マガジンのカバー画像

突発的な短編マガジン

25
1話完結の短編です。
運営しているクリエイター

#小説

異形ハロウィン2023

 今年もあいつが来る――

 僕はウエストポーチに大量の金平糖を詰め込み、玄関とキッチンの間で待機していた。
 一昨年は玄関から来た。去年は台所の換気扇から入ってきた。
 毎年手を変えて侵入してくることは分かったから、どこから襲われても大丈夫なように、既に右手を金平糖の中に突っ込んでいる。
 しかしこのとき僕は、ひとつの失態を犯していた。
 わずかな過去のデータに甘え過ぎていたのだ。

 毎年ぬち

もっとみる

死に滅んでゆくおれを最後まで見届けてくれるか?

「どうした、酔っ払って電話を掛けて来るなんて君らしくないじゃないか」
「……うぅ。おれが書かなくたって、世の中に小説はいっぱいある」
「え? ど、なに。急にそんなこと言うなよ! 僕は君のファンだぞ!」
 僕が声を張り上げて宣言しても、電話越しの彼はズルズルと洟をすすっている。
「占い師と同じなんだ。彼女らは、占いをすればするほど当たらない恥ずかしい瞬間を世間に見られる可能性が高まる。そもそも占いな

もっとみる

わたしたちは似ている。

 目の前の同僚男は、瀟洒なカフェで、フルーツティーのポットの底に沈むブルーベリーを、緩慢な動きで取ろうとしていた。
「昔は、人に優しくされたり良くしてもらうと『自分にはそんな価値はないのに』と思って、ものすごく申し訳なく思ってたな」
 わたしは残りわずかになった抹茶ラテの表面を、ストローで撫で続けている。
「分かるよ。自分のために相手が頑張ってるのを見ると、自分は人に負担を与える存在なんだと考えた

もっとみる

絶対に川崎市民にしか伝わらない架空の戦記プロット「川崎戦争」

武蔵小杉ブームの新住民が新興勢力となり川崎区へ圧力をかけたのが、川崎戦争の発端となった。

川崎戦争の要となるのはJR南武線である。
南北に細長い川崎市を縦断する。
南武線の駅を制圧していくことで簡単に陥落する地域もある一方、東急田園都市線や東横線、小田急線など、都内〜横浜方面と繋がりがあるハブ駅も存在する。

◆麻生区 - 不戦勝を狙う麻生区は南武線が通ってないので、戦うまでもなく全滅するのを待

もっとみる

大人と子供に平等な犯罪を考えている兄弟の話

 時々思うのだ。大人が罪を犯すより、未成年者が犯罪行為に手を染める方が簡単じゃないか? と。
 だって、酒を飲んだだけで違法になれる。子供はやっちゃいけないことだらけで、ちょっとでも大人にしか許されないことをしたら、それだけで御用だ。
 ……ということを、16歳の弟に言ったら、ひどく叱られた。
「お前はなあ! 高校生が酒を買うことのハードルの高さを分かってない。コンビニ店員ってすぐ、『身分証の提示

もっとみる

きょうの非行@ガオーシティ(1) 月を上げ下げする綱を切ってみる

 地球の地下奥深くには、マントルを避けるように、丸い空間が作られている。
 ガオーシティ。本当はすごく暑いらしいけれど、鉄球の中を空洞にくり抜いたような形の街の内面には、冷却用の水道管が張り巡らされているので、快適だ。
 僕こと綿貫カズオは、ハイスクールに通う十六歳だ。ちょっと悪いことをするのを生き甲斐にしている。
 非行の相棒は、クラスメイトの瀬尾。
 一見冴えない金髪もじゃもじゃだけど、頭が切

もっとみる

輝く殴打

 ――最近のひとは、『ガラスの灰皿』と聞いても、なんのことか分からないらしい
 そんな噂を聞いたので、僕は、もう少し適切な凶器を考えることにした。
 パブリックイメージに合う、適切な、資産家の男性を殴りつけるのにふさわしい鈍器とは。

 一応確認しておくと、ガラスの灰皿というのは、そのままずばり、ガラス製の灰皿である。お皿みたいな薄いものではなく、分厚いガラスの塊だ。
 複雑にカットされた表面は、

もっとみる

枕辺探偵事務所の鍛錬記録〜クリスマスイブのQRコード合戦〜

「おい、弥山。事件だ」
 そう言って枕辺さんは、デスクチェアに座ったまま、汚い床を蹴った。
 キャスターがゴロゴロと音を立てて、冴えない名探偵を運んでくる。その右手には、何やら薄いものが握られている気がした。
「……ちょっと、きょうは予定があるので、事件は無しでいいですか?」
「ダメだ、ふざけんな。きのうの失態を忘れたわけじゃねえだろ? お前にはキビシ~イ鍛錬が必要だ」
 僕はうっと言葉に詰まる。

もっとみる

#いいねの数だけ自キャラを振り返る2021

ツイッターのハッシュタグがあったので、書き出してみました。
おかげさまでたくさんのいいねをいただけて、全部紹介できます。
ほとんど没作です。

以上です。

ほんとはもっとというか、かなり没作があるのですが、プロットがっちり作ったのにキャラ名をつける前に没にしたものが多くて、振り返ることもできず。
ごめんな、名無したち。dropboxの中で安らかに眠ってくれ。

12月現在、書き途中の数作でざっと

もっとみる

仔鴉占い処

「……人は、人に迷惑をかけたくないときに、占いにハマるんですね。初めて知りました。占いに来たくなるなんて、人生初です」
 そう言ってうなだれてみせたのは、本日午後一発目の迷える仔鴉・夏野楓さん、二十七歳。百貨店の販売員だった。
「どうなさいましたか」
 僕は努めて優しく、ほんの少し身を屈めて、下から覗き込むように目を合わせる。
 夏野さんは、少し驚いたように目を見開いたあと、視線を泳がせながら所在

もっとみる

疫病と、開けなくてもいい箱の鍵

 原因不明、治療法なしの疫病が流行って、五年が経った。
 視線がかち合うと感染するという恐ろしい病、マグマグラ病。
 罹ると、頭に溶岩を流し込んだような高熱と激しい頭痛が続き、視界が真っ赤に煮えたって見えるのだそうだ。
 厄介なことに、このマグマグラ病は、感染した人が必ずしも発症するとは限らない。
 無症状患者が意図せずばら撒いてしまっているために、世界中でパンデミックが起きて、未だ収束のめどが立

もっとみる

最高に罰当たりな丑年の事件 〜枕辺探偵事務所の鍛錬記録〜

「こりゃあ殺されても仕方ねえな」
 眉間にしわを寄せた上司が、死んだ被害者の前にしゃがみ込む感じがした。
「ご遺体に向かって失礼ですよ」
「死に様に人となりが出てんだろ」
「やめてください。そう言われたらそう思い込むしかないじゃないですか」
 僕こと弥山直樹(ややまなおき)は、ふたりだけの小さな探偵事務所で、所長の枕辺透(まくらべとおる)さんの助手として働いている。
 新卒一年目、真面目でフレッシ

もっとみる