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品種の話

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日記【2023.10.4】;穂発芽シンポのこと

今日から3日間、茨城県で「国際穂発芽シンポジウム」が開催される。今日の日記は、ちょっとこのことに触れたくなった。なお、私は参加していない。

テーマは主に小麦の穂発芽で、研究分野としてはかなりマニアックである。それでも、小麦は広く栽培されているし、穂発芽は経済的にも問題が大きいので、世界中から専門家が集まる。数年に一度の国際研究会として、第1回は1975年にスウェーデンで開催された。今回は第15回

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ドウサンコムギ創世記

ドウサンコムギ創世記

 道産小麦、種を秋にまくものと春にまくものあり。

 秋に種をまくもの、はじめに舶来品種マーチンスアンバーあり、マーチンの名で普及せり。

 マーチン、ターキーレッドⅡと交わりて赤銹知不知1号を生めり。マーチンの子赤銹不知1号、ホクエイを生めり。赤銹不知1号の子ホクエイ、北見19号を生み、北見19号チホクコムギを生めり。チホクコムギはうどんによきものの先駆けにて道産小麦の名を高めり。
 チホクコム

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白いコナ、吹雪のごとし

白いコナ、吹雪のごとし

北海道といえばじゃがいも。そうイメージする方は多いだろう。では、北海道のじゃがいもで、最も多く作られている品種は?

これはかなり難問である。「男爵薯」でも「メークイン」でもない。

「コナフブキ」である。

「コナフブキ」である。

「コナフブキ」である。

大事なことなので3回述べた。

越路でもジュンでもない、正真正銘じゃがいもの名前だ。

「コナフブキ」を知っているひとは農業関係者か、さも

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マチルダさん

マチルダさん

マチルダさんといえば、一般的には、ガンダムの主人公があこがれたあの方が想像されるのであろう。

だがしかし、我が家で「マチルダ」といえば、じゃがいもである。

じゃがいもの品種といえば、「男爵薯」と「メークイン」が圧倒的な知名度を誇るが、我が家(主に妻)には全く響かない。しかし、店頭で「マチルダ」を見かけた日には、即買いである。

じゃがいもの「マチルダ」。出回り量は少ないので、おそらくかなりマニ

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100万回どころではないイモ

100万回どころではないイモ

前回のnoteで、国内で栽培されるじゃがいもの多くは「男爵薯」の一族であることを確認した。それどころか作付面積第1位が「男爵薯」だった。

「男爵薯」は、明治期の導入から100年以上栽培され続けている。品種改良が進んで「男爵薯」から7~8世代後の子孫も栽培されているのに、元祖がいまだに君臨しているなんて。

子孫からみたら「ご先祖様、まだ現役なの?」という状態である。SF小説ならとんでもないラスボ

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一族の証

一族の証

じゃがいもの「一族」という、魅惑的なフレーズに遭遇した。

たしかに、片栗粉の原料は「じゃがいも」だ。なんて素晴らしい発想なのだ。

だがしかし、である。 本当に「一族」なのか。

「一族」とは血縁関係を基本とした親族関係だ。「じゃがいも」という作物全体を「一族」とみるのも人類皆兄弟的でよいのだが、私のなかの品種オタクの血が騒いで譲らない。

実は「じゃがいも」には品種がたくさんある。生食用=野菜

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麦秋だよ、雨あがれ

麦秋だよ、雨あがれ

窓から見えるところに小麦畑がある。

昨日、その畑にコンバインが入った。雨の予報が心配だったが、無事に収穫が進んでいるようだ。

麦秋である。

麦秋には晴れが似合う。似合うというか、晴れてくれないと困る。雨が降っていると収穫作業ができないし、そもそも小麦は雨に弱い。

※数年雨、あるドラマで豪雨の中コンバインで(このときはお米の)収穫を行っていたシーンがあったが、それは絶対やってはいけない。びし

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宝くじは買わない

宝くじは買わない

くじ引きや懸賞は、まず当たらない。ああいうものは、当たらないように出来ているのだと自分に言い聞かせていたが、当たる人は確かにいる。

宝くじや馬券を買ったこともあるけれど、当たる気がしないし実際に当たらないから、買うだけ無駄と思うタイプである。しかし、当たる人は確かにいる。

品種改良を担当していた先輩に、宝くじを買わない人がいた。そんなところで運は使わないんだと、いい品種が生まれる方に運が向くよ

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特別なR(大豆品種「ユキホマレR」「スズマルR」)

