白いコナ、吹雪のごとし
北海道といえばじゃがいも。そうイメージする方は多いだろう。では、北海道のじゃがいもで、最も多く作られている品種は?
これはかなり難問である。「男爵薯」でも「メークイン」でもない。
「コナフブキ」である。
「コナフブキ」である。
「コナフブキ」である。
大事なことなので3回述べた。
越路でもジュンでもない、正真正銘じゃがいもの名前だ。
「コナフブキ」を知っているひとは農業関係者か、さもなくばかなりのマニアだろう。なんといっても「コナフブキ」の名でスーパーに並ぶことがないのだから。
植え付けたときには名前があるのに、出荷された後はその名で呼ばれない。「コナフブキ」はデンプン原料用の品種で、工場で片栗粉に姿を変えて流通する。
北海道産片栗粉と書いてあれば、「コナフブキ」がかなりの割合で含まれるとみてよい。しかし、工場では他の品種も一緒くたに加工されるので、「コナフブキの片栗粉」という売り方もされない。
なんと不憫な「コナフブキ」よ。
じゃがいものでんぷん=片栗粉は、そのままスーパーで小袋売りされるだけでなく、かまぼこなど水産練りもののつなぎとして重宝されている。弾力的で食感が良いらしいのだ。
私もそれを知ってから、うどん店でトッピングのちくわ天を選ぶたび、「やあ、コナフブキ」と脳内であいさつしている。私はキミの名を知っているよ。
それにしても、「コナフブキ」、いい名前だと思う。この名を聞くたび、大晦日の歌番組に大トリで登場する大御所の演出を、妄想する。
厳しい雪国の臨場感を出すには、紙吹雪よりも、コナフブキの片栗粉を飛ばすのだ。すべてが真っ白。片付けがタイヘンだ。やめておこう。
歴代のデンプン原料用品種には、ステキな名前がつけられている。
紅丸(べにまる):いもの皮が赤い。なおデンプンは白い。
コナフブキ:片栗粉を吹雪に見立てたのでしょうね。
アスタルテ:オランダから導入、女神の名前。
サクラフブキ:いもの皮が赤いので「サクラ」か。時代劇ファンか。
ナツフブキ:夏に吹雪という大胆さ。
コナユキ:歌わざるを得ない。
コナユタカ:白い粉の演歌歌手
コナヒメ:白い粉のお姫様
パールスターチ:なんかめでたい
こんな名前が、農業関係者と研究者くらいにしか知られていないのは、もったいない気がする。
※もっと知りたい方は、ジャガイモ博物館がおすすめ。