★それぞれが確かめ、求め。④

 おそらく平和になった家に、つかの間の安息の眠りを。
 ――って、眠れるわけがない。眠れない。寝れない。


 お母さんは子どもが欲しいの?なんで?
            なんで?
なんで?   なんでよ。
   なんで。

 私はいらない?

 違う。そしたらあいつに私のこと話さないし。
       娘ちゃんのことを聞いた時が一番楽しそうに話してたよ。
あいつの言葉。
 なんでホテルに行こうとしたんだ。
あいつの願いを叶えたかったの? でも不倫だよ?
     妊娠なんてしたら、それぐらいわかるだろ。
 それとも、子どもは武器?きっかけ?
これで私は変われる、動き出せる。みたいな。私もそうだったの?

何を確かめたかったの
 
 勝手に進めないで!
 なんでか、心が胃が、背中が痛い。
 気付いたらこらえて泣いていた。
 でも、お父さんに聞こえないようには守って泣いていた。

 確かめたい。でも確かめられない
 不倫相手のあいつに助けを求めるの?

 もう、誰 が悪いの   ? 主人 公 は誰だっけ?
 何 をどうした ら い いの。

 苦しい。思い切り泣きたい。泣いて、爆発したい。
 このままの勢いで、お父さんをぶん殴って、お母さんに質問攻めして、家を壊して、それから、それからあいつには、あいつには…。
 
 落ち着け。これは夜のせいだから。夜はネガティブになりやすいって、聞いたことがある。悲劇のヒロインぶっちゃだめだ。
 誰も私に何も言ってない。今、話してるのは私ただ一人。心も、背中も、胃も、痛がることなんてないんだから。

 そう、話してるのは一人。でも、心の中には沢山の声が渦巻いている。ほら、耳を傾けて。雑音が聞こえる。




 数分後、
 ――力のこもった背中を解き放とう、仰向けになって深呼吸をした。そういえば、深呼吸なんて、ちゃんとしたことなんてないな。体育の体操でも適当だった。なんか、恥ずかしい。
 暗闇に慣れた目が天井を映す。枕と髪が涙で濡れた。あ、ちゃんとティッシュで鼻水かんでない。鼻水が髪の毛について気持ち悪い。糸を引いていた。気持ち悪っ!恥ずかしっ!
 一気にどっと泣くと、なんだか恥ずかしい気持ちが込み上げてくる。これが夜の力か?
 まるで別人だったさっきまでの自分を思い出す。

 

 溢れてくる黒いもやが勢いを増す。俺を、私を、僕を、ここから出してくれと暴れ回る。



 
 
お母さんは、あいつとこれからをどうするんだろう。自然消滅?そんなこと出来るようなタイプには見えないけどな。もしかして、私があいつと会ってるのがバレた?そんなわけないよね。

 

 もやの中は永久の闇。誰にもわからない。
 どこをつかんでいいのかもわからない。



 落ち着いて考えれば、子ども、欲しいって思ってもいいよね。別に、何歳になっても。私がいても。でも、この状況で?
 お母さんの気持ちがわからない。

 

 全てのもやを無くすことは出来ないが、本当は気づいているだろう?確かめるまでもない。


 じゃあ、聞くの?「お母さん子ども欲しいの?」って。…変でしょ。
 それとも、「妹欲しいな~」って私から言うの?
 なんで、肝心な時ほど子どもの話ってこんなにしにくいんだろう。気を遣う。疲れる。
 
 …あいつも、こんな気持ちだったのかな。知らないけど。
 子どもの私にはわからないんだろうな。あいつ、私と過ごした時間、勝手に妄想してないよね。でも、思ったかも。「子どもがいたらこんな感じなのかなって」。私だって、「好きな人と付き合ったらこんな感じなのかなって」妄想するから、それと似てるのかも。でも、子どもは、なんかリアルだから、一緒にしちゃいけないかも。
 
 

 罪悪感?寂しい?無意識に閉じ込めた感情。
 それは願いか、希望か、救いか、わからないから、怖いんだろ。
 自分ひとりでは何もできない。未来が見通せない不安。

 

 ――あいつが父親?

 に、なる?
 私は初めてとうとう、ついに、それを思った。
 私も「こいつが父親だったら」って思うの?…無理、思えない。ありえない。だって、不倫だし。いけないことしてるし。
 
 ――不倫じゃなければ?
 
思った瞬間、背筋がぞわっとした。なんてことを思うんだ!私は自責した。
 最近の私は、私じゃない。時より、変なことを考える。

 こんなことを思うのは人間として最低か?
 そろそろ気づけ。
 それが何を意味してるかなんて、今の自分はまだ考えなく  ていいのだから。
 思うのは自由だから。

 
 あーわかんない。もし、私が不倫に気づかなかったら、何も知らないまま毎日変わらずに過ごせてたのに。

 わかるだろう。長年閉じ込めてきた、そう思わせないように自ら作り上げた心。沢山の封印してきたモノ、思い出せ。さあ、もやの中に腕を突っ込め!僕を、俺を、私を引っ張れ!


 …ごめんなさい。
 
 ごめんなさい。私、最低な人間だ。あぁ、早く寝てくれないかな。
 私の中に渦巻く何か。触れれば痛かったり、寂しかったり。
 
そうか。  そうか。


 私の眼球が大きくなった気がした。大きく目が見開かれた。唇の皮を無意識に噛む。いや、もう噛んでた。

 何もわからない。これからのことも。どうしていいかも。
 それでも、私の中に生まれた想い。
 想いなのかな。
 
 不倫のくせに。  不倫なんだよ。ふざけんなって。ほんと。

 私に相談なく、勝手に二人で話を進めてさ。

 不倫なんだよ。それなのにそう思っちゃダメじゃん。
 あいつのこと何も知らない。なんの希望がある。

 不倫なんだよ。…私の立ち位置はどこ。
 そう、それでも、止まらない。
 もう思ってしまったから。気づいてしまったから。
 



「あぁ、お父さんが邪魔なんだ」


 唇から血がにじんできた。

―続く―

 


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