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稲本稲三
2021年8月8日 09:25
イヤホンから流れる、東京の汗。8時間労働に従事した後、各々、葛藤を持ち寄る大人たちの声。吊革に掴まる僕と同じ。視界に入る大人も、素知らぬ顔をしながら、一つの不安でつながっている。僕たちにラジオネームはないけれど、実はつながっている。あなたの話は聞けなくても、労う気持ちもってるよ。
2019年12月27日 18:20
「ドアが閉まります。ご注意ください」ホームから彼を見つめる彼女。彼はスマホの画面とにらめっこ。電車が進む。距離が離れる。彼女は目で追う彼の瞳。僕は右手の荷物を落とす。気づいた彼は視線を向ける。窓の外にいる彼女と目が合い、彼は咄嗟に手を振った。彼女は笑顔で右手を上げた。僕はおせっかいだったかな。
2019年12月24日 06:16
ドアが開いた、乗換案内。座席を目指して徒競走。角の席が1等賞で、座れなかったら残念賞。戦場地に向かうまでの間、各々休む戦士たち。スマホの中には愛しい顔と、甘美なメロディーが流れる。何度も何度も奮い立たせて、体にムチ打つ朝の時間。都会の駅に着いたときには、顔が逞しくなっていた。
2019年12月23日 19:36
人から離れ、人に囲まれ、人の目も見ない午後10時。今日もメトロに身を預け、密かに語りかけている。喋りすぎたかな? 無理してたかな?どれだけ語りかけてもさ、答えは出してくれないな。でも、聞いてくれてありがとう。改札抜けたら忘れるね。月も見えない空の下、今夜もぐっすり寝れそうだ。
2019年12月22日 17:47
以前君と会った時、次の駅で乗ってきた。ぼさぼさ頭を風になびかせ、私と目が合い、手を振った。別に、次の駅だけじゃない。君が通う歯医者がある駅も、好きな本屋がある駅も、ドアが開くたび、期待する。各駅停車が心を震わせ、君が幻想になっていく。窓ガラスに映った私は、すっかり惨めになっていた。次は終点・三鷹駅。