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2022年に炎上した映画について思ふこと

今年はSNSで盛大に叩かれた映画が多かった気がします。

なぜあんなに炎上したのか整理してみます。

🎬大怪獣のあとしまつ(2月4日公開)

もともと『時効警察』や『タモリ倶楽部』など深夜枠のテレビや、シティボーイズの舞台演劇で人気だった放送作家/監督の三木聡が、たまたま特撮怪獣映画が大好きだったので、監督のファンだった東映の須藤泰司プロデューサーが「だったら撮っちゃいましょう」と持ちかけて、なんと史上初の松竹と合同配給までして、そのまま勢い(悪ノリ)で作った映画です。

*三木聡のテレビ番組(ウィキペディアより)
*三木聡の映画と演劇(ウィキペディアより)

しかし三木監督の名前すら知らなかったガチの特撮ファンが初日の劇場に駆けつけて、期待とは大きく異なるベクトルの作品を見て混乱または憤慨して、騙された気持ちになってSNSで罵詈雑言を浴びせました。

ここに目をつけた”無党派”のネット民達がおもちゃにして大炎上になりました。金曜の夜には大騒ぎだったのですが早すぎます。見てなくても拡散は出来ますからね。主演が山田涼介だったのでジャニーズファンの注目度が高かったこともあり、批判的な意見はますます加速し、そのうち誰が言い出したのかは知りませんが”令和のデビルマン”というパワーワードも生まれてTwitterトレンドを支配しました。

🎬ジュラシックワールド/新たなる支配者(7月29日公開)

ジュラシックシリーズの完結編となった映画です。

意外と見落とされているのですが、ジュラシックパークがシリアスだったのは1作目までです。2作目でスピルバーグ自身がリアリティレベルを大幅に下げてアトラクション映画にシフトチェンジしました。アミノ酸の仕組みが無効化されたり、人間がラプトルと互角に戦ったり、という時点でもう無茶苦茶は始まっています。それを分かっていると低評価の多い3作目や5作目も楽しめたりします。

*ありえないことが起こる、それがジュラシックパークなのさ。

しかし、そういうユーモアが理解されにくい日本では、配給会社がひたすら1作目の威厳を借りて崇高なシリーズのように持ち上げ続けるので、6作目でも日本の広報を信じて劇場に行った映画ファンがこれまた騙された気持ちになってSNSで大炎上しました。

まあ巨大イナゴの大群はちょっとお門違いだったとは私も思いますが😅

補足)ドミニオンではインドミナス系のような遺伝子操作恐竜は出しません!と言ってる映画で、遺伝子操作イナゴやら遺伝子操作小麦が出てくるのは、ちょっと詐欺っぽいと思いました。前作でさんざん揶揄されたレーザー照準で攻撃してくるラプトルも出てきたし。
なんだろう、牛丼屋で「テイクアウト」名目の税率8%で購入した牛丼弁当を、”たまたま牛丼屋の軒先に置いてあった”ベンチで食べて空き容器は牛丼屋のゴミ箱に捨てて帰ったような、それって税率10%の「店内飲食」と事実上同じでしょ、みたいな。(笑)

🎬ブロンド(9月28日公開)

マリリンの数々のエピソードを、とことん”マリリンの主観”から捉えて描いた異色の映画です。

伝説の女優マリリン・モンローの有名なエピソードには妄想にまみれたゴシップが多いです。例えばケネディ大統領とのロマンスもフェイクだったというのが現在では通説になっています。まあ日本に住んでいるとあまり情報が入ってこないので、20世紀生まれの世代は認識をアップデートしないまま信じ続けている人も多いと思いますが。要するにネットがない時代に流行った口裂け女とか人面犬とかと同レベルの噂話なのです。

この映画はそんな都市伝説をまとめた創作小説の映画化です。しかし”史実を描いたつもりの映画”と勘違いした国内外の活動家たちが「史実と異なる」に始まり、果ては「マリリンがいまだに性的搾取されている」だのと的外れなロジックで批判を展開し、SNS大炎上の引き金になりました。

この映画では「性的搾取は悪いこと」だと描かれており、それが主題ですらあるのに、しかもその表現が直接的で過激だから配慮してR指定まで付けられていたのに、先述のように文句をつけている自称専門家は「私は映画のメッセージを何も理解していません」を表明しているようなもので、大変に愚かな発言だと思いました。典型的な炎上系フェミニストだと言えるでしょう。しかし残念ながら少なくない人達が、そうした発信だけを見て映画を鑑賞前から敵視していたようです。

*Blonde: A Novel (Joyce Carol Oates, 2000)

Blonde is a bestselling 2000 biographical fiction novel by Joyce Carol Oates that presents a fictionalized take on the life of American actress Marilyn Monroe. Oates insists that the novel is a work of fiction that should not be regarded as a biography. It was a finalist for the Pulitzer Prize (2001) and the National Book Award (2000).
ブロンドは2000年に出版されたジョイス・キャロル・オーツ(当時62歳)による伝記風ベストセラー小説である。アメリカ女優マリリン・モンローの人生をフィクションで脚色して綴っている。オーツはこの小説は伝記としてではなく創作であると主張している。同書籍はピューリッツァー賞ナショナルブックアワードの最終候補になった。

https://en.wikipedia.org/wiki/Blonde_(novel)

原作小説のことを少し調べれば分かりますが、要するに、1960年代から小説家としてアメリカの第一線で活躍していた団塊世代のお婆ちゃんが、20世紀の終わりにひさしぶりに世に放ったスマッシュヒットが小説版ブロンドであり、そのショッキングな内容から当時アメリカではかなり話題になっていたのです。