特別なR(大豆品種「ユキホマレR」「スズマルR」)

乗用車の型番に「R」がついていると、ちょっと特別な感じがするし、できれば「R」の車に乗りたいと思うタイプである。この場合の「R」はRacingだろう。

大豆の品種にも「R」の文字がついているものがある。

「ユキホマレR」と「スズマルR」。

すごくスピードが出そうに感じるが、さにあらず、この「R」はResistantを指す。大豆の大敵、ダイズシストセンチュウへの抵抗性を付与した証だ。

もとも

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たらちねの 母にあげたい イソフラボン (大豆品種「ゆきぴりか」)

たらちねの 母にあげたい イソフラボン (大豆品種「ゆきぴりか」)

大豆が健康に良いと言われて久しい。大豆タンパクだとかサポニンだとか、はたまた納豆に加工してからのナットウキナーゼだとか、報道される毎に身体に良さそうな成分がいろいろ出てくる。

大豆が健康に良いとされる成分のひとつに「イソフラボン」がある。テレビCMで流れていた「イソフラボンジュール」というフレーズが印象的だった。

イソフラボンの効果についてはきちんと科学的に立証されており、ここで詳しくは述べな

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良い官能評価、つらい官能評価

良い官能評価、つらい官能評価

作物の品種改良を行う現場では、おいしさを調べる「官能評価」がしばしば行われる。私の品種改良へのあこがれは「官能評価」へのあこがれであったかもしれない。

農業試験場に就職後しばらくして、小麦の品種改良担当となった。それは同時に官能評価を担うことも意味していた。

実際にはじめて「官能評価」を行うとき、うれしさと感じると同時に、恐ろしさを感じた。だって、私の舌がおかしくて間違った評価をしてしまったら

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あこがれの官能評価

あこがれの官能評価

品種改良の目的は多収(たくさん獲れる)とか、病気に強いなどのほかに、「おいしい」がある。数ある種類の中から「おいしい」品種を選ぶには、関係する物質などを分析する方法もあるが、最終的には実際に食べて評価する必要がある。例えば、お米の品種改良では、時期になると毎日試食をしている。仕事でご飯が食べられるなんて、なんだかうらやましくすら感じるが、責任ある重要な業務なのだ。

食べる評価を「官能評価」という

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収穫の夏

収穫の夏

北海道では、生育の早い地域から秋まき小麦の収穫が始まった。

「麦秋」といえば、麦が実って刈り取りを迎えるころとされ、本州では4~5月頃、俳句では夏の季語である。北海道の「麦秋」は、一年でいちばん暑いこれからの時期である。

北海道の秋まき小麦は、9月中~下旬に種をまいて、7月下旬~8月上旬に収穫する。一年のうち、ほぼ10ヶ月間をかけて、畑で育てられるのが秋まき小麦である。

お米が育てられる期間

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秋の若葉

秋の若葉

北海道はお米の収穫が最終盤となり、これから徐々に寒さが増していく。そんな冬に向かう時期というのに、ようやく新緑が出そろった畑があちらこちらにみられる。

秋まき小麦である。

秋まき小麦はその名の通り、秋=9月中下旬に種まきを行う。北海道では、上の写真のような、ちょうど秋まき小麦の芽が出そろった畑があちらこちらで見られる。この時期、畑の中で筋になって見える若葉は、まず小麦だと言って間違いない。

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