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2022年11月の記事一覧
短編小説「国境線上の蟻」#4
久しぶりに外を歩いた。季節は移る。風が肌を刺し、吐く息は白い。北風。間もなく冬。君は小さなころから、生温い季節を嫌った。切り刻むような風のなかを歩いていることを好んだ。排気ガスを吐き出しながら行くトラックが空き缶を跳ねる。どこかから犬の遠吠えが届く。舗装がひび割れて、砂地が剥き出しになっていた。横断歩道の白線が剥げて消失しつつある。寒空の下、赤いちょうちんに集い、安酒をあおる貧民たち。そのもう少
もっとみる「路上の奏者とアコーディオン」
路上の奏者は雨のが上がるの待っていた、
虹の音色のアコーディオンはケースのなかでまだ寝てる、
奏者は既に老境を迎え、連れ添った鍵盤楽器の破れかけの蛇腹の声を聞いていた、
葬送行く者、なぜだか白く着飾っては祝福かのよう騒いでた、
天上へと昇るものなら既に彼らを見下ろし透き通ってゆくところ、
神の使いになる気はなくて、春の風に生まれ変わろうって考えていた、
風は過ぎ、たたんだ雨傘、
踏みつけて冷た
ショートショート「赤い紙」
ラジオに耳を傾けると今日も昨日と同じニュースが流れていた。雑音が混じってうまく聞き取れなかったけれど、きっと昨日や一昨日とそれほど変わらないんだろうと思う。
枕元の銀紙には残しておいたチーズとクラッカーが半分ずつ。顔を近づけるとお腹が鳴る。忘れようとシーツに包まった。抑えた奥から空腹が鳴る。
ラジオのチャンネルを変えて少し音量をあげた。ノイズの向こうの声を聞き取ろうとしてみたけれど屋根を叩き