YKG60-子供たちの潜在力が開花した地域を動かす集団(4)
皆様こんにちは。
「YKG60(やかげ小中高子ども連合)YKG60」 のお話。最終回の第4回目では「YKG60」が誕生してからの軌跡をご紹介します。
YKG60とは?
矢掛町(岡山県小田郡)に住む小中高生有志が、地域の課題解決や活性化に自主的に取り組んでいるグループです。詳しくはこれまでの記事をご覧下さい。
今回も「YKG60」共同代表の井辻美緒さんにお話を伺います。
ライター : 「それでは井辻さん、今回もよろしくお願いいたします。前回『YKG60』が誕生するきっかけをお伺いしましたが、その後のお話をお聞かせください。」
自治体の事業としての船出。同士との出会い。
井辻さん:「はい。矢掛町合併60周年記念事業に採択されましたが、まずどこから手をつけていいのかわからなかったのです。だから町おこしの専門家にアドバイスをいただきながら、大人も子どもも肩書をとっぱらって矢掛のいいところを話し合える機会を設けました。
その時「こういうことをやりたいよね」がでてきたら、それを実行するための委員会を立ち上げて、ここまでを1年間の事業にしようと思っていました。
この頃すでに地元矢掛高校の室貴由輝(むろたかゆき)先生が、高校生に限らず異年齢で地域活動ができるようなグループを、既に立ち上げられていました。参加してくれた子どもたちがほぼ同じ、しかも、やろうとしていることもほぼ同じでしたので、『だったら一緒にしましょう』ということで『やかげ小中高子ども連合』という団体になり、子どもたちが「YKG60」と命名しました。
ライター:「地元高校でも、同時期にそのような動きがあったのですね」
井辻さん:「はいそうだったんです。それで、最初のYKG60の会議では『矢掛町のブランディングをしよう!』と、良いとこ、悪いとこをみんなで出し合いました。
良いところは『人の温かさ』『五感で感じる自然』『歴史』 それをみんなで伝えていけるような、活動をしようねっていう団体になりました。しかし、その時一つだけ、
『ゴミが多い』
という意見が子どもから出ました。アンケートを見ても大人は誰もそんな意見を言っていなかったのですが、その意見は大切にしよう!と決めました。
高校生主体の、町のブランディング活動がはじまる。
まずはブランディング部隊。矢掛町のゆるキャラ「やかっぴー」の認知度を上げたい! そのためにイベントで「やかっぴーかき氷」を販売したい! という声が上がりました。
「やかっぴー」については矢掛町観光サイトをご参照ください。
かき氷のレシピを考えるだけでは実現性に欠けるので、『ライセンス(使用許可)をもらわないといけないよ』と言うと、学生が役場に行き申し込む。
『かき氷機がないよ』と言うと、どこで借りられるかをリサーチし交渉に行く。イベント主催者に試作品をつくり、販売の承諾を得る。
といった具合に、すべて子どもたちが段取りをしました。おかげさまで当日のイベントは大盛況! やかっぴーかき氷も即完売でした。」
ライター:「子どもたちと地域がサポートしあっていてステキですね。」
井辻さん:「子どもたちが一生懸命だから、大人の方も本気になれるんですよね。
ゴミ問題を本当に解決するために子供たちが考え抜いた結果。。。
そして、ゴミ問題部隊。まず、子どもたちはどんなゴミを見ているんだろう…と思い、ゴミがどこにあるかをみんなで予想を立てから、『大人と一緒に見に行くツアー』をしました。そして、実際にあったゴミのマップを作りました。
見比べてみると、いろいろ感じることが多々ありました。実際落ちていたゴミは、たばこの吸い殻がとても多かった。どうやったら減らせるかを、子どもたちは意見を出し合いました。
『こわい看板を作る?』
『絶対見られているからね!みたいな?』
『ゴミ箱を5メートルおきに置けばいい!』
『監視する?』
『威圧する?』などなど
初年度は矢掛町から事業認定を受けているので、最初に計画を立て予算も立て、流れを明確にして、その通りにしないといけないから、この会議で結論を出さないといけない!
