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春患い

花色に触れる、片割れの傷
過去の名残と、嘲るなかれ

永遠は無いと、失って知る
過去の人だと、忘れるなかれ

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もう随分と慣れしまった自分がいる。
失うことにではない。
忘れゆくことでもない。
この生活が日常になってしまったこと。
あれほど恐れいていた、悲しんでいた
貴女のいない未来をやり過ごしてきたこと。

「時間が貴方の喪失を癒やしてくれる」
「いつかまた大切だと思う人に巡り会える」

そういった類の言葉たちに苛立ちを覚えた。
けれど掛けてくれた人に罪はない。
そう思えるようになったのは本当に最近のことで
良くも悪くも変化している自分を自覚する。

「私が死んでも貴方が死んでも、世界はきっと」

君のその言葉を嘘にしたくて、僕は変わったのではない。
自覚できない変化に揺蕩って、僕はいない君に笑いたい。

「変わらないなんて、そんなことあるかよ」

ーーー


『春患い』

夜を着古した感傷
柔らかい手ざわり
声だと気づいた時
風に紛れ冬に流れ

花色に触れる、片割れの傷
過去の名残と、嘲るなかれ

永遠は無いと、失って知る
過去の人だと、忘れるなかれ

言葉は尽きて亡失
巡る想いは絶えず
また一つ歳を重ね
声も色もいつしか

花色に触れる、片割れの傷
過去の名残と、嘲るなかれ

永遠は無いと、失って知る
過去の人だと、忘れるなかれ

温みに揺れる、蕭々の遺志
千古に不易と、驕るなかれ

薫風に吹かれ、喪失を知る
過去の想いと、忘れるなかれ

過去の人だと、忘れるなかれ

春が芽吹くと、また

冬を独り、通り過ぎる


貴方のその気持をいつか僕も 誰かに返せたらなと思います。