創業65年の中小企業が、社是と企業理念を一新。パーパス作りの舞台裏を社長自ら語ります。
皆さん、こんにちは。
日本ベネックス社長の小林です。
普段は社員が更新してくれているnoteですが、今回はどうしても自分の言葉で説明したくて、この記事を書いています。半年間かけて作った、自社のパーパスの話です。
なぜ新しいパーパスが必要だったか。どんな進め方で作ったか。特に中小企業で、パーパスや企業理念をどう扱えばいいのか迷っている方のヒントになればと思います。
1.新しいパーパスを作りました
2022年10月3日、日本べネックスは新しいパーパスを策定し、公表しました。それに先駆けて、9月30日に全社員を集めて社員総会を行いました。
新パーパス「いい仕事を、しつづける。」と、「いい仕事」とは何かを示した「べネックス・ベーシック」を定めました。
詳しい内容については、ぜひ下記をご確認いただくとして、まずはなぜ新しいパーパスが必要だったかから、お話します。
▼コーポレートサイト
▼プレスリリース
2.なぜ作ったのか(このままでは社員の心がバラバラになる)
ここで、当社の歩みを少し説明させてください。日本べネックスは、1957年に「小林工作所」という名前で長崎市で創業しました。産業機器の製造を行うメーカーからの受託により、板金加工技術を高めて規模を拡大してきた、いわゆる製造業です。
私が入社したのが2011年、30歳の時です。それまで日本ベネックスには全く関わっていなかったのですが、家業なので子どもの頃からなんとなく会社の様子は聞いてきました。「次々と新しい商品を開発するチャレンジングな企業」と認識していました。
ところが入社してみると、全く様子が違います。どんよりとした雰囲気で、覇気がない。社員は真面目で、与えられた業務は一生懸命行いますが、過去を踏襲するだけで新しい取り組みには消極的。できない理由を並べ立てる状態でした。誰かが新しいことをしようとすると、足を引っ張るわけでもなく、ただ見て見ぬふりをするという感じ。
「あれだけチャレンジングなことをしていたはずの日本ベネックスは、どこに行ったのだろう」。それが率直な感想でした。
バブル崩壊以降、日本のものづくりは停滞期に入り、会社としても業績が伸びない中で、徐々にチャレンジングな社風が失われていったのでしょう。
社員のよりどころとなる社是や企業理念は、立派なものがありました。内容自体は今の時代でも通じるものだと思っています。朝礼で唱和している部署もありましたが、まるで呪文のようで、単なるお飾り状態。形骸化していたといってもいいかもしれません。
チャレンジングな企業風土を取り戻す
「これはまずい」。
全員が一丸となれる旗印が必要。しかし私が勝手に決めて押し付けても生きた言葉にならないし、浸透しないだろう。「企業理念の大切さがわかる人が社内に5人以上集まったら、みんなで相談して企業理念を見直そう」と、ひそかに考えていました。
私の入社後は、まずチャレンジングな企業風土を取り戻すことに注力しました。2012年に環境エネルギー事業部を立ち上げ、東京事業所を中心に太陽光発電事業に参入。順調に事業が伸びるにつれて組織も大きくなることで、新しい人も徐々に増えていきました。
一方で長崎側と東京側の心理的な距離感が離れていくようにも感じました。本来は、新事業の成長に刺激を受けて、長崎の製造側も新しい取り組みをできる風土にしたかったのですが、実態はお互いが何をしているのか、よく知らない。仕事のやりとりもないから、関心も生まれない。私自身は、ほぼ毎週長崎と東京を行き来してるのでいいのですが、社員にとってはまるで別の会社のように感じていたかもしれません。
特に受託製造をしている長崎は、市況やクライアントの業績に大きく影響を受けます。高い技術力があっても、それを発揮できる仕事がなくなってしまうのではないか。当社を支えてきたベテラン社員こそ、不安も大きかったと思います。