でも、子どもたちはそのようにならない!と、私自身がとても焦ってきたときに、室先生から『放牧だよ』って言われました。
『囲いだけしてあげて、あとは子どもたちに任せよう。最初だし失敗してもいいじゃない。借金したら大人がなんとかしよう』と。
とにかく子どもたちに任せようと腹をくくった頃、子どもたちから、
『なんか、ゴミに対して感謝が足りなくない?』という意見がでてきまして…。」
ライター:「おぉ~~」
井辻さん:「そこから、『ゴミって、もともとゴミで生まれてきたわけじゃない。人間を便利にしてくれるために生まれてきたものなのに…私たちがゴミにしているだけ。ちゃんとリサイクルすれば生まれ変わることができる。』
『変わらない大人たちに警告するよりも、私たち世代や私たちより小さい子にこういうメッセージを届けた方が良くない?』という話になり…。」
ライター:「まぁ~それはなんと素晴らしい。」
井辻さん:「そして、ゴミのポイ捨て対策会議から「Re:アートワークショップ」という企画が生まれました。結婚式で使われるキャンドルを回収・再生してイベントなどで使用しているNPO法人タブララサさんともコラボしました。」
メッセージを大勢に伝えたいからCMを作ろう!
井辻さん「そしてそれからもどんどん加速し、
『だったらCMが作りたい!』
『CMを作りたいなら、矢掛ケーブルテレビ(矢掛放送株式会社)に行ってみよう』
と子どもたちが盛り上がり、「そんなんできるんかな?」と内心思っていたところ、ショートとロング二つくれることになりまして。」
ライター:「まぁ!それはすごいことですよね。」
井辻さん:「そうなんです。『そのかわり、作るのはあなたたちだからね。』と仰って、CM制作ノウハウを一からたたき込まれたました。どれも無理だろって思いつつもあれこれ宿題を出すと、高校生たちが全部それにこたえてきた。だから局のスタッフさんが本気になってくれて、『最後まで伴走します』と言ってくれまして、完成にこぎつけました。」
CM制作においては監督は高校生、カメラマンは中学生が担当。
心をうつメッセージを伝えたい。ゴミに感謝を!!ゴミだって生まれ変わることができるんだ!だから、ちゃんと捨てて欲しい…という願いを込めた台本はもちろん、CM絵コンテ、小道具、ロケハン、出演者への声掛けなど、矢掛放送スタッフさんの力を借りながら子どもたちだけで進めたそうです。
その時の様子は矢掛高校ウェブサイトの、校長室2015年1月9日「第9回YKG60会議」でも取り上げられています。
そこには、「異年齢の集団を組織することで持続発展可能な教育を実現させるとともに、活動を通してふるさと意識を高め、地域に貢献する人材を育成していきます。」とあり、町の将来を見据えた長期的な視点で学校教育を推進されていらっしゃいます。
子供たちの活動においては、大人はパシリに徹するべし。
ライター:「感動です。いいきっかけを与えたら、どんどんそれが膨らんで、自分たちでさえ想像しなかった世界に広がっているようですね。」
井辻さん:「子どもの数だけアイデアがあるんですよね。『どうしたらそういう“いい活動”ができるんですか?」とよく聞かれますが答えは本当にシンプルで、
『子どもに任せればいい。答えは子どもが持っているから。私が持っているアイデアなんて足元にもおよばない。』のです。そして、
『子どもたちが、やりたい!と思っている活動を、いかに制限なくやらせるか。』だけの話で、それは失敗してもいいし、やめてもいいし、とにかく“自分が楽しい”と思えるかどうか…。
そして『できないときは誰かに頼る。そうすればできるから。』と言い続け、私は“パシリ”になっているだけで…。それでたいてい何かができているんんですよね(笑)。
高校生と小学生との化学反応が面白い。
子どもたちだって、最初は『これでいいですか』『これをやってもいいですか?ダメですか?』って正解ばかり聞いてきていて、高校生になるほどそれが強かったのですが、異年齢活動の良さはそこを小学生がぶち壊すんですよね(笑)。
