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ビリーさん集め。

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2022年11月の記事一覧

「砂と水は刻々と」

「砂と水は刻々と」

真冬に吹く風の音は、魔女の気まぐれなる口笛、
手のひらには乾ききらずに凍りつく、針葉樹林の砂まで混ざる、
湾曲したナイフを振るう、鏡の前の子供の死神、
ランプは揺れて、炎に透ける空へと帰る間際の少年、

水鳥たちは朝を待って乱反射の川辺に踊る、
気忙しいだけ楽しんでるわけじゃない、それが舞踏に見えるのは、
昨日や明日を憂うほどの時間を持っていないから、
身勝手だとして願望は、仄かな望みを映し出す、

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「羊と雷鳴」

「羊と雷鳴」

 風は盗む、そこを歩いた誰かの軌跡を。
盗人が人の気配を盗み、手配師は人そのものを盗む。
 春の雨はそのすべてを盗みにかかる、なかったものとして音を立てる。風を誘い、雷鳴までもおびき出して盗みにかかる。

 炎がある、それを消そうと水を探す人がいる、それは消さなければならないものとして植え付けられている、しかし、そこには何かを焼き尽くそうとした炎の意思がなかったことにされている。

 雨曝しの木造

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「海岸線」

「海岸線」

手のひらに、かき集めた砂、
再び地に返す、僅かな音が消ゆる午後、
風は止み、遠くに雨雲、
僕はいまから白い月を盗みに行くから、
ほら、手を出して、
海鳥たちの待つ潮騒へ、

歩き疲れた? 踵が鳴らないときもある、
遥か遠く海を想う、幻ひとつを舐めた夜、
風は止み、ほら海が見える、
僕はいまから水平線をつかまえるから、
さあ、荷を捨てて、
夕陽が落ちて永遠の待つ潮騒へ、

「そろそろ眠ろう」ってアン

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「アリアドネの糸」

「アリアドネの糸」

水が光の反射の軌跡を歌う、
覗き込んだ僕らの顔が、映し出されて揺れる鏡面、
熱持つ砂の粒ひとつ、何処かに紛れたアリアドネの糸を探した、
見つからないと知っていてなお、どこかで変われぬ僕たちは、

笑顔がいつも揺れているのは横顔ばかりを見続けたせい、
初めて見下ろす正面は、眠りについているだけみたい、
組み合わされた細い手に、水辺に咲いた花一輪を差し込んだ、
微笑んでいた、苦しむことも悲しむこともも

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短編小説「国境線上の蟻」#4

短編小説「国境線上の蟻」#4

 久しぶりに外を歩いた。季節は移る。風が肌を刺し、吐く息は白い。北風。間もなく冬。君は小さなころから、生温い季節を嫌った。切り刻むような風のなかを歩いていることを好んだ。排気ガスを吐き出しながら行くトラックが空き缶を跳ねる。どこかから犬の遠吠えが届く。舗装がひび割れて、砂地が剥き出しになっていた。横断歩道の白線が剥げて消失しつつある。寒空の下、赤いちょうちんに集い、安酒をあおる貧民たち。そのもう少

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「グラディウス」

「グラディウス」

凍えながらも揺れては惑う心臓と、歩き疲れた靴の底、
トビウオ跳ねたら飛沫のアーチのなかに太陽、
リアリストに唾を吐き、ロマンティストをせせら笑う、
さらばだ真冬を選んだ花々よ、過ぎ去る地には「おやすみ」を、
振り向くのは消える前だけ、水平線はかすかに弧を描いてた、
そのとき某は、星が楕円形だと知った、

薄ら寒い枯れた草原、ミドリと褪せた金色に、
花持ち並ぶ白い葬送、氷上にて凍る頰、
頭上に旋回、

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「路上の奏者とアコーディオン」

「路上の奏者とアコーディオン」

路上の奏者は雨のが上がるの待っていた、
虹の音色のアコーディオンはケースのなかでまだ寝てる、
奏者は既に老境を迎え、連れ添った鍵盤楽器の破れかけの蛇腹の声を聞いていた、

葬送行く者、なぜだか白く着飾っては祝福かのよう騒いでた、
天上へと昇るものなら既に彼らを見下ろし透き通ってゆくところ、
神の使いになる気はなくて、春の風に生まれ変わろうって考えていた、

