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社長が語る「中小企業流、新規事業のつくり方」


「会社の状況を見ると、何か新しいことをやらなきゃいけない」

そう話すのは、2012年に環境エネルギー事業を立ち上げた小林社長。

2020年には国内最大級の屋根借りメガソーラーを稼働させるなど、太陽光発電所の開発・運営を中心に事業を拡大してきました。

https://www.japan-benex.co.jp/information/30mwmega-solarkaihatsu/


製造事業一本でやってきた日本ベネックスで、新規事業を立ち上げた理由とその裏側について小林社長に聞きました。



1.成長する産業の、成長直前に参入


画面左側、小林社長

小林洋平 (こばやし ようへい) 代表取締役社長
・1999年 長崎県立長崎西高等学校 卒業
・2003年 東京大学工学部システム創成学科 卒業
・2005年 東京大学大学院工学系研究科 修了・ 株式会社クリード入社
・2011年 株式会社日本ベネックス入社
・2016年 株式会社日本ベネックス 代表取締役社長 就任


ーー:
2011年にベネックスに入社されたとき、そもそも会社はどんな状況だったんですか?

小林:
正直にいうと、数字は良くなかったし、負け癖がついているような感じもして、本当に危機感を感じた。

ーー:
あらかじめ新規事業を立ち上げる前提で入社されたんですか?

小林:
新規事業というより漠然と「新しいことをやらないと」とは思っていたかな。

既存事業の拡大か、全く別の新規事業をやるか、そこまで決めていたわけではないけど、何かやらなきゃと思ってた。

ーー:
その中で新規事業を選択した理由は何でしょうか?

小林:
既存事業を変えて伸ばすのは、めちゃくちゃ大変だなと。製造事業は60年以上続いている事業だから、ちょっと変えるだけでも労力がすごくかかるから。

であれば新しいことをやった方が効果も高いし、価値もあるんじゃないかなということで、新規事業をやることにした。

ーー:
ご自身の中で、参入する領域やプランはあったんですか?

小林:
いや、特になくて。入社した後に「今後伸びそうなもの」を調査していった感じ。

ーー:
参入する業界を、再生可能エネルギーに定めたきっかけは何ですか?

小林:
もともと新規参入する業界を選んでいたときに、考えていたのは「成長する産業に、成長直前に入る」こと。これが勝率を上げる鉄則だと思ってて。簡単じゃないけど(笑)。

ーー:
はい、一番難しいところです(笑)。

小林:
2012年が始まってすぐかな。ドイツの展示会に行ったとき、太陽光発電とか、風力発電の展示がずらーッと並んでいて。日本の展示会ではそんなことないのに。

じゃあ「なぜドイツは環境エネルギー産業が盛り上がっているのか?」と思って、ドイツの太陽光市場を調べてみると、どうやらFIT*という制度があるらしいと。

*FIT(フィット)制度とは:
「Feed-in-tariff(フィードインタリフ)」の頭文字を取った言葉で、日本語で「固定価格買取制度」を意味する。

太陽光や風力などの再生可能エネルギーからつくられた電気を、国で定めた価格で買い取るように電力会社に義務づけるための制度。

ーー:
はい。

小林:
それで今めちゃくちゃ伸びているということがわかって。一方、日本では、ちょうど2012年からFIT制度ができることが分かった。

だからこれから日本も伸びていくと思って、本格的に市場調査し始めたのがきっかけかな。

ーー:
新しい市場なので、それこそ大企業とかどんどん参入してきそうですよね。

ベネックス春日井ソーラーポート。
年間予想発電量約275万kWh(一般家庭約900世帯分の年間消費電力量)


小林:
そう。だからそのタイミングで太陽光にはいろんな会社が参入してきたね。

ーー:
ものづくり一筋でやってきた会社ですが、エネルギー市場に参入するためにまず何からやり始めましたか?まったくのゼロからですよね。

小林:
本当にゼロから(笑)。まずは事業計画つくったり、マーケット面、制度面を調べたり。

ーー:
ヒトの部分はどうしたんですか?

