い〜の

ポジティブでフットワークを軽くしたいネガティブ思考者。

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    2020年5月開催、 #みんなでポエム書いてみた 企画に寄せていただいた作品をまとめています。

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詩集 『鯨骨生物群集』 目次

彼女を隠してあげられる世界を作りたかった 彼を守ってあげられる世界を望んでいた 『星宿』 せいしゅく : 星座。ほしのやどり 『晨光』 しんこう : あさひのひかり 『賞翫』しょうがん : めでもてあそぶこと。 『風霜』 ふうそう : 霜気を含んだ冬の北風。きびしくはげしい苦難。 『痛楚』つうそ : いたみ苦しむこと。 『闃然』げきぜん : 静かでさみしいさま。 『縹渺』ひょうびょう : ほのかに見えるさま。広くかぎりのないさま。

    • 夜盲

      夜を何度も通り過ぎたって 戻れない過去が居座った。 振り出しなんて見つからなくって 揺れないまま 明日に触れてく。 死ぬのだろうか。 言えないままだとしても。 笑ってみた。 上手く誤魔化せないなあ。 明日はどうだ。 朝が来るんだ。 願ってもいないくせに。 春を望んだ。 あなたがいないくせに。 夜を何度もやり過ごしたって 聞こえない声が耳に残った。 いつしか僕だけが年老いて 触れないまま 流れ落ちてく。 叶うのだろうか。 進み続けたとしても。 巫山戯てみた。 上手く出来

      • 夏めいていく世界に

        自分自身を定義するものが、他者との交流の中からしか生まれないのなら 絶交を自殺と同義だと捉えることを誰が否定できるのだろうか。 言葉を積み重ねた。思想を積み重ねた。 自ら吐き捨てた何かが、自らを定義する何かに生まれ変わった。 惨たらしい一日が、惨たらしいままに終わってくれたのなら救いだ。 言葉をすり潰した。思想をすり潰した。 自ら投げ捨てた何かが、自らを殺傷する何かに生まれ変わった。 時間は流れる。身体は老いていく。 輝きは遠のき、暗がりも遂には過ぎ去った。 かつて蒔いた種子

        • 歩抗者

          雨に沈む 失意と熱 空が眠り 世界が終わる 昨日叫んでいたアナウンサーが 今日は穏やかに人の死を告げた 悲しみに暮れた去年が過ぎれば 誰かに向かって罵声を飛ばす そういうものか そういうものか 雨が消える 乾いた熱 人が眠り 世界が笑う 飛び出した子供に親が叫んだ 囲んだ誰かはレンズを向ける 幸福に満ちた日々が終われば 誰かの歓喜に冷笑を向ける そういうものか そういうものか 雨が落ちる 歩いていく 眠りにつく 歩いていく そういうものか そういうものか

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        詩集 『鯨骨生物群集』 目次

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        記事

          緩やかな新しさ

          「25歳を過ぎたらあっという間に30歳になってるよ」 学生から社会人と身分を変え、それにも慣れ親しんできた頃に先輩にそう言われた。 安い大衆居酒屋ばかりではなく、ある程度お高いバーなんていうものに行きだしたのも確かその頃だったと思う。 派手過ぎない照明を纏った店内で、騒ぐでもなく静かにお酒を酌み交わす空間。 そういう雰囲気でしか話せないこともあると知った僕は、大人になったものだと、わざわざタクシーを使って帰ったりした。 「20歳過ぎたら年を取るのが早くなる」 大学時代にも似た

          緩やかな新しさ

          春窓

          三番線に走った思想詰った鋼色 見る影もないほど散った 哲学者の遅延証明 握った愚者の舌打ちで 誰かの悲鳴を掻き消された 息が詰まるって思った いっそ塞いでくれたら あの日の春に帰れるか ひしゃげた人形があった 朝焼けは明日を照らした 昨日に差すのは今日の月 君の感情はどこだ 僕の感情はどこだ ひしゃげた人形が増えた 冷たくなった君の手に 僕の温度はもう、無い 取り零した青い輝きは あの三番線に消えてく 心が乾くって思った いっそ乾いてくれたら こんな詩を捨てられるか

          『春忘』

          冬が散った 風が凪いだ 色づく空に溶ける思いだ さよならって きっとこんな憂い雲に似てる 形があって それが変わって 僕らの心みたいだなんて 悲しまないで 僕は君を覚えている 悲しみの上塗りに喜びは使わない 取り戻せないことが 何よりも怖いことだって知っているから 本当は僕も幸福であり続けたいけれど 全部が嘘になってしまいそうで 笑い飛ばしてくれてもいいよ 声が届かない距離まできた 思い出も薄れる頃合いだ だから少しだけ 立ち止まろう 生が散った 死を仰いだ 春めく花

          『春忘』

          便座とバスタオルと宇宙

          便座を上げないで使用するようになったのは、当時の恋人のおかげだ。 「そんなの当たり前でしょ」 なんて彼女にしてはいやに強い口調で怒られた。 トイレ掃除は僕の担当だから良いじゃないかとも思ってたけれど、どうやらそういう問題ではないらしかった。 うんうん、ごめんね。 次からは使い終わったらちゃんと蓋を閉じるようにします。 「そうじゃなくて座ってしてって言ってるの」 はいはい、ごめんね。 そういう何気ない記憶を、さすがにトイレに行くたびにではないけれど、ふと思い出すことがある。

