で電波が店の扉を開けた。強風で店内の気圧が一瞬上がり、耳の奥が詰まった。
「電波!こっちこっちじゃ!ほれ、JK、やれ!」
「え?え?なに?なに?」
訳も分からずに電波は手を引かれて、愛娘の前に連れて来られた。
「ちょっと庵寺さん。いきなりは可哀想だよ。電波ちゃん、いらっしゃい。これ使って」
店長から投げられたタ
カポエラスイッチ 第10話
「能力、開花」
俺は唇の周りについたビールの泡を手の甲で拭い、空になったジョッキを置いた。
「それで、ママのことをどうやって助けるつもりだ?」
「みんなの力を合わせるのよ」
「水耕の占いと、庵寺の霊感だけでどうやって?」
「二人だけじゃないわ。みんなの力を合わせるのよ。私はね、眠っている力を目覚めさせることができるのよ」
「そんな馬鹿な話が」
「パパ、受け入れて。これが現実的な解決策よ。とても
カポエラスイッチ 第09話
「見えない、JK」
「深淵を覗く者もまた、深淵に覗かれているということじゃな」
庵寺がビールジョッキを持ち上げ、献杯と言った。水耕は俺のビールを奪って飲み干した。
「はあ?しょぼい霊感しか持ってない坊さんが、なんとなくで物を言ってんなよ。俺がどんだけ大変だったかも知りもせず。そんなんだから為替で大損するんだぜ」
水耕の罵りに、庵寺がジョッキをテーブルに叩きつけた。
「聞こえたぞ!」
「聞かせ
カポエラスイッチ 第08話
「超能力」
「いらっしゃい。カポさん一人?」
トグロマグマで、俺はカポと呼ばれている。カポエラ教室を経営していたからだ。
投げ渡されたタオルで、横殴りの雨でびしょ濡れになった頭と腕を拭いた。顔を拭くと、焼き物の香ばしい臭いした。
「いや、娘と一緒」
軒先で傘を丁寧に畳んで雫を落としている愛娘を見て、店長は顔をしかめた。行儀の良くない常連客が集う居酒屋に子供を連れてくるのは俺だって避けたかっ