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声の力・文字の力 vol.1💬「文字の力」

普段、我々は文字(文書)を日常生活や仕事で何気なく使っていますが、これは大変な人類の発明で、文字がなければ、現在の社会そのものが成り立ちません。

文字(文書)の特性については皆さん自明のことではありますが、改めてその価値を知ると様々な気付きもあると思いますので、文字(文書)の特性を以下の7つにまとめてみました。

①時間の超越性
②正確性
③空間の遠隔伝達性 
④転移性
⑤拡散性
⑥静止性
⑦反復性

1つずつ見ていきます。

①時間の超越性

まず1つ目が、時間の超越性です。

音声の場合、話すとすぐに音声そのものは無くなってしまいますが、文字だと、メッセージを紙などの媒体に転記できるので、その場だけではなく、時間を越えてメッセージを残すことができます。

電話で大事な要件を承った際の電話メモ、ミスをして先輩から注意されたことを忘れないよう付せんにメモ書きする、などがこれに当たります。

②正確性

2つ目ですが、業務指示を誰かに伝えたい際に、もし文字が発明されていなければ、声が聞こえる周りの人にしかメッセージが伝わりません。

また内容面でも、相手にきちんと伝わり、相手が正しく理解しているか不安です。この点、例えば業務指示をメールで送れば、その内容を正確に伝えることができます。

③空間の遠隔伝達性

文字であれば、手紙や文書などを送付することで、遠くにいる相手にもメッセージを伝えることができます。伝書鳩にメモを付けて伝達することもこれに当たります。

この点、「②正確性」でも説明しましたが、音声は自分が発した地点からたいして遠くまで届きません。

④転移性

音声は影も形もなくなってしまいますが、文字であれば、自由に、紙などの媒体に書くことができます。

古くはエジプトではパピルス、中国では竹に(蔡倫が発明した後は紙に)、日本では紙が一般化する前は木が書記媒体として使われていました(遺跡から出土する木簡など)。

これも重要な文字の特性で、これにより物の数の計測・管理・帳簿の作成や、詩・小説・物語などの文学が生まれるとともに、政治や行政の世界では、法令・制度を整えることも文字が発明されて初めて可能となりました。

⑤拡散性

これは、「①時間の超越性」と「④転移性」とセットでありますが、紙などの媒体にメッセージを書いて掲示することで、多くの人々にメッセージを一度に伝えることができます(ブロードキャスティング機能)。

現在のオフィスフロア案内や、「トイレをきれいに使おう」などの掲示物もそうですし、一休さんの「このはしわたるべからず」の立て札も同じです。

余談ですが、2000年に石川県河北郡津幡町の加茂遺跡で、849年の日本で最古の(多分世界でも)現存する立て札が発見されました(牓示札、縦23.7cm・横61.3cm・厚1.7cm)。国(当時の県)から郡(市町村)に宛てられた、文書の禁制(通達)が掲示されたもので、内容は田植えを5月30日までに終わらせろとか、酒を飲み過ぎて暴れるなといったものでした。

⑥静止性  ⑦反復性

音声であれば、すぐに消えてしまいますが、文字だと紙などの媒体に記すことでメッセージを止め置くことができます(映像でも静止画があるが、音声を静止することはできない)。

また、文字だと、何度でも繰り返し同じメッセージを参照できるという特性もあります。音声の場合であれば、録音しない限りは一回限りで消えてしまいます。また、音声であれば一度メッセージを発すると訂正することができませんが、文字であれば出す前にもう一度見直すことも可能です。

この静止・反復性という文字の特性は、人間の思考形態をも変えました。

また、別の回に詳しく説明しますが、文字がない文化(無文字文化)の人々は、物事を分析したり、系統立てて考えたり、分類したり、因果関係や三段論法など論理的に考えることができません。文字文化を持った人間がこうした論理力を得たのは文字の力です。

音声だと、伝える側も聞く側もやりとりできるメッセージ量に限界がありますが、文字ではそれが、理論的には無限にメッセージをやりとりすることができます。

内容を膨大に止め置くことが可能となったことで、

・何度でも立ち止まって考えなおすことができる(読んでいる内容がわからなくなっても、再度遡って内容を確認することができる)
・膨大な情報を蓄積できる
・多くの情報からじっくりと内容を分析できる
・お互いに情報を共有できることで、相手と議論できる

といったことなどが可能となりました。

また、文字を読むことは能動的で、自分から対象に働きかける行為ですが、聞くという行為は受身です。文字が発明されて以降、高度な文化や文明、国家が誕生しますが、これはもちろん、文字を使って記録することが可能となったことで高度な文学や制度・情報伝達システムを作り上げられるようになったことが大きく、人間のマインド的にも文字の発明によって能動的な向上心・進取の精神などが育まれていったと思います。


さて、本日は文字について7つの特性を見てきました。普段何気なく使っている文字について、改めてそのすごさを再確認していただけたかと思います。

この「声の力・文字の力」シリーズは、今後も数回にわたって続けてまいります。

今回は「文字」を中心に見ましたが、その裏返しで、次回は「声(音声)」を中心に見ていきたいと思います。

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日本古代史の研究を14年も経験され、現在はメディアグループの責任者である「小林さん👓」の「こばなし」でございました。

GW中に多くの書籍からインスピレーションを受けたという小林さんの新連載。ぜひ、次回もお楽しみに。

▼過去の回はこちら


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