見出し画像

来年もたぶん

天気予報が冬を告げるから、もう冬なんだと思うことにした。
春を告げるにはまだしばらくかかりそうだと、立ち枯れの桜が今、譫言のように、他人事のように、遺言のように。

街を彩るイルミネーションを見て、もう冬なんだと思うことにした群衆。
綺麗と思うその感性の外で、星は雲に隠れた。
この場所ではあまりに無力だと、この時代ではあまりに非力だと、星が嘆くことは無いけれど、かつてはその光が標となった事実だけは、この街の、このイルミネーションの、この群衆の無関心さに殺されようとしている。

夢は踊る。けれど光は当たらず。
才は語る。けれど幕は上がらず。
人は驕る。けれど笑は絶やさず。
人は生きる。けれど

このままでいいのだろうか。
この漠然とした不安を打ち消そうと、朝な夕なに僕らは活動する。
打ち消すことも、掻き消すことも出来ないと気づいた時に
僕らはやっと不安と寄り添う。
夜に星が瞬くように、朝に光が差すように、世の理を悟った如く
僕らはやっと不安と寄り添う。
過去の苦しみは忘れた。
怒りも悲しみも見なかったことにした。
寄り添った不安がそれらの正体だと分かると
また打ち消そうとするんだろう。

夢は踊る。けれど光は当たらず。
才は語る。けれど幕は上がらず。
人は驕る。けれど笑は絶やさず。
人は生きる。けれど

雑踏に不安の匂いが立ち込めるから、言葉では尽くせないと諦めるから、白い不織布で口元を覆うのならばまだ救いはあったのかもしれない。
このままでいいのだろうか。
今出来ることがあるのではないか。
どうやって生きようか。
どうやって楽しもうか。
脅迫じみた焦燥は、手の中で静かに染み付いた。
繋がる術を持っているはずの僕らは、遂に答えを出せないまま罪なき嘘を付く。
「たぶん大丈夫だ」

夢は踊る。けれど光は当たらず。
才は語る。けれど幕は上がらず。
人は驕る。けれど笑は絶やさず。
人は生きる。けれど

無聊な日々に立ち眩み、貪る楽は無限にあらず。
この手に隠したはずの、誰にも見せないと心情は
一日数度の消毒液であっけなく死んでしまった。
それでも残った誰かの温み。
棄てる筈だった誰かの言葉。
棄てられる筈もない誰かの夢。
沢山の誰か。
僕を生かしてくれた誰か。
付いた嘘に罪は無い。
罪が無いのなら何度でも付こう。
こびりつく不安を全部、手の中にしまって。

夢は踊る。けれど光は当たらず。
才は語る。けれど幕は上がらず。
人は驕る。けれど笑は絶やさず。
人は生きる。けれど

「たぶん大丈夫だ」





貴方のその気持をいつか僕も 誰かに返せたらなと思います。