小林:
うちがラッキーだったのは、電気設計は本業でやってたから、電気図面が見られる人材はいた。もちろんその社員たちも、発電所は作ったことはないけど(笑)。

ーー:
技術的なところは大丈夫でも、足りないものばかりですよね。

小林:
太陽光の技術はゼロからなんで、大丈夫というわけでもないけどね(笑)。システムもどういう風にした方がいいとか、仕組み、制度も含めて本当にいろんな人に聞きまくってた。人もいないから足で稼ぐしかない。

ーー:
2012年時点では、今ほど太陽光関連の情報もないですもんね‥‥。

小林:
全くない。市場自体が新しくて事業者側もまだ慣れていないから。電力会社の人もほとんどわかってない状況だったし。

ーー:
技術系のメンバー以外は、どうやって社内のメンバー増やしていったんですか?


小林:
あとは外部採用だよね。外部から優秀な人がきてくれて、だんだん回るようになってきたかな。

ーー:
立ち上げ当初、会社の社員からはどんな声があったんですか?

小林:
賛成も反対もなく‥‥。わからないからだろうけど。当然、邪魔するような人もいないし、かといって一緒にやりましょう!という感じでもなかった(苦笑)。


2.顧客はマーケット


ーー:
本格的に事業としてやる上で、「市場的に伸びそう」「社会的価値がある」というのは理解できたんですが、「ベネックスが勝てそう」という確信はどれくらいあったんですか?

小林:
正直、最初はやってみないとわからないと思ってて。幸いにも我々には工場があったから、まずはテスト的に工場の屋根にパネルを付けてみようと。

普通のコスト構造で、自社の屋根に付けるだけだし、損はしないとわかってたから。その1件目をやりながらノウハウを溜めることができた。

本社工場の屋根。長崎空港に降り立つ飛行機内からもはっきりと社名が見える。


ーー:
なるほど。1件目の案件が、自社の屋根だからスピーディーにできたのも大きいですね。

小林:
そう、そう。そこである程度の知見が付いたし。

ーー:
最初のブレークスルーしたポイントは何だったんですか?

小林:
最初は、2014年の流山かな。それが当時、屋根を借りた発電所として日本最大級だったから。

そこから、いろんなメディアに出るようになって、業界で認知され始めた。そういう意味ではこの案件がブレークスルーかな。

ベネックス流山ソーラーポート。
屋根借りメガソーラーとしては当時国内最大級の出力(約2.3MW)。


ーー:
日本一、は大きいですよね。

小林:
これを機に、物の調達においての交渉力もついたし。

ーー:
そういえば、発電所にかかわる物は、ほぼすべて外からの調達ですよね。流山の案件以前は調達に苦労していたんですか?

小林:
そりゃ苦労するよ‥‥。まずは太陽光パネルをどうやって買うかわかんないし。とりあえず太陽光パネルメーカーの世界ランキング上位10社みたいなものを見て、その中で日本法人があるところに片っ端から電話かけて(笑)。

当時を思い出し、思わず頭をかかえる小林さん。


ーー:
そうだったんですね(笑)。

小林:
話を聞いてくれるところもあるけど、門前払いも当然あって。最初はそんな感じ。

そういえば、これは最初から決めていたんだけど、とにかく製造事業のリソースをできるだけ使わない、と。

ーー:
既存のリソースを使わない‥‥とは?

小林:
既存事業のリソースを使えば、どうしても既存事業が優先されてしまうよね。そうなると新規事業が副業になってしまう。

例えば製造事業では三菱電機が主要取引先だけど、太陽光パネルを選ぶときに、取引先だからというだけの理由で三菱電機製を選んでしまえば、それはもう事業とは言えない。

ーー:
でもそれ、やりがちですよね。つい楽したくなりますから‥‥。


小林:
そう、ついついやりがち。新規事業って2パターンあって、本当の新規事業か、既存事業の副業か。もっというと顧客が誰かと考えた時に、顧客がマーケットのケースと、顧客が既存事業のケース。

