日記【2023.10.4】;穂発芽シンポのこと

今日から3日間、茨城県で「国際穂発芽シンポジウム」が開催される。今日の日記は、ちょっとこのことに触れたくなった。なお、私は参加していない。

テーマは主に小麦の穂発芽で、研究分野としてはかなりマニアックである。それでも、小麦は広く栽培されているし、穂発芽は経済的にも問題が大きいので、世界中から専門家が集まる。数年に一度の国際研究会として、第1回は1975年にスウェーデンで開催された。今回は第15回で、日本での開催は2度目となる。

日本ではじめて開催されたのは1995年、北海道の網走市であった。

網走開催当時の北海道の小麦は、穂発芽に弱かった。

穂発芽とは、畑で刈り取りを待っている状態の小麦に雨があたり、収穫前なのに小麦粒(種)から芽が出てしまう(発芽する)現象である。発芽した小麦粒はデンプンがこわれているので、挽いて小麦粉にしても使い物にならない。スポンジケーキは膨らまない、たこ焼きは固まらない、うどんは湯の中にどろどろ溶け出す、と言った具合になる。

1995年の網走開催は、北海道内の小麦研究者が主体となって、開催を立候補したと聞いている。北海道の穂発芽被害をなんとか解決しようという情熱が、世界中の研究者を網走に集めたといえる。

その後、北海道の小麦は、およそ30年かけて穂発芽に強くなった。30年前の品種は成熟後2日程度の雨でも被害が生じたが、最近の品種は5~6日雨にあたっても、ほとんど穂発芽せずに品質の良い小麦が収穫できるようになった。この間の品種改良は、1995年のシンポジウムで刺激を受けた研究者が、長い時間を掛けて取り組んできた成果といえる。


昨年、網走開催を主導したひとりの研究者が亡くなった。小麦品種改良のレジェンドといえる大先輩で、農業試験場を定年退職後も、自前の農場を開き穂発芽の研究を続けていた。その方が育成した小麦は、いまのどの国内品種よりも穂発芽に強い。おそらく世界で最も穂発芽に強い。私も調査に使わせてもらったことがあるが、雨への強さは半端なかった。将来の品種改良に大きな財産を残してくれている。

存命であったら、今年の国際シンポジウムにどんな思いを馳せただろうか。


私は参加していないけど、そこにいるだろう人々、もう会えない人、いろんな方の顔が浮かんでくる。過去からつないで、将来につないでいく。

ひとつわかったら、ふたつみっつわからないことが出てくる。新しい品種を出したら、次に改良しなければならないところがさらに見えてくる。

次の30年も、やることはいっぱいあるよ。


なお、1995年の当時も、私は参加していない。想いだけは受け取っているつもり!