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一族の証

じゃがいもの「一族」という、魅惑的なフレーズに遭遇した。

たしかに、片栗粉の原料は「じゃがいも」だ。なんて素晴らしい発想なのだ。


だがしかし、である。 本当に「一族」なのか。

「一族」とは血縁関係を基本とした親族関係だ。「じゃがいも」という作物全体を「一族」とみるのも人類皆兄弟的でよいのだが、私のなかの品種オタクの血が騒いで譲らない。


実は「じゃがいも」には品種がたくさんある。生食用=野菜として流通するじゃがいもと、片栗粉=デンプン原料となるじゃがいもでは、違う品種が用いられているのだ。

調理される「じゃがいも」と、まぶされる「片栗粉」。それら品種は血縁関係にあるのか、「一族」と呼べるのか。

その家系を検証しておく義務が私にはある。そんなココロの声がした。

取材班は現地へ飛ぼうと思ったが、どこへ飛んで良いのかわからないので、文献調査にした。



結論から言うと、「一族」でほぼ間違いなかった。よかった。上のツイートは正しかった。

「ほぼ」とは、謎が残されているが可能性はゼロではないという意味だ。



まず、全国のじゃがいも作付面積10位までの品種を列記する。10位までで作付全体の3/4を占めるので、大まかな傾向はつかめるはずだ。

1.男爵薯
2.コナフブキ(デンプン用)
3.トヨシロ
4.メークイン
5.ニシユタカ
6.キタアカリ
7.コナヒメ(デンプン用)
8.きたひめ
9.とうや
10.ホッカイコガネ
農林水産省農林水産省農産局地域作物課、令和4年6月「ばれいしょをめぐる状況について」より)

2位の「コナフブキ」と7位の「コナヒメ」がデンプン原料用である。その他の品種は、野菜用だったりポテトチップ用だったりするのだが、マニアック過ぎるのでここではデンプン用とそれ以外の食用としておく。なお、北海道に限ると「コナフブキ」が作付け第1位となり、デンプン原料はかなりのシェアがある。


これらの品種の系譜(家系図)を調べてみた結果がこちら。

1.男爵薯:海外から導入、イギリスから導入したアメリカ品種「Irish Cobbler
2.コナフブキ(デ):トヨシロの子、男爵薯の来孫(6世代目)
3.トヨシロ:男爵薯の玄孫(5世代目)
4.メークイン:海外から導入、イギリス原産らしい。
5.ニシユタカ:男爵薯の玄孫(5世代目)
6.キタアカリ:男爵薯の子(2世代目)
7.コナヒメ(デ):コナフブキの子、男爵薯の子孫(7世代目)
8.きたひめ:トヨシロの孫、男爵薯の子孫(8世代目)
9.とうや:Irish Cobbler の曾孫(4世代目)
10.ホッカイコガネ:トヨシロの子、男爵薯の来孫(6世代目)
※(デ)はデンプン原料用

「メークイン」「とうや」を除いて、すべての品種が国内で「男爵薯」と交配された子孫であった。「とうや」は先祖に「Irish Cobblar」があり、これは「男爵薯」の原品種名なので、これも一族といって問題ないだろう。

問題は4位の「メークイン」だ。イギリス原産という記録だけで由来がよくわかっていない。ここだけモヤモヤする。


そうだ。「男爵薯」と「メークイン」を養子縁組すればスッキリする。

2品種まとめて煮込んで「カレーなる一族」にしてしまえ。