新規事業って、わりと顧客が既存事業だったりするから。それは一つの考え方としてありかもしれないけど。

ーー:
うちの場合は、あくまで顧客はマーケットという意識が強かったと。

小林:
でないと、発展しないと思ってたから。あと、太陽光事業において「自社でものづくりはしない」と一貫して言っていて。当然、社内で理解されなかったけど。

ーー:
せっかく製造できる工場があるんだから‥的な発想で考えがちです。

小林:
太陽光関連のものは、いずれコモディティ化(一般化)するとわかってたから。コモディティ分野に製造で手を出してしまうと、いずれ失敗するのは目に見えてた。

日産自動車のEV「LEAF」24台分の使用済み蓄電池を格納した蓄電池システム。


ーー:
コモディティ化してもよっぽど競争力があれば‥‥。

小林:
現に太陽光関連のものづくりに参入したところは、ほぼ失敗してるし。白物家電と同じように、とにかく価格競争力が働くから、マーケットシェア1位取ったとしても、儲けられないかもしれない。

パネルメーカーだって世界シェア1位になれば倒産するってジンクスがあるくらい。そこにものづくりで、裸一貫で向かっていくのはありえないなと。

ーー:
そこを見据えての判断ですね。

小林:
そういう意味では、やらないことを決めることは大事にしてる。

ひとつ成功したら周辺領域もつい手を出したくなるけど、そこは冷静に判断しないと。


3.失敗を失敗で終わらせない執念


ーー:
新規事業を立ち上げるうえで、他に大事にしているポイントって何かありますか?

小林:
マーケットを見続けるということ。さっきも言ったけど、あくまでお客さんはマーケット。自分都合の目線で見ずに、マーケットで何が正しいか、本質を探るというのが大事で。

ーー:
具体的に言うと‥‥。

小林:
太陽光も、年々FIT価格が下がっていくから、2014年ごろから常に「もう終わりだ」って報道では言われ続けてきた。

でもマーケットというのは決して報道とか周りの人の意見ではなく、その先にある本質的なところをいかに見るかが重要で。

我々は日々マーケットと向き合っていたから、もう終わりだなんて思わなかったわけ。報道と実体って違うから。だから全然いけるなっていう。

マーケットの本質を見る努力をすることは大事かな。

ーー:
なるほど。

小林:
報道でいうほど全然悪くないじゃん、みたいなことってたくさんあるから。そこは自分たちを信じないと。

ーー:
その当時のマーケットと、今のマーケットって、思い描いたものと合ってる感じですか?

小林:
あぁ、そういう意味では全然ズレてる。こんなに爆発的に太陽光が普及するなんて思わなかったし。なんて言えばいいかな。

こうなるというイメージとは違ったけど、一つひとつの案件はその時々に合わせてやっているからズレてない。

ーー:
イメージは違ったけどその都度、対応してきたってことですね。

小林:
マーケットって完全に読めるものでもないから、いろいろリスクはある。でもその最大リスクが実現したときに、どれくらい損するかは数字でいつもシミュレーションしてる。何でも数字に置き換えたいタイプだから。

「これだったら取れるリスクだな」と、自分の中で一個一個考えていけば
失敗したとしても、たかが知れてる。

ーー:
シミュレーションしてみて、だいたい勝率が何パーセントくらいあれば、やろうとなるんですか?もちろんリスクの大小はあると思うんですけど。

小林:
どうなんだろう。例えば、大きなお金が必要な投資であれば勝てる戦いしかしたくないから、99%大丈夫という状況にならないと投資しない。

ただ一方で、将来の種まきとして、そんなにお金がかからないものであれば、いろいろ手を出しておいた方がいい。

基本、勝てる戦いしかしたくないんだけど、勝てる戦いだけだと、未来の広がりも出ないと思ってて。次のものを得るには、多少負けることもあるかもしれないけど、やらないと。

ベネックス苫小牧ソーラーポート。
年間予想発電量 約303万kWh (一般家庭 約840世帯分の年間消費電力量)