日本で例えると『タフガイ』という題名で”石原裕次郎と芸能界の闇”を描くフィクション小説が出版された感じですかね。これで伝わるのかしら。保険のためにもう一つ例を書いておきましょう、もしくは都市伝説を集めたハローバイバイ関暁夫の書籍に近いものがあると思います。これもそれなりに古いですが。(笑)

なお西暦2000年前後のアメリカではミレニアムが終わる不安が煽られたり、「ジェネレーションX」が批判的に語られたり、2000年3月のアカデミー賞では『アメリカン・ビューティー』が作品賞を受賞したりなど、”アメリカの理想像を砕く”論調が一種のブームだった時期でもあります。

アメリカン・ビューティー』(原題: American Beauty)は、1999年製作のアメリカ映画。サム・メンデス監督作品。平凡な核家族が崩壊する過程で、現代アメリカ社会の抱える闇を時にコミカルに描き出す。娘の同級生に恋する中年男性をケヴィン・スペイシーが演じている。第72回アカデミー賞作品賞を受賞した。

https://ja.wikipedia.org/wiki/アメリカン・ビューティー

なのでアメリカの活動家はそんな背景は分かった上でこの映画がフィクションであることは無視して批判していたのでしょう(アメリカ人は往々にして自分に都合の悪い情報は一切伏せて言論を展開します)し、日本の活動家はそんな経緯を知らずに(欧米の声だけを純粋に信じて)批判していたのが多数派だと思います。浅ましきこと哉。

*最初からあったのかは不明だが、Netflixの説明欄には「フィクション」と明記されている。

🎬”それ”がいる森(9月30日公開)

リングの中田秀夫監督の最新作として注目を集めた映画です。

中田秀夫監督は当初「SFを撮ってください」と、この映画のオファーを受けました。本人もそのつもりで撮りました。しかし予告編やプロモーションで配給会社は、まるで本格派ホラー映画のように宣伝しました。

結果として「全然怖くない」という、当然すぎる不満の声でSNSは大炎上。だって”怖く撮ってない”んですから。本作が目指したのは、言うならば日本版シャマランとか日本版Xファイル、もしくは”学校の怪談THE MOVIE”だったと思うのですが、気の毒でしかありません。

特に2月公開の『大怪獣のあとしまつ』はTwitterで #令和のデビルマン なんてハッシュタグが生まれたくらいで、つまり30年に1本レベルの不名誉なタイトルを授かっていたのですが、その僅か8ヶ月後に #今年最悪クラス が現れるという珍事になりました。

この2作品を叩いていた影響力の大きなTwitterアカウントやYouTubeの解説系チャンネルの顔ぶれは、大体同じだったと記憶しています。

🎬ムーンフォール(7月29日公開)

炎上映画はまだあります。日本ではAmazonで独占配信されたムーンフォールもまたSNSで強く叩かれました。

ローランド・エメリッヒは近年の監督作品では自身の性癖ジョークを盛り込んだ映画を連発しているのですが、多くの日本の映画ファンの記憶には『インデペンデンスデイ』が焼き付いているので、本作もシリアス系のように宣伝されて、結果的に炎上しました。

*他にもあったら、ぜひコメントで教えてくださいませ。

✍️全てに共通するのは広告と実物のギャップ

ここまで読んでくださった方なら、もう察していると思いますが…

実はシュールギャグ映画なのに、シリアス怪獣映画だと勘違いされた映画
実はアトラクション映画なのに、一作目の崇高な印象を押し付けられた映画
実はフィクションなのに、史実だと勘違いされた映画
実はSFスリラーなのに、ホラーだと勘違いされた映画

要するに、炎上の理由は全部【宣伝ミス】です。

劇場予告編やSNSでのプロモーションでミスリードして、観客に実際とは異なるものを期待させてしまったのだから、炎上するのは必至でしょう。もちろん配給側にもマーケティング戦略やビジネス上の制約など諸事情あることは想像できますが、ややもすれば「とりあえず興味を引いて集客できれば後は知らん」とも見える安直で姑息な手法は止めてほしいと思います。

いわゆる”炎上商法”というものが定着してしまった昨今では、悪名でも高まればバズり効果で売上がアップするという側面はあります。しかし、これはモルヒネや覚醒剤に近い禁断の薬です。こんな阿漕な商売を続けているから配給会社や広告代理店が世間の信用を無くしつつあるのです。

大手メディアに限らず、一般層にも”みんなでいじめる傾向”は蔓延しています。誰かターゲットを決めていじめること自体も一種の”甘い蜜”になりますが、SNSでの高評価や共感という承認欲求も絡まって、炎上する時は歯止めが効かないレベルで炎上します。最近増えた、いわゆる業界人ではなくて、素人から成り上がった映画解説系のYouTuberは視点や考え方が一般大衆と似ている所があるので、それはもう品性下劣なサムネで炎上を煽りまくる動画が目立ちます。炎上作品が公開された直後の界隈は、まるでサムネ大喜利の様相を呈します。

もはや「一部で炎上してても届いてほしい人には届いてるからそれでOK」という話ではないと思うのです。その映画を”正しい方法”で享受して楽しんでいる人達だって、その映画を”正しくない方法”で消費して荒れているSNSを見て心を痛めています。

奇しくも先日にTwitterを買収したイーロン・マスクは「Twitterは極端な意見のエコーチェンバーになっている」と批判して、「もっと生産性のある議論をする場所として育てたい」と企業改革に乗り出しました。

個人が好き嫌いを感じるのは自由ですが、少なくとも誤解が原因で炎上しているのは制作者が気の毒なことです。

観客側もアホな広報のミスリードは見抜いて、純粋に映画の違いを受け入れて、長所を愛するコミュニティになってほしいですね。

了。

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