その後、行動指針を見直したり、社員総会で会社の方向性を説明したり、いろいろな取り組みを行いましたが、なかなか浸透しません。やはり根本的な部分、「我々が何のために存在しているのか」を示す企業理念に手をつける必要があることを、日に日に感じていました。
私自身、前職で新しいMVV(ミッション、ビジョン、バリュー)策定に関わったことがあり、その重要性はよく理解していました。だから、朝礼で唱和させたり社内に掲示したりするだけで、お飾りになってしまう企業理念はもういらない。普段の仕事の中で「使える言葉」「生きた言葉」が必要だと痛感していました。
今年に入り、本社社屋の大幅リニューアルプロジェクトを進めていました。どのような社屋にすべきか議論する中で、ある社員が「個別の議論の前に、日本ベネックス自体が、どんな存在であるべきかを定める必要があるのではないか。今は社是・企業理念・行動指針・目指す風土など言葉が乱立していて、わかりにくい。この状態で社屋をリニューアルしても中途半端になるのでは」と発言がありました。私もその通りだと思いましたし、社員からそのような発言が出たことをとても嬉しく感じました。今ならパーパスの重要性を理解してくれるであろう社員が10人以上いる。このタイミングを逃してはならないと思いパーパスづくりを決意しました。
3.行ったこと(ワーク、全社アンケート、ヒアリング、社長密着)
パーパスづくりをどう進めたのか。まず、言葉の専門家が必要と考え、福岡を拠点に編集やライター業をしている佐藤渉さんにプロジェクトチームに入ってもらいました。そして、半年間のスケジュールを決め、2週間に一度の定例会議を行い、パーパス作りを進めていきました。
はじめに、長崎市内のレンタルスペースを借りて、長崎と東京の主要メンバー11名を集めワークを行いました。そもそもパーパスとは何か、何をねらいとするかなど、プロジェクトの意義を伝える会です。ワークでは、創業からの歴史を振り返り、自社の強みをどう考えているか、現状で変えるべき点はどこかなどを、付箋を使って意見を出し合いました。
社員みんなで会社の未来を考えるという機会は、なかなか少ないものです。70代のベテラン社員も「若い人たちが会社の将来を真剣に考えているのがわかって感動した」と言っていたのが印象的でした。
その後、全社アンケートも行いました。当社は全社員にiPhoneを配っているので、デジタルツールもよく活用しています。アンケートには、Google Formsを使いました。本音で回答してもらうため、メールアドレスの取得はせず、完全無記名にしました。プロジェクト運営側も、誰の回答か本当にわかりません。その結果か、建設的な意見や現状の不満など書き込みがとにかく多く、今後控えている社屋リニューアルにも役立ちそうな情報がたくさん集まりました。
これらの結果を踏まえて、情報をまとめていきました。また、佐藤さんの方から私への個別のヒアリングや半日密着などをしたいと提案があり、それも会社や私の考え方を理解して、言葉づくりをするのに役立ったそうです。他社の事例や表現方法なども検討いただき、2週間に一度の定例で、佐藤さんからベースの案を出していただき、そこに検討を加える形で内容を詰めていきました。
4.ここが山場(自分たちらしさの再定義)
ターニングポイントはここでした。日本べネックスの強みや事業のコア、私たち“らしさ”の再定義です。
私たちは、長崎の工場で板金加工をすることから事業をスタートしています。しかし現在は、環境エネルギー事業が大きく育ち、いわゆる「ものづくり」企業とだけ認識されるのも違和感があります。私たちの強みは、ものづくりにおける加工技術力だけではない。長年ものづくりに携わり、隅々まで目の行き届いたものをつくりあげる姿勢、よりよいものを作るための改善活動など“ものづくりスピリット”を十分に生かして、新規事業に取り組んでいることがわかってきました。
私たちの核には、ものづくりの精神が今も息づいていて、そこからさまざまな事業が派生します。工場で作るものもあれば、工場を全く稼働させない、ものづくりをしない事業もある。それでも、創業の精神は真ん中にある。図式化するとこうなります。
