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夏めいていく世界に

夏めいていく世界に

自分自身を定義するものが、他者との交流の中からしか生まれないのなら
絶交を自殺と同義だと捉えることを誰が否定できるのだろうか。
言葉を積み重ねた。思想を積み重ねた。
自ら吐き捨てた何かが、自らを定義する何かに生まれ変わった。
惨たらしい一日が、惨たらしいままに終わってくれたのなら救いだ。
言葉をすり潰した。思想をすり潰した。
自ら投げ捨てた何かが、自らを殺傷する何かに生まれ変わった。
時間は流れる

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冬光、相照らす

冬光、相照らす

蒼穹の塊を細塵に砕き、薄く薄く、深寒の上空に伸ばし描きたるが今日の空模様である。

こんな一文を仕事中にふと思いつき、消えぬ前に慌てて打鍵した。
裏口で煙草を吹かしながら頭の内で再考する。
仄暗い雲を敷き詰め、天照らすと言われる光さえも弱々しく、遠景を形作る木々の緑も、人工建造物も、活動する人も、皆一様に褪せて見える。
空の青と、付随する雲を白く創り出したのが神であるなら、彼はきっと優秀な美的感覚

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フィクション

フィクション

「ありがとう ごめんね」

この二つの単語を繋ぐもの。
andなのかbutなのか。
わからないままにずっと生きている。



あの年
高架橋の下では、夏が息絶えようとしていた。
紫煙を燻らせ感傷に浸るような若気を、大人になったと思い込める大胆さ。
命あるものには終わりがあると、言葉だけは知っていた。
過ぎていく季節に、その言葉を重ねてみる。
夏も、もう終わりだね。
僕ら二人隠れるように笑い合って

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雨夜

雨夜

雨が降り始めたことに気がついた時、僕はぼんやりと本に目を落としていた。

どれだけ丁寧に文字を追ってみても言葉という記号の枠を越えないままに頭の中で消化されていく。
そんな日もあるかと、お構いなしに頁をめくっていく。

開けた窓から流れる雨音の中にこそ、何か意味のあるものが混じっているのではないかと思えた。
手にした本を今日中に読了しなければならないというわけでもなかった。
ただ雨の降る夜に言葉に

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このままでいいやなんて

このままでいいやなんて

去年貰ったアロマキャンドルは
結局火をつけることもないままに
積もった埃が燃え滓のようにじっとして息を潜めている。

夢の様な春が終わり、夢の様な雨が降れば、夢の様な夏が始まる。

履き古したジーンズで
見慣れたはずの街を歩いても
必ずどこかが変わっていて
惨めな気持ちが歩みを鈍らせる。

ここが今、どん底だって、そう思い込んで
生きていきたいんだって
叶うはずもないんだけれど

ここが今、絶頂だ

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眠れない夜に

眠れない夜に

月陰る、風の強い夜だ。
幹線道路を大型のトラックが何台も過ぎていく。
向かう先ははっきりとしているのに
一体どこへ向かうというのだろう。
ふとそんなことを考える。

歪だと思っていた僕の感情が
そこまでではないと知った時
ひどく安堵したことを今でもはっきりと覚えている。
あの場所では確かに、僕は普通の人間でいられた。

とめどない言葉と言葉の応酬に
僕らはすっかり摩耗してしまい
見せかけだけの形だ

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呟きのような小ささで

呟きのような小ささで

満月が映える夜に、一人ではないことを確認するため
僕らはそれを瞳に、レンズに、タイムラインに残す。
孤独ではないと、誰かも見上げていると
繋がりを求めただ、感傷を求めている。

傲慢に発達した無償の愛はナイフに変わり
振りかざし突き刺しても血は流れない。
既に血も通わない偶像はただひび割れ
足蹴にすれば優越感は夜に満ちる。

心ない言葉をぶつけ合った。
心じゃないならどこから生まれた。
喉元からは

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空白に脅されている

空白に脅されている

違う。

違う。違う。違う。

僕が僕に囁く。
分かっている。ただの自虐だって。まるで自分の中にもう一人いるように見せかけてこうして問答している。

違う。僕が書きたかったのはこんなことじゃない。

違わない。
これが書きたかったことだ。
ただ逃げ場所を作っているだけだ。
本当はもっとちゃんと書けるんだって。
今の自分はまだ未熟だから仕方ないんだって。

言い訳なんていくらでも見つかる。
理由なん

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唯物論

唯物論

道の真ん中でツバメが死んでいた。
全身が雨に濡れてしっとりとしている。
ぴくりとも動かない。
それを見つけた僕もしばらくそこでじっとしていた。

このつばめが雄なのか雌なのか
子供なのか親なのか
詳しくない僕にはそれすら判別できない。

ふと、もう会えない人のことを思い出す。
貴方の言葉はとげとげしい。
ようで実は丸い。
なんて言った人。

すっかり日が暮れた夜にその日始めて
今日は良い天気だね。

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代替人

代替人

何が苦しいのか
何が痛いのか
わからないままに
苦痛に怯えている

これが苦しいと
これが痛むと
知った素振りで
言葉にしている

誰かの歌う歌は
自分に向けたことではない
誰かの紡ぐ詩は
自分を写したものではない

それでも僕らは共感する
自分のことだと涙する
自分のものだと息をつく
救われたように思えてしまう

自分が諦めた夢を
誰かに託した気になった
自分が捨てた憧れを
誰かに引き継いだ気に

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春という季節が生み出す雑感

春という季節が生み出す雑感

一つ忘れるたびに気がつくこと。
一つ覚えるたびに思い出すこと。
一つ気がつくたびに忘れること。
僕の中に潜むもの。

呼吸はやがて意識しなければ出来なくなった。
心と呼ばれるものは随分と欲張りだと思う。

昼過ぎになって、新しいインスタントコーヒーの瓶を開けた。
漂ってくる香りは僕にある種の寂しさを想起させる。
それは小学生の頃の習い事から帰る途中の車の中だったり、
深夜のコンビニでふと知っている

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遺影

遺影

見つめていたはずのものが、ぼんやりとし始めた。
目の前にいるはずなのに、笑っているのか困っているのか
それとも泣いているのかも分からなくて。

広がる世界とその真ん中の君が歪み始めたのは
ああ、僕が泣いているからか。

空が落としくれるものはいつだって綺麗で
流れる雨も落ちる花も
僕らが吐き出した想いがふわりふわりと
昇っていて還ってくる。

僕らの心はいつも所在なさ気で
留めることも形にすること

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若潮

どんなマスに止まっても
振り出しに戻るみたいな
間抜けで愚かな僕です。

どうか僕を叱ってください。
どうか僕を責めてください。

春の夜はあやふやすぎて
同じように意思あやふやな僕は
この夜に溶けてなくなってしまいそうです。

今すぐに手を引いて
あなたをひっぱり出すから。
どうか私に手を伸ばしてください。

僕の目の前に対の花。
彼岸の君と此岸の僕。
昨日と明日の境界線。
夢の終わりと春の鳥。

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独り言

独り言

屋上の交差点。
声と声。
広い空と、白い雲。
寝転がる僕ら。
遠い春の日。

「今日は随分飲み過ぎたなあ、なんて呟く程度に僕はつまらない人間になってしまった。路地裏でうずくまっている彼女と、看板に寄りかかった中年の男性とのその間を我がもの顔でカラスの群れが歩くんだ」

「過去が未来の炎の先でぼんやり滲んだ。だって積み上げてきたものがよくわからないままに、今の僕なんだったいうのなら一体過去の僕は何を

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