すごいアイデアを出してくるから、「え、それいいんですか?」って大きい子がびっくりするみたいな…。」
ライター:「それぞれのポジショニングが面白いですね。」
井辻さん:「最初、高校生たちは『(小学生たちが)遊んでばっかりだからあいつらめんどくさい。話が全然進まない。』と言っていたのに、ある瞬間から『(小学生たちが)すごいアイデアをくれた。あいつらすごいって思ったときからイヤじゃなくなった。むしろ関わりが楽しくなった。』と言ってくれるようになったのです。」
ライター:「大人たちが『小さい子の面倒を見て』って押し付けるのではなく、紆余曲折あるからこそ、認め合うことが腑に落ちている…そういう場ってなかなかないのでは。ちなみに、この活動は公民館かどこか部屋をお借りしているのですか?」
地域交流の拠点として活用される高校の施設。
矢掛町:「実は矢掛高校の敷地に、“地域の人と交流しましょう”という目的で作られた「FOREST」という部屋があり、そこで月に一回集まっているのです。」
岡山県では、ユニバーサルデザイン(UD)に配慮したまちづくりの取組みが活発で、「FOREST」は、このUD整備事業で作られました。内装には県産材を使っています。 写真は、矢掛高校ウェブサイトより引用。
ライター:「つながりができてくると、『矢掛高校に行きたい』って子も増えるでしょうね。」
井辻さん:「そうなんですよね。小中学生たちは、高校生たちに憧れをもって参加していますから。それに、今まで褒められる機会が少なかったであろう高校生たちも、年下の子たちから全力で慕われるから居心地がいいようです。」
ライター:「いい関係ができていますね。地方に行くと、高校は高校で頑張っているのに、小中学生たちから「あの高校だけは行きたくない」と勝手に思わることもあるようです。受験生が市外に流出してしまい定員割れをしている学校が増えていますもの。そこに通う高校生だってかわいそうですよ。矢掛みたいに地域とつながり、小中学生から憧れられたら、高校生だって誇りが持てますよね。」
子供たちが誇れる町にする解決策が見えてきた。
井辻さん:「結局、何でも“人を通して知る”んだなって思います。もちろん、中学校でも高校でも、生徒たちのつながりを深める仕掛けをされています。ただ、中学校の先生方は1校だけを押すことはできませんし、転勤もありますし、地元高校との連携はなかなか難しい面もおありかと思います。でも地域がこういう関わり方ができる場を作り続けていくことが大事なんだなって思います。」
ライター:「子どもたちが自分自身の経験を通して、つながりを構築していると、大人になったときにいいですよね。地域に知り合いがいっぱいいるし、やっぱり矢掛町が好きという気持ちが強まっているでしょうね。」
井辻さん:「今、大学2年の子が、帰省時『小さい頃は“矢掛町には何もない”って思っていたけど、YKG60の活動を通して矢掛町のいいところをたくさん見つけられた。今通っている大学で友人が、ここは何もないってぼやいていて…あ~昔の私だなって。いや、ここはいいよ!こんなに素敵なところだよって感じられるような場作りをしたいんです』って言ってくれたのです。こういう感覚をここで育ててこれたんだなって思えて嬉しかったです。」
ライター:「自分たちが主役、という土台があって、それが地域を良くすることにつながっている感じがいいですよね。井辻さんの思いがしっかりと受け継がれているようですね。井辻さん、今回もありがとうございました。」
4回シリーズでお送りしたYKG60の活動。YKG60は現在も新たな拠点を構え、福祉や被災地支援へと活動の輪を広げながら日々進化しています。
2018年西日本豪雨の被災地活動の様子は、こちらの記事でも紹介しています。
YKG60の活動については、こちらのFacebookページをご覧ください。
https://www.facebook.com/YKG60/
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