ーー:
だけどそこはリスクヘッジしているから、負けたとしても‥‥。

小林:
損はしない、致命傷ではないっていう。まぁ意識してるんだけど、難しいよね(笑)。

ーー:
でも、失敗してる感じがあんまりないですよね。

小林:
いや、いや。失敗はたくさんある。失敗するけど、損はしてない(笑)。
要するに失敗が致命傷になるか、ならないか、というところで判断してるから。

ーー:
あぁ、なるほど。

小林:
新規事業って、ユニクロの柳井さんですら1勝9敗と言ってるぐらいで。うちも失敗したと認識されないぐらいのものってたくさんあって、いろいろ仕掛けたけど影も形もなくなったものは、山ほどあるから。

ーー:
そうなんですね。

小林:
今でこそ太陽光の屋根借りというのは、うちの強みになってるけど。

もちろん最初からそこを狙ったわけでもなくて、いろいろやっていく中で、偶然とかいろんなご縁もありつつ、そこに強みがあるということに行き着いてる。

ーー:
小さな失敗があってこそ辿り着いたという。

小林:
そう、種はまきつづけないといけない。常に10個くらい並行して何かやっていれば、1個くらいは成功するから。

ーー:
9個失敗しても1個の成功で回収できるみたいな。

小林:
うん。くり返し言うけど、失敗しても損しない程度だから。あと失敗を失敗で終わらせないっていうのはある。

ーー:
転んでもただでは起きない、と。

小林:
うちの案件一つひとつも、小さな失敗はたくさんあるんだけど、成功するまでやり続けてるから。そこは執念だよね。


4.中小企業の強み


ーー:
大企業とは違う、中小企業ならではの新規事業のやり方って何か特別にありますか?

小林:
時間軸という捉え方でいうと、大企業は例えば新規事業をしようとするとき、2年以内に黒字化とか、第1四半期いくらの利益、とかあると思うんだけど。

要するに、短期的にこれくらいの利益を出さないとダメ、というのが優先されちゃう可能性が高くて。

中小企業は会社にとって何が一番正しいのかを見ればいいので、その時間軸を味方にできる。

ーー:
大企業で「10年後にこれくらい利益出ます」と言っても、株主から怒られるし、株価は下がるし‥。

小林:
そう。例えばうちでいうと、短期的に利益をたくさん出したかったら、発電所をつくってどんどん売却していけばいい。でも、うちは今まで一件も売却していない。

それは短期的な利益よりも中長期的なビジネスとして発展させていきたいし、その発電所を所有することでまた別のビジネスを立ち上げられると思っているから。

ーー:
中長期的な目線でビジネスできるのが強みですね。一方、ベンチャー企業との比較でいうと何がありますか?

小林:
ベンチャーとの比較だと、中小企業が圧倒的に強いのは資金調達。

太陽光事業においては、ベンチャー企業は最初に自社で発電所を所有するというビジネスは事実上できない。だけど我々は資金調達ができるからそういうアセットを持つ選択肢があった。

ーー:
とはいえ、太陽光事業の立ち上げ当初は、金融機関側も融資するのを渋ったんじゃないですか?市場が新しいから、いまいちわからないということで。

小林:
それはあった。金額もそれなりに大きかったし。先方も不安材料を排除するために、審査の段階で千本ノックみたいな質問が来るんだけど、そこはしっかり説明して、それで最終的には通してくれて。

ーー:
通してくれたのは、これまでのベネックスに対する信用も大きかったんですか?

小林:
それはすごくあると思う。「太陽光について分からない点もあるけど、ベネックスさんがいいと思ってやるんですよね、それだったら‥‥。」って言ってくれたし、そこの信用は大きかった。本当にありがたいよね。



おわりに


新規事業の立ち上げから現在までを振り返る中で、とにかく失敗ばかりだったと話す小林社長。

常にマーケットの本質を見て、リスクを管理し、大きなダメージを受けずに、正攻法でチャレンジし続ける。これが中小企業における新規事業のつくり方なのかもしれません。

日本ベネックスはこれからも事業の拡大、新たな市場への参入を視野に邁進してまいります。


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