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100万回どころではないイモ

前回のnoteで、国内で栽培されるじゃがいもの多くは「男爵薯」の一族であることを確認した。それどころか作付面積第1位が「男爵薯」だった。

「男爵薯」は、明治期の導入から100年以上栽培され続けている。品種改良が進んで「男爵薯」から7~8世代後の子孫も栽培されているのに、元祖がいまだに君臨しているなんて。

子孫からみたら「ご先祖様、まだ現役なの?」という状態である。SF小説ならとんでもないラスボスだろう。


「男爵薯」は、明治41年(1908)に北海道七飯町で栽培されたのが最初とされる。川田龍吉男爵がイギリスから取り寄せた種苗から見いだされ、後に「男爵薯」と呼ばれるようになった。ただ、川田男爵本人は自身の経営する農場スタッフに任せていたので、ほとんど関わっていないらしい。

『男爵薯の父 川田龍吉伝』(館和夫、道新選書)によると、取り寄せられた種いもからこれが良いと選んだのは成田さんという方らしい。周りの農家にもすすめた結果、次第に広がったとのこと。当初「成田いも」と呼ばれたそうだ。

このイモがイイねと成田さんが言ったから、その名は「成田いも」。と言ったかどうかは知らないが、当の成田さんは青ざめただろう。

まだ封建社会の空気が色濃く残る時期。上司は絶対、しかもカンシャク持ちのおっかない殿様(川田男爵は周囲から殿様と呼ばれていた)である。「成田いも」の名が耳に入ったらどうなることか。

「取り寄せたのは川田男爵ですから!」
「『成田いも』じゃない! 「男爵薯」と呼んで!!!」

などと、必死だったのではないかと、妄想する。「男爵薯」が定着して良かったよ。



「男爵薯」は早生なので、今年の収穫もほぼ終了している頃だろう。

じゃがいもは「種」ではなく「いも(種いも)」を植え付けて栽培する。「いも」は前年の植物体の「茎」に相当し、すべて同じ遺伝子を持つ”クローン”である。 ※桜の「ソメイヨシノ」と同じ。

毎年、北海道だけで1ヘクタール当たり2~3万個の「男爵薯」が植え付けられ、収穫される。いも目線でいうと、自分のクローン=「いも」それぞれが新しい人生(いも生)を全うしていることになる。

北海道の「男爵薯」作付面積は、大雑把に見積もって約1万ヘクタール。1万ヘクタール×2万個(種いも)=合計2億以上の「いも」が、今年もひと夏の生命活動を謳歌した。

これが100年間として、トータル200億。

200億回生きたイモ。

ワオ。 ネコよりすごい。