風は過ぎ、たたんだ雨傘、
踏みつけて冷た

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「木漏れ日」

「木漏れ日」

朝には藁を編みながら、
昨日までの過去に見た、
美しい季と景、目を閉じ祈る、
変わらず続きますようにと、
人が呪いの言葉を吐いているころ、
記憶を戻せば手のひらに、
慈しみを咲かせることもできるのに、
風に吹かれて手から離れる藁一筋、
そうだった、笑えた日々のことを忘れてた、
雷が、鳴く空の下、
俯けば広がるのは藁の草原、
遥か向こうに微笑む君が、
愛なんて気恥ずかしい、それなのに、
その在処を知

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「ルールルル」

「ルールルル」

逆光の坂道を、三歩進んで振り返り、
浮かべていたのはたぶん笑顔、
影になって見えなかったはずなのに、どうしてだろう眩しいくらい思い出す、

足りないと欲しがって、手に入れると他を欲しがる、
ないものを探し、あるものは忘れ、
そんなことばっかやってるってなんだかさぁ、

砂を噛んで土を飲む、日々日々それを続けてる、
どこを見れども陽は見えるがつかみ取れずに涎を垂らす、
飲み込みたる赤い土、異物が喉を

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短編小説「夏の恋」

短編小説「夏の恋」

「雨です」
 私はそう呟く。声にはしないように気をつけて、思わず外に出そうになったそれを閉じた唇で塞ぎ、口のなかに吸い込んで、いっそ飲み込んでしまおうとも思った。誰にも聞かれないように。だけど、私はそう呟きたかったのだ。カバンのなかのハイチュウを口の中に放り込む。それから時間を確認する。午後五時四十五分。足元の水たまりに落ちる雨粒がぱらぱらと少なくなってゆく。高架下から西の空を覗く。焼鳥屋の二階の

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ショートショート「赤い紙」

ショートショート「赤い紙」

 ラジオに耳を傾けると今日も昨日と同じニュースが流れていた。雑音が混じってうまく聞き取れなかったけれど、きっと昨日や一昨日とそれほど変わらないんだろうと思う。
 枕元の銀紙には残しておいたチーズとクラッカーが半分ずつ。顔を近づけるとお腹が鳴る。忘れようとシーツに包まった。抑えた奥から空腹が鳴る。
 ラジオのチャンネルを変えて少し音量をあげた。ノイズの向こうの声を聞き取ろうとしてみたけれど屋根を叩き

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「遠雷」

「遠雷」

悪ふざけが許された、若葉の季節は昨日に過ぎて、
いつか笑って話すだろうか、或いは記憶に閉ざすだろうか、
子供のまま生きることは叶わない、
どれほど強く望んだところで生きる以上は背負うものを増やしゆく、

それをどうにか振りほどこうと、置いてゆこうとするもまた、
張り付く影の陰影が、私に不可を知らせているよう、
やはりは叶わぬことを知る、其れを知るのも人で或るが故のこと、

盛夏は赤く澄み渡り、夕陽

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「ユリシーズ」

「ユリシーズ」

沖は紺碧、しかめっ面で空と水を区別していた、
ぼんやり眺めているだけじゃ、それはふたつにわかれなかった、

君は隣で遥か南を漂っている、幽霊船を空想してた、
絶える間際の羽虫がもがく、きれいではない黒い点の一粒を、

夏の終わりに話してくれた、そんな気分だったんだろう、
どうでもいいことだけどって、振り返るのを億劫そうに、

君は照れてはしゃぐの嫌った、真上でお日様見てるからって、
星の時間になる

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「慟哭」

「慟哭」

波飛沫に跳ね廻る、空が溢した揺れる黄金、
星々ならもう眠りについて、いまはたぶん、
生きとし生けるすべてのものから目を逸らそうと離れゆく、
群れ群れから去れ、狗はもう此処に居ぬ、
爪先から伸びる影の長さがいまも、遠ざかる日々を思わせ、

リヴィンストンの冒険譚と、作者不明の航海記を交互に読んで、
高鳴らせた胸なら今はもう、静かに凪いで揺れることを忘れてしまった、
雷鳴るのを待っている、それはほんと

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