まとめてみれば実に単純な図なのですが、これをチームでしっかり認識できるようになって、議論が進みました。
5.わかりやすく、使いやすく(小学生でも意味がわかるように)
他に気をつけた点や、佐藤さんから指摘されたことをまとめると、以下の3点になります。
2や3は、私も思い当たるところがありました。当社では年度ごとにスローガンを掲げていますが、言葉によって浸透度合いが変わります。「執念」という言葉を掲げた年は、あまり浸透しなかった。執念を持って仕事をしなさいと言われても、具体的にどうすればいいのか、イメージしにくかったんだと思います。
ところが、「すぐやる」とした年は、社内で「それ、すぐやりましょう」という感じでよく使われ、浸透したんです。言葉だけ聞いてすぐわかる内容だとこれだけ浸透が早いのかと、気づきました。だから今回のパーパスも、単純でわかりやすく、使いやすいものにしたのです。
6.デザインと展開(誰に見てもらうか)
さて、言葉が決まったら、次は伝え方。ここは、「板金鉄道」など当社のプロジェクトのデザインをいつも信頼して依頼している、景色デザイン室の古庄悠泰さんにお願いしました。インパクトがあり、印象に残るデザインを作り上げていただきました。
このデザインをベースに、Webサイト用の表現を作り、長崎の路面電車のラッピング広告や長崎空港の壁面用広告なども準備していきました。私たちは、長崎をルーツにもつ企業で、長崎で長く仕事をさせてもらってますし、社員にも長崎出身者が多くいます。だから、長崎県民に私たちを知ってもらうことはとても重要ですし、社員の誇りにもなります。
7.発表後の反応(予想外にこんなことも)
大事なのは作ったことではなくて、作って何が起きたかです。パーパスは即効性のあるものではないですが、今回は言いやすい言葉なだけに、社員総会での発表の段階から多くの人が口にしてくれました。最初のうちは冗談めかして使われるとしても、使われないよりはよっぽど良いです。
ちなみに日本べネックスは千葉ロッテマリーンズのオフィシャルスポンサーでもあり、ZOZOマリンスタジアムにリボンビジョン広告を掲出しています。10月より、このリボンビジョンにもパーパスを表示しました。
するとこれが、選手やチームへの問いかけにも見え、ファンの方々が「千葉ロッテ、今日もいい仕事してます」などと、いじってくれるようになりました。こんな風に、自社で定めた言葉が広く作用して伝わっていくのは、なんとも嬉しいことです。「いい仕事をする」というのがビジネスマンだけじゃなく、スポーツ選手でも主婦でも、誰にでも共通する問いかけだから、広がるのだと思います。
8.まとめ(これからパーパスを作る人へ)
今回、新しくパーパスを作り、反応も多くいただきました。長く使える自社の言葉にできそうだと、実感しています。パーパス、企業理念、MVV(ミッション、ビジョン、バリュー)など、いろんな言い方があり、それぞれの意味や解釈も微妙に違いますが、要は経営の指針となる言葉だと思います。社内外に向かって宣言し、それを経営の拠り所とするということ。他社の立派でスマートなパーパスと比べると単純すぎるかもしれませんが、小学生でもわかるようにしたかった。結果、私たちらしい言葉になったと思っています。他と比較せず、自分たちらしさを自分たちで決める。社員がそこに愛着を持つ。そのことがとても大事だと、私は考えています。
「いい仕事を、しつづける。」と宣言した日本べネックスは、これからすべての仕事をいい仕事にし、継続していかないといけません。定めた言葉を具現化し、「さすがべネックスさん、いい仕事してますね」と言われるようになることが、創業65年を迎えて決意を新たにした私たちの、目指すところです。
(お読みいただきありがとうございました。)
日本べネックスでは、新パーパスに共感し、いい仕事をともに世の中に増やしていくパートナーを募集しています。詳しくは、採用ページをご覧ください。
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