大人と子供に平等な犯罪を考えている兄弟の話

 時々思うのだ。大人が罪を犯すより、未成年者が犯罪行為に手を染める方が簡単じゃないか? と。
 だって、酒を飲んだだけで違法になれる。子供はやっちゃいけないことだらけで、ちょっとでも大人にしか許されないことをしたら、それだけで御用だ。
 ……ということを、16歳の弟に言ったら、ひどく叱られた。
「お前はなあ! 高校生が酒を買うことのハードルの高さを分かってない。コンビニ店員ってすぐ、『身分証の提示をお願いします』って言うんだよ。年齢確認の画面もタッチしないといけないし」
「そうか。家に親の酒がある前提で話してた」
「大人が犯罪する方が絶対楽。お前らには伝家の宝刀・痴漢があるだろ。女の尻に3ミリ触れてみろ、即御用だ」
 ぐうの音も出ないほどの正論だった。
 僕は考えをめぐらせる。
「……大人にも子供にも分け隔てなく門戸が開かれてる犯罪と言えば、万引きだな」
「いや、万引きも大人の方がやりやすいね。閉店間近の手薄な時間に入れる。子供は親の目があって、夜は出られないからやりにくい。それに、大人はきっちりサラリーマン風とか綺麗めOL風にしてたら万引きしそうにないと思われるから、見つかる確率が低そうだ。子供は私服だろうが制服だろうが、怪しい動きをしたらすぐ警戒される。マークされるのが早ければ、捕まるのも簡単だ」
 なぜ僕ら兄弟は、機会均等な犯罪を考え続けているのか?
 ふらふらした頭で弟の口をこじ開け、缶ビールを押し付けた。
「おりゃ。非行少年になりやがれ」
「うええっ! まっず! くっさ! キモ! これ、飲みすぎたらゲロの材料になるんだろ? 気持ちわりーー」
「大人はなあ、完全在宅で犯罪やるのは難しいんだ。ネットで金を不正するとか、知恵がないとできん」
「ツイッターで爆破予告しろよ。大人も子供も漏れなく犯罪だろ」
「おお……その手があったか。弟よ、知恵が働くようになったな」
「死ねよ」
 夜がふけていく。暇潰しの思考実験を繰り返す。そんな日が何日も続く。

 僕らはこの家から出られない。
 殺した母親の遺体が腐りきり、臭いが消え去り、骨になってくれるまでは。

(了)

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