          便座とバスタオルと宇宙

          だって、春だもんね

          遠い日に、僕は憧れを抱いていた。 決して洗練されていたわけではない。けれども惹きつけられる。 そういう文章を日々綴っていた。 今の自分があの人に近づけているのかは分からない。 本当にあっけなくその人との連絡は途絶え、しばらくすると近親の方が逝去の知らせを投稿した。 その文章は、過去に綴られたすべての言葉よりも機械的で淡々としていた。 そこで読む文章のどれよりも衝撃を受けたのは何の皮肉になるだろう。 297日。 僕は最初から読み返した。 ーーー 毎日文章を書くことの意味を、

          だって、春だもんね

          春患い

          花色に触れる、片割れの傷 過去の名残と、嘲るなかれ 永遠は無いと、失って知る 過去の人だと、忘れるなかれ ーーー もう随分と慣れしまった自分がいる。 失うことにではない。 忘れゆくことでもない。 この生活が日常になってしまったこと。 あれほど恐れいていた、悲しんでいた 貴女のいない未来をやり過ごしてきたこと。 「時間が貴方の喪失を癒やしてくれる」 「いつかまた大切だと思う人に巡り会える」 そういった類の言葉たちに苛立ちを覚えた。 けれど掛けてくれた人に罪はない。 そ

          ふり

          いつも何かを探している そんなふりをしている 見つけるのが怖いんだ 届いてしまうのが怖いんだ いつか人は死んでしまう そんな当たり前を恐れている 見つからないままは怖いんだ 届かないままは怖いんだ そうやってずっと恐れている そんなふりをしている 成し遂げるのが怖いんだ 叶ってしまうのが怖いんだ 歩き出すのは見返したかったから 探し求めるのは寂しかったから 立ち上がるのは悔しかったから 悲しむのは悲しかったから そんなふりをしている どうでもいいと思える夜が増えた

          来年もたぶん

          天気予報が冬を告げるから、もう冬なんだと思うことにした。 春を告げるにはまだしばらくかかりそうだと、立ち枯れの桜が今、譫言のように、他人事のように、遺言のように。 街を彩るイルミネーションを見て、もう冬なんだと思うことにした群衆。 綺麗と思うその感性の外で、星は雲に隠れた。 この場所ではあまりに無力だと、この時代ではあまりに非力だと、星が嘆くことは無いけれど、かつてはその光が標となった事実だけは、この街の、このイルミネーションの、この群衆の無関心さに殺されようとしている。

          来年もたぶん

          #呑みながら書きました の亜種として#呑みながら話します ツイキャス で 家帰ってからなので21時くらいから。 https://twitcasting.tv/iino_note

          #呑みながら書きました の亜種として#呑みながら話します ツイキャス で 家帰ってからなので21時くらいから。 https://twitcasting.tv/iino_note

          冬光、相照らす

          蒼穹の塊を細塵に砕き、薄く薄く、深寒の上空に伸ばし描きたるが今日の空模様である。 こんな一文を仕事中にふと思いつき、消えぬ前に慌てて打鍵した。 裏口で煙草を吹かしながら頭の内で再考する。 仄暗い雲を敷き詰め、天照らすと言われる光さえも弱々しく、遠景を形作る木々の緑も、人工建造物も、活動する人も、皆一様に褪せて見える。 空の青と、付随する雲を白く創り出したのが神であるなら、彼はきっと優秀な美的感覚を持っているのだろう。 一本目を灰にし、二本目に火をつける。 当たり前のことをと

          冬光、相照らす

          日入帯食

          自然の光が、人間の光に追いやられ、夜が来た。 色を持たない人間が、色を持ち 寄りかかる暗闇を跳ね除けようと、色に染まる。 戻らない日々は記憶として まだ見ぬ日々は不安として 残らない記憶は 拭えない不安は 夜を待つ人間に罪はない。 けれど功が生まれるはずもない。 真空として動かずにいる。 そこを夜が往来するばかり。 私はあなたを映す鏡ではない 私はあなたを記す言葉ではない 私はあなたを潤す水ではない 私はあなたを救う啓示ではない 人間の光が、自然の光に追いやられ、朝が

          日入帯食

          短編小説 『昇花』

          名も知らぬ種を埋え、芽が出て、すらすらと茎を伸ばす。 その間に私は花曇りだからと大学を辞め、花霞だからとアルバイトも辞め、一人の人間に戻った。 人住まぬ山の木々が、今この瞬間、風を受けて葉を流していることを思う。 遠き太平の沖で、今この瞬間、春陽を海面に携えていることを思う。 一人の人間に戻った私は、想像上の山海と同じだ。 この街のこの部屋で、今私という人間がどう生きているかを知る人間はいない。 すらすらと伸びた茎の先に小さな蕾が生まれた。 花の名前は「まくう」という。 妙な

          短編小説 『昇花』